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第2章『聖女王フローラ』

第27話「東からやってきた皇子」

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「わ、我が国はマイオ島を献上しましょう!」

「抜け駆けする気か!!」

「で、では我が国はええと……」

 ルッカの代表が突然、自国領土の島を差し出すと言ってきた。
 それを皮切りに、他の二カ国もルッカの貢物に相当する何かを差し出そうと、無い脳みそをフル回転させて頭を悩ませている。

 何故、突然こうなったかと言うと、例の珍客がフローラの肩を持つような発言をしたからだ。
 珍客が身分を明かし、更にそれを証明すると、一気にこの場で最も注目される人間になった。

 珍客の名はアルベール、サンリエンヌ皇国の皇太子だった。
 アルベールはフローラの名声を聞き及び、その実力の真偽を確かめる為にここまでやってきた。
 そして実力が確かなら、フローラを皇国に連れ帰る任務を帯びている。
 それがどういうわけか、任務とは逆行する行動を取ったのだ。

 『アルベールがフローラの実力を保証した』

 これだけで3カ国の態度は豹変した。
 我先にと好条件を出してフローラに取り入ろうとしている。
 前回の会議での無礼な行いなど、とうに忘れてしまっている。

「マイオ島と言えば、ここから然程さほど遠くない場所にある島ですよね」

 ずいぶんと良い条件ですね。
 あの島なら広さも十分あるはずです。
 地図でしか見た事はありませんけど。

「そ、そうです! さすがフローラさま、良くご存知ですな!」

 とにかくフローラを持ち上げて、機嫌を取ろうとしてくる。そんな事をしても逆効果なのが理解できないのだろう。

「竜の棲む島と聞いておりますが?」

「大丈夫です! 大人しい竜なので被害は無いどころか、竜の影響で凶悪な魔物も近寄りませんので」

「では何故そのような島を?」

 確かに。
 ただ差し出すには条件が良すぎる。

「飛び地だからですよ。聖女さま、島一つを運営するのには結構な資金と人的なリソースが必要です。それを飛び地の未開の島にというのは……」

 使者の口上はもっともらしく聞こえるが、使わないならとりあえず置いておけば良い。わざわざ差し出す必要もないだろう。

「要らない物を押し付ける気だな!」

「なんだと!」

 前回の会議までは団結していたのに、今ではすっかり険悪な雰囲気を見せている。

「まあまあ、皆さん落ち着いて下さい。島については、フローラさまと相談の上、返答をします」

 顧問として随行しているリコ司祭が場を上手く締めた。



―――



 フローラもリコ司祭も、どうにも腑に落ちなかったふにおちなかった

 三カ国の豹変はアルベールの保証なので理解はできるのだが、では何故アルベールは、任務を犠牲にしてまでフローラの肩を持つのだろうか。
 何の理由もなしに皇国の皇太子が協力するとは思えない。

 それに、逆立ちした所で皇国には敵いそうもない。

 常備軍だけでも数十万、戦時徴用なら合計で百万を超える。
 ここ十数年ずっと反乱や分裂を繰り返している事で、大陸制覇の野望は頓挫し続けているが、それが無ければとうの昔に大陸を一つにまとめているだろう。

 その皇国の皇太子が何かを企んでいる。
 そう考えるのが妥当だが、マイオ島も捨てがたい。
 辺境を隈なく探してもマイオ島以上の好立地は無いだろう。

 スタート地点とするには理想的な場所だし、島ならば外敵は海を渡ってくる必要がある。
 まだまだ小勢力なフローラたちには、願ったり叶ったりなのだ。

「ずいぶん悩んでおいでですね?」

 にこやかな笑顔を振り撒きながらクレールが声を掛けてきた。彼はそう言った後にフローラのそばまでやってくる。
 クレールの役目はフローラの護衛と、将来的にはフローラが建国する国の王都を守護する事。

 だからクレールは専らもっぱら、フローラのそばにいる事が多いのだが、二人ともお互いを意識しているから、なんだかやりづらそうにしている。

 それを周囲の者たちは、じれったそうに苦笑いをしている。
 二人の仲を否定する者も、邪魔をする者も居ないのだが、いつまで経っても進展しそうにない。

「ええ、アルベールさまが、何故私を擁護するのだろうかと……」

「そうですね。経験上、無償で好条件というのは必ず何か裏があるものです」

 フローラはこの言葉に同感だった。
 何の代価も要求しないと言うのが信じがたい。

 アルベールが例えば、フローラのような人となりなら理解出来るが、皇国はオルビアから遠い地にあるし、皇国の情報統制の為、余り内部情報は伝わってきていない。
 むしろ皇太子本人がすぐ近くに居るのが、何よりの情報源だろう。

 だが生憎あいにくとそのせいで、フローラたちは悩んでしまっている。

「とりあえず島の譲渡は受けませんか? フローラさま」

 悩んでも答えが出る問題ではない。
 リコ司祭はとりあえず、申し出を受けるべきだと考えたようだ。

「ええ、あの島以上の場所は無いでしょうし」

「では、私が返答をしてきます。フローラさまはここでお待ちを」

 クレールに片目を瞑ってつむって、リコ司祭はウィンクを送ってみた。果たして彼に司祭の粋な計らいが伝わったかは分からないのだが。

 あわわわ……
 司祭さま、わざと二人きりにするなんて……
 いいえ、外には警備の皆さんがいらっしゃいますが。
 あわわわ……
 クレールさまは?

 ひとしきり"あわあわ"した後に、クレールを上目遣いで覗いてみる。
 フローラの視線には気付くが、別段何かあるようには感じられない。

 ……私に興味ないのですか?
 だったら何故いつも意識しているのですか。
 女性はそういうのすぐ気付くのですよ?

 うう……
 私から行くべきです?
 あわわわ……
 そ、そんなの無理です!
 またイルマに相談するしかないですね。
 ……はあ……クレールさま……あわわわ……

「フローラさま、どうかなさいましたか?」

 あ! 
 気付いてくれたのですね。
 いま、二人きりってわかってますよね?
 
「え、え、いい天気ですね」

「ええと、外は雨ですが、フローラさまは、雨天のほうがお好きなのですか?」

「え、ええ、そうです」

 クレールは『そうですか』と言って再び黙り込んでしまった。

「では、私はこれで失礼しますね!!」

「あ、は、はい」

 あ、フローラさま、何故怒ったのですか?
 もしや私が間違った受け答えを?
 うぬううううう!!
 アナスタシアに聞くべきか……

 い、いや!
 主君に想いを寄せるなど!

 しかし、フローラさま、いい匂い……

 ……だから!
 しっかりしろ!
 しっかりするんだクレール! 

「だ、だめだ、今日はもう寝よう……」



―――



「というわけなのです」

 フローラはクレールが、何故素っ気ないのかの相談をイルマにしていたが、正直、イルマはこの相談に少し飽き飽きしていた。

「どっちもはっきりしませんね」

「え……?」

「クレールさまが、あんなのだと苦労しますよ?」

 どういう意味でしょう?
 でも、『あんなの』って言い方酷いですよ。
 でも、あんなのってどんなのですか。
 クレールさましか好きになった事ないですし……
 あわわわ……あわわわ……

「……」

「仕方ないですね。あんまりおすすめじゃありませんが、進展するかもしれない方法はありますよ」

「どういうのですか?」

 さすがイルマですね。
 私のほうが姉のはずなのに。
 イルマは頼りになります。

「明日、買い物に行きましょう」

「……?」

「いいから、いいから!」





*****

しばらく恋愛&愚王末路です(´ー+`)

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