上 下
3 / 4
序章

第3話:幕上げ

しおりを挟む
「ルイ様......男に二言は無しですよ。腹をくくってください。それと、ルイ様は当分元の世界には帰れないと思われます。少なくとも一年は。私の力では、現実世界への扉はご用意できませんので」
 
 淡々と言い張るルエラだったが、まだルイは覚悟が決まらないようだった。
 
 「........。え? 一年間も戻れないの? 嫌だなぁ.....。とりあえず、この世界の設定? そういうやつ、説明してくれよ。俺の神に愛された才能で三日経たずとも終わらせてやる」
 
 無言でルイを見つめ続けるルエラ――
 
 「はい。では、気を取り直してご説明致します――
  ルイ様は、七つの大罪と呼ばれる悪魔をご存知でしょうか? 」
 
 「あの大人気マンガのことか?もちろん知っているぞ。俺は、クラスで人気者になるために努力を惜しまなかったからな。世間で話題のことについては知り尽くしている。まあ、そんな事しなくても、俺はモテたがな」
 
 得意げに話すルイだったが、ルエラは意気消沈したように固まったままだ。ルイのナルシストすぎる性格に愛想をつかしたのか、ルイの無知さに驚いたのかは定かではないが、ルエラは、深いため息をついて、
 
 「いいえ、マンガの話ではありませんが、傲慢、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰、強欲。この七つの欲の悪魔達のことです。とりあえず、ルイ様にはこの七人の悪魔達を倒していただきたいのです。そして、その七人がそれぞれ持つ鍵を手に入れて、伝説の聖剣エクスカリバーが眠っているというアヴァロンゲートを開いてほしいのです」
 
 相変わらず、淡々と言い張るルエラにルイはある意味で圧倒されてしまう。だが、ルイはルエラの話し方のことには目もくれず、
 
 「........大体の話は理解したんだけど、待って、俺はそんな中二真っ盛りの学生がつくったような設定の中で生き抜かなきゃいけないわけ? 」
 
 顎を左手で支えながら、けだるそうに質問するルイはリア充生活を満喫していた現実世界に一刻も早く戻りたいんだという心情を、物語っているようであった。
 
 「中二設定などと、おっしゃらないでください。どうしても、エクスカリバーが必要なのですよ。お分かりいただけましたか? 」
 
 「まあ、分かったけどさ、俺は何をすればいいわけ? さっきから、左手に力込めてるけど魔法が使えるわけでもないよね?」
 
 そう、悪魔を倒してくれとルエラに頼まれてからというもの、この男一条瑠衣は、ずっと身体中のいたるところに力を入れ続けているが、特にこれといった変化は現れない。
 
 「......その通りです。ルイ様は、魔法が使えません。この世界の住人ではありませんので。そのかわり、現実世界で発揮なされた類まれなる運動センスで、この世界では剣術や体術などで戦闘をしていただくことになると思われます。それと、共に戦ってくれる仲間を集めて」
 
 最後を強調して話したのは、ルイだけでは立ち向かえない壁が現れた時、助けてくれる仲間を見つけろという、ルエラなりの優しさなのだと願おう。
 
 「.....で、俺はどこに行けばいいの? 全然予想できないんだけど.......」
 
 「ああ、それにつきましては、この国の王様だった方があなたにとっての最善の未来を本に記してくださいましたよ。王様の魔法は、『その者の最善の未来を見出す』という能力でしたので。ちなみに、私の魔法は『傷を癒す』能力。つまり『治癒』です」
 
 と言うと、ルエラは持っていた短剣で自身の掌を傷つけた。――だが、ルエラの持つ魔法である『治癒』で、一瞬にして傷は無くなり、もとのルエラの美しく白い肌が戻る。アニメや、マンガでは魔法というものを散々見ていたルイもさすがに目の前で見せつけられると目を見張る。
 
 「おお......治った....。何か、光ってたし。それはそうと、王様だったってことは、今はいないの?」
 
 「.........。はい。ルイ様の未来を見出した四日後に――ルイ様が目覚める三日前に、息を引き取りました.....」
 
 涙ぐんで答えるルエラは、誰かの目の前で泣くことをためらっているようにもみえた。ルイは、立ち上がってルエラの前へ。
 
 「....ああ、悪い。辛いことを思い出させちまったか? ごめんな」
 
 それだけ言うと、またルイはもとの座っていた椅子に戻った。
 
 「いいえ、振り返ってばかりはいられません。私たちには、倒さなければならない相手がいるのですから」
 
 ルエラは何かしらの覚悟を決めたように目を瞑る。
 
 「――絶対に...」
 
 「じゃあ、ルエラ。行こうか。その本の導くままに。あと、ルエラも一緒に行くんでしょ?てか、ルエラがいないと俺は何も出来ないしな。.....だったら、俺のことは呼び捨てでいいし、敬語も禁止。そうしよう」
 
 と、ルエラに優しくほほ笑みかけるルイの笑顔は、先程までハーレムでないと嫌だと駄々をこねていた者の顔つきではなかった。
 
 「.......ええ、ルイ。ありがとう。それと、これが王様の形見の剣なのだけれど。一緒に、戦ってくれる?ルイ」
 
 と、ルイに優しくほほ笑みかけるルエラの笑顔は、さっきのルイの笑顔に負けず劣らずであった。
 
 ルイはこの時になって初めて、ルエラの心からの笑顔というものを見た気がした。
 
 「ああ、その七人を倒すまでこの神に愛されし天才の俺が付き合ってやる」
 
 「ふふ、ありがとう。天才さん。....じゃあ、外に出よう。玄関に案内するから着いてきて」
 
 この部屋に案内された時より、玄関に向かっている今の方が二人の距離が近くなっているのは、ルエラだけが気付いていた――
 
 「じゃあ、ルイ、開けて。ここから始まるんだよ」
 
 重たい扉を両手で開けると同時に、ルイの、ルイたちの冒険が幕を上げる―――
 
 

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

裏アカ男子

やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。 転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。 そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。 ―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...