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第2章『聖女王フローラ』

閑話「愚王クラウスの末路②…絶品料理」

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 ぐはぁ……や、やあ、私は聖王クラウスだ……
 冤罪で酷い目に遭わされた……
 私が王に返り咲いたら、牢獄とか、拷問なんて邪悪なシステムは残らず撤廃しよう。
 あれはだめだ……
 拷問は精神に来る……
 あと拷問係の趣味はノーマル限定で頼む……
 うう、尻が……

「おや? おじさん大丈夫?」

 お、おじさん?
 ぶ、無礼な……う! 力んだら尻が……

「わ、私に何か用か?」

 ほう? いい女ではないか。
 あの女とは違って、若くていい女だ。
 やっぱり女は若いほうがいい。うう、ヒルダめ……

「ちょっと心配だから、ウチ来な? ごはんもあるしさ」

「そ、そうか? 悪いな。尻がやばくてな……」

 う、うはは、は……はは、はは
 わ、私に惚れてしまったのか?
 うむ。わかるぞ。
 この男気溢れる聖王クラウスだから
 わかるぞ!
 ぐは! 力んだら、し、尻が燃える! 燃えるように!
 あ、あの変態拷問係め!
 うぐああああ! だ、だめだ、怒りは尻に良くない……



―――



「う、うま! な、なんだこの豚肉のソテーは!!」

 美味すぎる!!
 王宮で美食の限りを尽くした私なのに!!
 こんな豚肉のソテーは始めてだ!!
 肉も美味いが、付け合わせのキノコも絶品だ!!
 少々、ヤバそうな色をしているがな
 この味なら気にならない
 この豚肉のソテーを作った人物は王宮でも通用するぞ!!

「そんなに美味そうに食べてくれると嬉しいな! 職人冥利に尽きるってもんだぜ!」

「いや、ご主人、この豚肉のソテーは絶品だぞ。何故、こんな町はずれで店を開いている?」

「まあ、このご時世色々あってな。以前は王都のど真ん中でやってたんだけどなあ」

 そ、そうか
 思えば民の暮らしになど興味は持たなかったな。
 こんな素晴らしい料理を作れる賢才が埋もれていて良い訳がない。
 王ならこういう才能に光を当てるべきだ。
 な、なんてことだ!
 歴史上最高の名君でも取りこぼしてしまう事があるのだな。
 このご主人を見出しきれなかった!
 あれほど大勢の優秀な家臣共が私についてきたというのに!

「大丈夫だ! いずれ名君が現れて救ってくれるはずだ」

「そうだといいけどなあ」

「必ずそうなるとも! しかし、美味いなコレ! バクバクムシャムシャ!!」

「まだまだお代わりはあるぜ! 気の済むだけ食いなよ!!」

 しかし、この豚肉のソテー、何故肉が緑色なのだ?
 いや、美味いけどな。
 美味いからいいのだが、緑色?
 豚肉……?

「やけに緑な肉だが、何の肉だ?」

「豚肉に決まってるだろ!! 秘伝の豆ソース使ってるから緑になっちまってなあ」

「なるほど! そうか! うははははは!」

 な、なるほど!
 きっとソースで煮込んだとかだろうな!
 うむ。美味いのだ。気にする必要は無いな!!



―――



 昨日はたらふく食って満足した。
 ここの家の父娘には、必ず報いるぞ!!
 私がこの店を王宮のド真ん前に移転してやろう!
 この豚肉のソテーなら十分に繁盛するだろう。

「おう、朝飯はサンドイッチだが、それで構わないか?」

「世話になっているのだ。ご主人に任せるぞ!」

「あんたは食いっぷりが男前だなあ!!」

 そうだろうとも。
 どうやら私には食事で料理人を喜ばせる才能があったようだ!
 食べるだけで民草を幸せにさせる才能がな!


 食べるだけ食べて、お土産まで貰ってクラウスは父娘の家を後にした。
 冤罪で尻が大変な事になり人間不信に陥りかけたが、『世の中捨てた物ではない』そう思いかけていた。
 少なくとも激しい腹痛に見舞われるまでは。


「うぐおおおお……は、腹が……ぐは! 腹が燃える!」


 腹痛に苦しむクラウスを遠目から、あの父娘が厭らしくいやらしく眺めていた。

「へ! 馬鹿王め! あの肉が豚肉なわけねーだろ!!」

「親父さんも人が悪いね?」

「お前の計画だろ? ヒルダ!!」

 そうなのだ。
 あのクラウスに声を掛けた若い女性はヒルダだったのだ。
 幻惑魔法で変身したヒルダだったのだ。

「馬鹿王が美味い、美味いって食いまくったのは『豚肉ときのこのソテー』なんかじゃない」

「そうね。でもさすがは、王都で一番のシェフだっただけあるわね?」

「あのバカ王のせいで店も無くなったけどな! でもな、豚面の魔物オークの肉と、きのこの魔物きのこ人間で、本物そっくりの『オークときのこ人間のソテー』を作れるのは俺だけだろうよ!」

 そうなのだ。
 ヒルダが狩ってきた新鮮なオーク(肌は緑色)と、きのこ人間を使ったスペシャルメニューだったのだ。
 オークときのこ人間とは知らず、クラウスは食いまくったのだ。

「魔物の肉で腹でも下しやがれ!!」

「あんなに食べたら、きっと愚王の肌は変色するだろうね」

「へ! オークに間違えられて死んじまえばいいさ!」






*****

このご主人もフローラ信者です(´ー+`)

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