36 / 77
第2章『聖女王フローラ』
閑話「プリシラとユリ科の侍女さん④」
しおりを挟むああ……お腹が空いた……
クラリスはどこ?
私が持っているお金はもう僅か、これを使い切ったら飢え死にするしかなくなる。
だから、もうダメって時までは使い切るわけには……
私も本当にバカだったわね。
以前はお金を湯水の如く使ってて、当たり前だと思っていた。
父上の真似してたらこんな事に……
父上、父上はご無事かしら?
フェアラムさまは亡くなったと聞いているけど……
ああ、もうダメ……
「おい、そこの娘、大丈夫か?」
ん……誰?
……ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!
お、おーく、オークが!!!
「オーク!! オークが居るわ!!」
「……! プリシラ! プリシラじゃないか!!」
オークに知り合いなんて居ないわって……
「ち、父上!?」
「そうだ。プリシラ無事だったか! 良かった!!」
「父上、何で緑なの?」
ものの見事に全身緑になっている。一見するとオークにしか見えない。
「……豚肉のソテーを食い過ぎてこうなった」
オークのソテーの間違いだ。
「はい? って……ダメ……お腹が……」
「腹が減っているのか? ほれ、これを食べなさい」
―――
「こういうわけなのだ……」
クラウスは城を脱出した部分を『敵中突破』したと嘘をついてプリシラに説明した。
そしてその後、指輪の件は飛ばして、豚肉のソテーの食い過ぎで腹を壊したとか、豆のソースのせいで緑になったと説明した。
「父上、なんだかんだ食いつないでるのね?」
「お前はどうしていたのだ?」
「最初はクラリスと一緒だったけど、はぐれてしまって……」
プリシラの格好はずいぶん汚れている。
人買いや質の悪い連中を避ける為に、髪を短く切って男装している。
もともと顔は美形で洗濯板な為、美少年に見えなくもない。
「そうか、すまん。本当なら私がお前を面倒みるべきなのにな」
そう言うとクラウスは懐から、硬貨を何枚か取り出してプリシラに渡した。
「いいの? 父上も食べないと死んじゃうでしょ」
「気にするな。それで、そなたはどうするつもりだ?」
「クラリスを探すわ。フェアラムさまから頂いたお金もあの子が持ってるから」
王都が落ちる少し前に、絶倫爺ちゃんはプリシラとクラリスを逃がしたが、その時に結構な額の路銀も渡している。
「そうか。また困ったらここへ来なさい。私もなるべく寄るようにするから」
「分かったわ。父上も気を付けてね? どう見てもオークにしか見えないから……」
「あ、ああ、気を付ける……」
これが今生の別れになるとは、二人は思わなかっただろう。
しかし死ぬ前に家族に会えたのだから幸せだったろう。
こんな凸凹でも親子は親子だ。
―――
プリシラさま。
一人にして申し訳ありませんでした。
でも仕方なかったのです。
追手を撒かないと、プリシラさまが……
「プリシラさま? 平気ですか?」
「……! クラリス!! 良かった! 無事だった!!」
プリシラはクラリスの顔を見てとても喜んでいる。そしてそのまま彼女に抱きついて、強く抱きしめていた。
「甘えん坊さんですね。寂しかったですか?」
「うん。寂しかった。だからもう離れないで」
「はい。プリシラさまがずっと寂しくないようにしてあげますね」
「あはは、何、変なこと言っているの? あ、そうそう、父上に会ったの! すっごい緑―――ごほッ…あ、あ…かふッ…ク、クラリス……? ど、ど、どう…し…」
クラリスの手に握られた短剣が、プリシラの胸を貫いていた。
ほとんど即死だっただろう。
既にプリシラはこと切れている。
クラリスは目を見開いたままのプリシラをそっと眠らせてやった。
プリシラさま。
私は貴女の暗殺を命じられたアサシンです。
貴女を殺す為にオルビアに来たのです。
貴女が狙われた理由は、フローラさまを苦しめたからです。
私も貴女に出会うまでは憎くんでいました。
でも、はじめてプリシラさまと出会った時、信じられなかった。
ずっと前に亡くした妹と瓜二つで……
そんな貴女を殺せなくて、ずっとずるずるここまで来てしまいました。
貴女をどこか遠い国へ連れて行こうと思ってました。
でも、次から次に別の暗殺者が送られてきては、貴女を守り切れません。
だったら私の手で、せめて私の手で貴女をひと思いに。
安心して下さい。
あの暗殺教団は私の手で皆殺しにします。
私の妹を二度も奪ったアイツらを絶対に許しませんから。
クラリス。
彼女の本当に名は、鮮血のクラレッタ。大陸最凶のアサシンである。
*****
プリシラは本当は小さな子の身代わりで死ぬはずでした(´ー+`)
*****
0
お気に入りに追加
4,999
あなたにおすすめの小説
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる