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第2章『聖女王フローラ』
第51話「マイオ島会戦①」
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「ぐははははは! アタナシアのカスどもめ! 我が電光石火の進軍に恐れを成したか!!」
ルッカ軍の総司令官を務めるこの男は、戦いがはじまる前から既に上機嫌だった。彼の頭の中では、ルッカ軍がアタナシアを散々に打ち破っている未来が映し出されている。
古今、優れた指揮官ほど、どんなに優勢でも油断はしないし、結果を決め付けたりはそうそうしないものだ。
「当然です! 我らはルッカ軍の精鋭部隊!! 神速の進軍ですから!!!」
ルッカ軍を率いるこの男たちは電光石火と言いつつも、ろくに風も読まずに見栄えだけの為に大型の帆船を並べて、威風堂々とマイオ島に渡って来た。
その威容だけなら威風堂々で間違いはない。
海上で戦えるだけの船が無いので、彼らが上陸するのを、アタナシア軍は手ぐすねを引いて待ち構えていた。
「あの者たちは本当に指揮官かの?」
半ば呆れた顔でユリウス将軍がそう呟いた。
「こちらが少数と侮っての陣形だと思いますが……」
「あれでは本陣を突いてくれと、言っておるようなものじゃのう」
ルッカ軍は端からアタナシアを下に見て、包囲戦術を取ってきている。全体を薄く横長に並べて、一気に殲滅しようという狙いが透けて見えていた。
本陣周りの備えは数百はいるが、クレールとロルキが率いる蜥蜴人の部隊なら容易に粉砕してしまうだろう。
「しかし……今回は一切手を抜けません。二度と刃向かえないように徹底して殲滅しなければ……」
拳を握りしめて、視界の先のルッカ軍に、クレールの目は鋭い眼光を浴びせていた。
彼の手には名工でもあるバジーリオ作の刀が握られている。
その破壊力は、大陸最高の鍛冶屋でもあるバジーリオのお墨付きだ。
(この戦いの勝利をフローラさまに捧げる! あの方の前途の暗雲は全て、この剣聖クレールが斬り払う!! その為にはルッカ軍は一人として生かしては返さぬ!!!)
「クレールさま、女王陛下の為とはいえ、気負いすぎですぞ」
クレールから殺気がダダ洩れである。
これではユリウスでなくとも、武術の心得がある者なら誰でも察知しましまう。
そのくらい濃度の濃いオーラを放ちまくっていた。
「い、いや、気のせいです……ユリウス殿……」
(不味い! フローラさまとの関係を知られては、フローラさまが板挟みになって苦しむ事になる。気を付けねば……!)
実際バレバレだが、クレールは鈍感だし、フローラは天然なので気付いていないのだ。周囲が空気を読んでいるだけだと分かったら、その時の二人の様子は見物かもしれない。
―――
「……愚かな人間どもよのう。どれ聖女殿との約束じゃ。 ひとっ飛びして、まとめて焼き払ってやろうかのう」
山のように大きな深紅の塊が、声に合わせて『もごもご』と動いていた。
「久しぶりに空へと駆けるには、今日は良い天気じゃのう」
『バササッ』と大きすぎる音を立てて、深紅の塊は瞬く間に空へと飛びあがっていた。
それは長い首を持つ竜だった。
正確を期するなら『レッドドラゴン』と呼ぶ種族なのは、この竜の鱗の色から想像が付く。
だが、この竜はただのドラゴンではない。
成長して成熟期を迎えた老成したドラゴンだ。
人々は彼らを、古竜もしくは、エンシェントドラゴンと呼ぶ。
齢、数千年とも、数万年とも言うべき、生きた化石だ。
ルッカの使者サイラスは『大人しい竜』と言ったが、それは正しい表現ではない。大人しいのではなく、人間に対して良くも悪くも興味が無いだけだった。
ただ、蜥蜴人はドラゴンの眷属にあたる。
だからこそ、その蜥蜴人を救ったフローラに、このドラゴンは恩義を感じていた。
古竜の視界のおよそ数キロ先には、マイオ島を目指すトスカーナ軍五千の船団が映っている。
この古竜の全速力なら、ものの数分で哀れな獲物の頭上に辿り着くだろう。
そしてわずかな時間で全てを焼き払って、海の藻屑に変えてしまうはずだ。
ドラゴンでしかない古竜であっても、この古竜は心優しき存在だった。
しかし、この古竜は殊の外、フローラの事が気に入っていた。
まるで年老いた祖父が孫娘を見るかのような面持ちで、フローラの行く末に不安を感じつつも、心の底から楽しいと思える心持ちでフローラと会見をしていたのだ。
最早、トスカーナ軍は、この古竜カシナシオスにとっては、孫娘を害する憎き存在に成り果てている。
当然ながら、与えるべき慈悲など持ち合わせてはいなかった。
