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第6話
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私たちは朝を迎え、再び愛を確かめ合った。
男の肌に包まれる悦び。私は女を取り戻した。
遅めのランチをお洒落なカフェで摂った。
「ねえねえ、このかぼちゃのスープ、凄く美味しいよ、味見してみる?」
「沙恵はかわいいね?」
「どうして?」
「パンプキンスープとは言わず、かぼちゃのスープというところが。
そんな沙恵が好きだよ」
私はその言葉に満足し、自分のスプーンでスープを掬い、テーブルを汚さないよう、左手を添えて彼の口に入れてあげた。
「どう? 美味しい?」
「凄く美味しいよ。おかわり」
そう言って口を寄せる満。
私は再び彼の口にそれを入れた。
少し照れ臭かったが、こんなことを彼とするのが私の忘れていた夢だった。
それが今、叶っている。
満が思いがけないことを言った。
「これから沙恵のお母さんにご挨拶したいんだけど、駄目かな?」
彼はクラブ・サンドを食べながらそう言った。
嘘ではなかった。昨夜、彼が言ったあの言葉。
彼は本気で私とのお付き合いを真剣に考えてくれていた。
「結婚を前提に付き合って欲しい」
私はかぼちゃスープを飲みながら、上目遣いに満を見た。
「いいけど、どうして?」
私はわざと、とぼけてみせた。
彼の答えを知っていながら、もう一度彼にそれを言わせたいがために・・・。
「沙恵のお母さんに、「結婚を前提に、お嬢さんとお付き合いさせて下さい」と言うために決まっているだろう?
昨日の夜、そう言ったじゃないか?
やだなあ、覚えてないの?
酔っぱらって言ったわけではないよ、僕は真剣なんだ」
私の目の前がバラ色に染まった。
夢を見ているようだった。白馬の王子様が今、私の目の前にいる。
その言葉、何度でも聞きたい。録音しておきたいくらいだった。
私は胸が熱くなった。
性格も趣味も、食べ物も学歴も同じ。
価値観も服のセンスも合っている。
イケメンでスポーツマン。高身長、高学歴、高収入の三高揃い。
やさしくて思い遣りがあり、カラダの相性も良かった。
これほどの結婚相手が他に存在するだろうか?
私は天にも昇る想いだった。
「手土産は何がいいかなあ? お母さんは何が好きなの?」
「何でも喜ぶと思うわ。みっちゃんからのプレゼントなら」
「じゃあ沙恵の好きな物にしよう。それなら沙恵にも喜んでもらえるしね?」
「それなら『プモリ』のザッハトルテがいい!
すごく美味しいんだよ!」
私は少女のようにはしゃいだ。
「あはは、本当に美味しそうだね? 沙恵が言うと。
じゃあ、それを買って行こう」
「それから「窯焼きシュークリーム」もね?
お塩の結晶が散らしてあるの、それが甘いクリームを引き立ててくれて、最高なんだからあ!」
「実は俺も好きなんだよ、ザッハトルテもシュークリームも」
「みっちゃんはスィーツ男子なの?」
「スィーツも沙恵も好きだよ」
「ばか・・・」
私たちはケーキを買った。
満が言った。
「花も買って行こうよ」
「母はお花も大好きなの。凄く喜ぶと思うわ」
満は花束も買ってくれた。
母のことまで大切にしてくれる満に、私は心が震えた。
家に着いた。
母も女である、予めLINEで彼を連れて行くことを伝えておいたので、ばっちりとメイクも決まっていた。
「ただいまー、こちらが結城満さん。
東日本銀行の本店にお勤めなの。前に話したあのネギの人。偶然、私の窓口に来てね? それでお付き合いすることになったの」
「ああ、あのネギの人? 沙恵、イケメンさんじゃないの!
沙恵の母です、娘がお世話になります」
「ネギの人? ああ、スーパーで。
ネギの人、結城満です。はじめまして、お義母さん」
「お義母さん」と言ったその言葉に、私と母は手を取りあって喜びそうだった。
「夕べは大変娘がお世話になったようで、うふっ。
沙恵、良かったわね?」
母は意味深な顔で笑っていた。
昨日の今日である、想像には難くない。
私と満は顔から火が出そうだった。
彼は礼儀正しく、母に名刺を差し出した。
「それからこれはケーキとお花です。
沙恵さんからお義母さんのお好きな物を伺って、選ばさせていただきました。
お近づきの印として」
「まあキレイなお花! ありがとうございます。
さあどうぞ、上がって下さい。
紅茶でいいかしら? それともビール? ワインも日本酒もあるわよ。
もうすぐお寿司が届くはずだから、ラクにして下さいね」
リビングに入ると満は言った。
そう、あのセリフを。
「お義母さん、沙恵さんと結婚を前提にお付き合いさせて下さい。
よろしくお願いします!」
彼は母に向かって深々と頭を下げた。
私は迂闊にも泣いてしまい、思わず両手で顔を覆ってしまった。
「いいの? 娘で? 娘はもういい歳なのよ?
