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第5話

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 彼のデートプランは私を十分に蕩けさせてくれた。
 
 先程とは打って変り、そこはまるでハリウッド映画のような、大人が愛を語るにふさわしいショットバーだった。
 カルテットの演奏する『My funny valentine』とカクテル。
 私たちの会話はめっきりと減り、代わりにスキンシップが多くなっていた。

 焼肉屋での彼は、どうやら私を楽しませるために酔ったフリをしていたらしく、このBARでは大人の色気漂うgentlemanだった。

 それはエリート銀行員というより、どこかの国の諜報部員? スパイのようにミステリアスだった。
 そして何故か時折、横顔に悲しみが覗いていた。
 私は彼の肩に頬を寄せた。


 「ごめんなさい、ファンデが付いてしまったわね?」
 「スーツをクリーニングに出す時、お店の人に自慢するよ。「素敵な彼女にマーキングされたんだ」ってね?」

 彼は私の肩をやさしく抱いてくれた。
 私はこのまま彼に抱かれたいと思い、をオーダーした。

 「アフィニティを下さい」
 「私にもそれを」

 私たちの想いが重なった。
 そのカクテルの意味は、「あなたと触れ合いたい」という酒言葉だった。

 


 給料日後の金曜日のラブホテルは、どこも満室だった。
 ロビーには若いカップルが1組、部屋が空くのを待っていた。
 
 「別の場所に行きますか?」
 「ううん、もう疲れたから歩きたくない・・・」

 そう言って私は彼に寄り添い、甘えた。
 これから始まろうとしている行為を妄想すると、カラダが火照った。

 下りのエレベーターが開き、中年の不倫らしきカップルがホテルを出て行った。
 

 部屋の掃除が完了し、部屋待ちをしていた先程のカップルが手を繫ぎ、昇りのエレベーターに乗ってロビーを出て行った。



 1時間程して、ようやく私たちの番になった。
 私たちは待ちきれず、エレベーターの中で熱いキスを交わした。
 彼のキスはパーフェクトだった。
 私はそのまま崩れ落ちてしまいそうだった。



 部屋に入ると彼は私の服を脱がせ、自分も服を脱いだ。

 「シャワーを浴びさせて・・・」
 「いいよそのままで。沙恵は綺麗だよ、汚れてはいない」

 確かにさっき、トイレでのエチケットは済ませて置いた。
 私は彼の言葉に従うことにした。


 ダンスもセックスも男次第だ。
 彼の鍛え抜かれた肉体。私は彼の背中に必死にしがみ付いた。

 「ずっとご無沙汰だったの、やさしくしてね?・・・」

 彼は十分過ぎる前戯を終えると、ゆっくりと私の中に入って来た。
 最初、メリメリとした感触はあったが、やがて快感へと変わった。
 私は女であることの喜びに打ち震え、セカンドバージンを彼に捧げた。


 行為の間、彼は私を誉めちぎってくれた。

 「美しい胸だ」「なんて白いきめ細やかな肌なんだ」「サラサラのきれいな髪だね?」

 そして耳元で囁く、「愛しているよ、沙恵」という甘いセリフ。

 彼は言葉でも私を酔わせてくれた。
 私はこの時初めて「イク」という浮遊感を感じ、頭の中が真っ白になった。

 今まで私は恋愛を知らなかったのだと思う。
 愛されることもなく、誰も本気で愛することもせずに今日まで来たのは、愛すべき人に出会わなかったからなのかもしれない。
 でも今は満がいる。
 私は満に出会うために生まれたのだ。
 

 「沙恵、君は本当に素敵だよ」
 「ありがとう満。こんな風にされたの、初めて」
 「この恋、これからも大切にしていきたい」
 「私も・・・」
 「ひと目惚れだったんだ。沙恵に。
 スーパーで君を見掛けたあの日からずっと。
 そしてまた、郵便局で君と偶然出会うことが出来た。
 僕は宿命すら感じたよ。
 君からの電話をいつも心待ちにしていたんだ。
 でも、君からの電話は来なかった。
 僕は居ても立ってもいられずに、君の職場へ押しかけた。
 もしもあの時、君に「NO」と言われたら、僕は沙恵を諦めるつもりだった。
 でも君は僕の誘いを受け入れてくれた。
 本当にありがとう」
 「私ね、あの時、すごく嬉しかったの。でも怖かった。
 からかわれているのかと思ったから。
 だってあなたがあまりに素敵な人だったから」
 「沙恵に出会えて、本当に良かったよ」
 「私もよ、今、すごくしあわせ」
 「結婚を前提に、僕と付き合って欲しい」
 「嬉しい・・・。こちらこそ、よろしくお願いします」


 不思議だった。「結婚」という言葉を封印して来た私が、まだ出会ったばかりの男性に、一度抱かれただけのこの男に、その申し出を素直に受け入れている自分に。

 私たちは再び熱いキスを交わした。
 ずっと昔から愛し合っている恋人同士のように。

 この日を境に、私の人生は大きく変わろうとしていた。

 私は遂に、孤独という寂しさとの決別を果たしたのだった。
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