ほどなくしてトスカーナ軍の頭上に、猛烈なる恐怖と、慈悲なき殺戮が降りかかるだろう。
*****
第3のお爺ちゃん現る!(´ー+`)
*****
ルッカ軍の総司令官を務めるこの男は、戦いがはじまる前から既に上機嫌だった。彼の頭の中では、ルッカ軍がアタナシアを散々に打ち破っている未来が映し出されている。
古今、優れた指揮官ほど、どんなに優勢でも油断はしないし、結果を決め付けたりはそうそうしないものだ。
「当然です! 我らはルッカ軍の精鋭部隊!! 神速の進軍ですから!!!」
ルッカ軍を率いるこの男たちは電光石火と言いつつも、ろくに風も読まずに見栄えだけの為に大型の帆船を並べて、威風堂々とマイオ島に渡って来た。
その威容だけなら威風堂々で間違いはない。
海上で戦えるだけの船が無いので、彼らが上陸するのを、アタナシア軍は手ぐすねを引いて待ち構えていた。
「あの者たちは本当に指揮官かの?」
半ば呆れた顔でユリウス将軍がそう呟いた。
「こちらが少数と侮っての陣形だと思いますが……」
「あれでは本陣を突いてくれと、言っておるようなものじゃのう」
ルッカ軍は端からアタナシアを下に見て、包囲戦術を取ってきている。全体を薄く横長に並べて、一気に殲滅しようという狙いが透けて見えていた。
本陣周りの備えは数百はいるが、クレールとロルキが率いる蜥蜴人の部隊なら容易に粉砕してしまうだろう。
「しかし……今回は一切手を抜けません。二度と刃向かえないように徹底して殲滅しなければ……」
拳を握りしめて、視界の先のルッカ軍に、クレールの目は鋭い眼光を浴びせていた。
彼の手には名工でもあるバジーリオ作の刀が握られている。
その破壊力は、大陸最高の鍛冶屋でもあるバジーリオのお墨付きだ。
(この戦いの勝利をフローラさまに捧げる! あの方の前途の暗雲は全て、この剣聖クレールが斬り払う!! その為にはルッカ軍は一人として生かしては返さぬ!!!)
「クレールさま、女王陛下の為とはいえ、気負いすぎですぞ」
クレールから殺気がダダ洩れである。
これではユリウスでなくとも、武術の心得がある者なら誰でも察知しましまう。
そのくらい濃度の濃いオーラを放ちまくっていた。
「い、いや、気のせいです……ユリウス殿……」
(不味い! フローラさまとの関係を知られては、フローラさまが板挟みになって苦しむ事になる。気を付けねば……!)
実際バレバレだが、クレールは鈍感だし、フローラは天然なので気付いていないのだ。周囲が空気を読んでいるだけだと分かったら、その時の二人の様子は見物かもしれない。
―――
「……愚かな人間どもよのう。どれ聖女殿との約束じゃ。 ひとっ飛びして、まとめて焼き払ってやろうかのう」
山のように大きな深紅の塊が、声に合わせて『もごもご』と動いていた。
「久しぶりに空へと駆けるには、今日は良い天気じゃのう」
『バササッ』と大きすぎる音を立てて、深紅の塊は瞬く間に空へと飛びあがっていた。
それは長い首を持つ竜だった。
正確を期するなら『レッドドラゴン』と呼ぶ種族なのは、この竜の鱗の色から想像が付く。
だが、この竜はただのドラゴンではない。
成長して成熟期を迎えた老成したドラゴンだ。
人々は彼らを、古竜もしくは、エンシェントドラゴンと呼ぶ。
齢、数千年とも、数万年とも言うべき、生きた化石だ。
ルッカの使者サイラスは『大人しい竜』と言ったが、それは正しい表現ではない。大人しいのではなく、人間に対して良くも悪くも興味が無いだけだった。
ただ、蜥蜴人はドラゴンの眷属にあたる。
だからこそ、その蜥蜴人を救ったフローラに、このドラゴンは恩義を感じていた。
古竜の視界のおよそ数キロ先には、マイオ島を目指すトスカーナ軍五千の船団が映っている。
この古竜の全速力なら、ものの数分で哀れな獲物の頭上に辿り着くだろう。
そしてわずかな時間で全てを焼き払って、海の藻屑に変えてしまうはずだ。
ドラゴンでしかない古竜であっても、この古竜は心優しき存在だった。
しかし、この古竜は殊の外、フローラの事が気に入っていた。
まるで年老いた祖父が孫娘を見るかのような面持ちで、フローラの行く末に不安を感じつつも、心の底から楽しいと思える心持ちでフローラと会見をしていたのだ。
最早、トスカーナ軍は、この古竜カシナシオスにとっては、孫娘を害する憎き存在に成り果てている。
当然ながら、与えるべき慈悲など持ち合わせてはいなかった。
ほどなくしてトスカーナ軍の頭上に、猛烈なる恐怖と、慈悲なき殺戮が降りかかるだろう。
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