あなたほどのイケメンさんならウチの娘じゃなくてもいいんじゃないの? 他に沢山いるでしょうに」
「いえ、私もいい歳ですから。
それに僕は沙恵さんのすべてが好きなんです。一目惚れでした!」
「まあ、それはそれは。お熱いことで。
ごめんなさいね、いじわるなことを言って。
娘は私にとってかけがえのないものだから。
私からも娘をよろしくお願いします。
母親の私が言うのもなんですけど、娘はとてもいい奥さんになると思います。だって私の娘ですから。
あらやだ、まだ結婚すると決まったわけじゃないのにね、アハハハハ」
その時、母の目にも薄っすらと涙が浮かんでいた。
「お父様にもご挨拶させて下さい」
満は父の仏壇の前に進み、ロウソクに火を灯し、御線香を手向け、仏鐘を鳴らした。
そして手を合わせ、
「お義父さん、初めまして。結城満と申します。
お嬢さんを僕にまかせて下さい」
と言った。
母も私も、泣いた。
父の遺影がうれしそうに笑っていた。
お寿司の出前も届き、3人の酒盛りが始まった。
母はすっかり満と意気投合し、彼に言った。
「そうだ、今日はウチに泊まっていけば?
どうせ明日は日曜日だし」
「いいんですか? じゃあお言葉に甘えて」
「沙恵の部屋は狭いから、ふたりで客間で寝るといいわ。
私はお邪魔にならないように、沙恵のベッドで寝るから。
沙恵、それでいいわよね?」
「う、うん」
「それじゃあ今日は前祝ね。お寿司もたくさん食べてね。
そうだ、冷蔵庫に松前漬があったはずだから持ってくるわね?
沙恵、満さんに冷たいおビールを出してあげて」
母はいつの間にか、彼を下の名前で呼んでいた。
こんなにうれしそうな母を見たのは久しぶりだった。
家に男性がいることの安心感と安らぎ。
私も母も、信じられないくらいにしあわせだった。
男の肌に包まれる悦び。私は女を取り戻した。
遅めのランチをお洒落なカフェで摂った。
「ねえねえ、このかぼちゃのスープ、凄く美味しいよ、味見してみる?」
「沙恵はかわいいね?」
「どうして?」
「パンプキンスープとは言わず、かぼちゃのスープというところが。
そんな沙恵が好きだよ」
私はその言葉に満足し、自分のスプーンでスープを掬い、テーブルを汚さないよう、左手を添えて彼の口に入れてあげた。
「どう? 美味しい?」
「凄く美味しいよ。おかわり」
そう言って口を寄せる満。
私は再び彼の口にそれを入れた。
少し照れ臭かったが、こんなことを彼とするのが私の忘れていた夢だった。
それが今、叶っている。
満が思いがけないことを言った。
「これから沙恵のお母さんにご挨拶したいんだけど、駄目かな?」
彼はクラブ・サンドを食べながらそう言った。
嘘ではなかった。昨夜、彼が言ったあの言葉。
彼は本気で私とのお付き合いを真剣に考えてくれていた。
「結婚を前提に付き合って欲しい」
私はかぼちゃスープを飲みながら、上目遣いに満を見た。
「いいけど、どうして?」
私はわざと、とぼけてみせた。
彼の答えを知っていながら、もう一度彼にそれを言わせたいがために・・・。
「沙恵のお母さんに、「結婚を前提に、お嬢さんとお付き合いさせて下さい」と言うために決まっているだろう?
昨日の夜、そう言ったじゃないか?
やだなあ、覚えてないの?
酔っぱらって言ったわけではないよ、僕は真剣なんだ」
私の目の前がバラ色に染まった。
夢を見ているようだった。白馬の王子様が今、私の目の前にいる。
その言葉、何度でも聞きたい。録音しておきたいくらいだった。
私は胸が熱くなった。
性格も趣味も、食べ物も学歴も同じ。
価値観も服のセンスも合っている。
イケメンでスポーツマン。高身長、高学歴、高収入の三高揃い。
やさしくて思い遣りがあり、カラダの相性も良かった。
これほどの結婚相手が他に存在するだろうか?
私は天にも昇る想いだった。
「手土産は何がいいかなあ? お母さんは何が好きなの?」
「何でも喜ぶと思うわ。みっちゃんからのプレゼントなら」
「じゃあ沙恵の好きな物にしよう。それなら沙恵にも喜んでもらえるしね?」
「それなら『プモリ』のザッハトルテがいい!
すごく美味しいんだよ!」
私は少女のようにはしゃいだ。
「あはは、本当に美味しそうだね? 沙恵が言うと。
じゃあ、それを買って行こう」
「それから「窯焼きシュークリーム」もね?
お塩の結晶が散らしてあるの、それが甘いクリームを引き立ててくれて、最高なんだからあ!」
「実は俺も好きなんだよ、ザッハトルテもシュークリームも」
「みっちゃんはスィーツ男子なの?」
「スィーツも沙恵も好きだよ」
「ばか・・・」
私たちはケーキを買った。
満が言った。
「花も買って行こうよ」
「母はお花も大好きなの。凄く喜ぶと思うわ」
満は花束も買ってくれた。
母のことまで大切にしてくれる満に、私は心が震えた。
家に着いた。
母も女である、予めLINEで彼を連れて行くことを伝えておいたので、ばっちりとメイクも決まっていた。
「ただいまー、こちらが結城満さん。
東日本銀行の本店にお勤めなの。前に話したあのネギの人。偶然、私の窓口に来てね? それでお付き合いすることになったの」
「ああ、あのネギの人? 沙恵、イケメンさんじゃないの!
沙恵の母です、娘がお世話になります」
「ネギの人? ああ、スーパーで。
ネギの人、結城満です。はじめまして、お義母さん」
「お義母さん」と言ったその言葉に、私と母は手を取りあって喜びそうだった。
「夕べは大変娘がお世話になったようで、うふっ。
沙恵、良かったわね?」
母は意味深な顔で笑っていた。
昨日の今日である、想像には難くない。
私と満は顔から火が出そうだった。
彼は礼儀正しく、母に名刺を差し出した。
「それからこれはケーキとお花です。
沙恵さんからお義母さんのお好きな物を伺って、選ばさせていただきました。
お近づきの印として」
「まあキレイなお花! ありがとうございます。
さあどうぞ、上がって下さい。
紅茶でいいかしら? それともビール? ワインも日本酒もあるわよ。
もうすぐお寿司が届くはずだから、ラクにして下さいね」
リビングに入ると満は言った。
そう、あのセリフを。
「お義母さん、沙恵さんと結婚を前提にお付き合いさせて下さい。
よろしくお願いします!」
彼は母に向かって深々と頭を下げた。
私は迂闊にも泣いてしまい、思わず両手で顔を覆ってしまった。
「いいの? 娘で? 娘はもういい歳なのよ?
あなたほどのイケメンさんならウチの娘じゃなくてもいいんじゃないの? 他に沢山いるでしょうに」
「いえ、私もいい歳ですから。
それに僕は沙恵さんのすべてが好きなんです。一目惚れでした!」
「まあ、それはそれは。お熱いことで。
ごめんなさいね、いじわるなことを言って。
娘は私にとってかけがえのないものだから。
私からも娘をよろしくお願いします。
母親の私が言うのもなんですけど、娘はとてもいい奥さんになると思います。だって私の娘ですから。
あらやだ、まだ結婚すると決まったわけじゃないのにね、アハハハハ」
その時、母の目にも薄っすらと涙が浮かんでいた。
「お父様にもご挨拶させて下さい」
満は父の仏壇の前に進み、ロウソクに火を灯し、御線香を手向け、仏鐘を鳴らした。
そして手を合わせ、
「お義父さん、初めまして。結城満と申します。
お嬢さんを僕にまかせて下さい」
と言った。
母も私も、泣いた。
父の遺影がうれしそうに笑っていた。
お寿司の出前も届き、3人の酒盛りが始まった。
母はすっかり満と意気投合し、彼に言った。
「そうだ、今日はウチに泊まっていけば?
どうせ明日は日曜日だし」
「いいんですか? じゃあお言葉に甘えて」
「沙恵の部屋は狭いから、ふたりで客間で寝るといいわ。
私はお邪魔にならないように、沙恵のベッドで寝るから。
沙恵、それでいいわよね?」
「う、うん」
「それじゃあ今日は前祝ね。お寿司もたくさん食べてね。
そうだ、冷蔵庫に松前漬があったはずだから持ってくるわね?
沙恵、満さんに冷たいおビールを出してあげて」
母はいつの間にか、彼を下の名前で呼んでいた。
こんなにうれしそうな母を見たのは久しぶりだった。
家に男性がいることの安心感と安らぎ。
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