37 / 49
第2章『お仕置き生活続行中』
第36話「シャルリーヌ①…さなぎ」
しおりを挟む
「ユベールさま、辺境よりの報告ですが……」
黒装束の男がユベールに何やら耳打ちをしている。黒装束の男はユベールが従える密偵の一人だった。
「元王子は恋人を残してティパサを発ちました。如何なさいますか?」
「エレーナとその家族がティパサを出たら、何人か護衛につけてあげて。彼女たちが無事にどこかに落ち着けるまでで良いからさ」
命令を受け取ると、黒装束の男は闇夜に溶けて消え失せた。
驚いたよジュリアン。
まさかキミが改心するとはね。
僕がやっている事は、恨みを晴らして楽しんでいるだけだから。
言ってみればマイナスを生み出すだけなんだよ。
でも、キミ自身が立ち直ってくれただけでなく、エレーナたちまで救ってしまった。
これは大きなプラスだと思うんだ。
今後のキミの行く末がすごく楽しみだから……
その前払いってわけじゃないけど、エレーナたちの事は任せて。悪いようにはしないから、約束するよ。
僕はね。
復讐するときも必ずそうしたように、約束をすれば絶対に守るから。
あとは彼らに地獄を見せないとだね。
寄生虫の二人に、きっちり引導を渡してやらないとね?
辺境だから簡単だよ。
こっちみたいに安全なルールなんてないからね。
僕もあの二人はすごく気に入らないんだよね。
殺したりはしない。
なるべく長く苦しめるようにしてあげる。
―――
今日もまたあの窓際で、シャルリーヌはひたすら外を眺めていた。
最近は可能な限りそうしている。運が良ければ、またユベールの姿を見る事ができると、シャルリーヌは必死になっていた。必死にユベールの姿を求めていた。
もう、何日あの人の姿を見ていない? ユベール、貴方の姿を見せて。貴方に会いたい。貴方に触れて欲しい。抱きしめて欲しい。
キスもして? 貴方がしたい所にして欲しいの。
もう心も身体も貴方に捧げてしまいたい。そうすれば、きっと楽になれるから。
だからもう、この爺さんには触らせたくないの。この身体はユベールに捧げるのだから……
「……触らないでッ! あの人を連れて来て!!」
もうとっくに諦めの心境だったシャルリーヌが、今日は老人の手を拒んで払いのけていた。
裸を見せるのでさえ拒絶している。老人のする全てを拒もうとしている。そんな気迫が彼女の態度から見て取れた。
「あの人とは?」
わざわざ聞くまでも無い。
シャルリーヌの反応で、何を意図しているのかは分かり切っていた。
老人は『完成した』と、心の内でほくそ笑んでいる。ようやく役目が果たせたと。
「この間の若い男の人よ! 女の人と居たでしょ!!」
「ああ……ユベールさまの事かい?」
言うなり下卑た笑いを浮かべている。何よりこの瞬間を楽しみにしていたのだから、自然と笑みが浮かんでしまうのも無理はない。
「……どんな関係なの?」
俄かにシャルリーヌの胸中がざわめきはじめた。
「それは直接聞いたらどうかな?」
「……ここに居るの?」
「居るとも言えるし、居たとも言えるかな……?」
回りくどい言い方をして、老人はなるべく長く楽しもうと表情を歪めている。
「どういう事!」
すぐそこに答えがある気がするのに、なかなか手が届かない。そんなもどかしさにシャルリーヌは耐えきれずに声を荒げたが、それが切欠になったのか、隣室で椅子から立ち上がるような物音がした。シャルリーヌはハッとなって扉がある戸口を凝視しはじめた。
彼女の予感というのは適切ではない。
"そうであって欲しいという願望"と言う方が正しい。
そしてその願望が成就するなら、扉をくぐり抜けて部屋へと入ってくるのは、ユベールのはずだ。
『キイイイ』と、余り手入れがされていなそうな音を響かせて、扉がゆっくりと開かれた。ドアノブには人間の手が掛かっている。腕の太さから考えても男性であろう事は疑う余地が無い。
少なくともシャルリーヌにはそう見えていた。
この時の彼女はもう、誰が見てもそうとしか思えないような悦びを、顔中でも、身体中でも現わそうとしていた。
そうしてそれは次の瞬間に、彼女の意思とは別に一気に解き放たれていた。
扉をくぐって姿を現したユベールをひと目見ただけで、シャルリーヌは駆け出していた。小走りに駆け寄って、脱げかけた衣服が床に落ちるのも気に留めず、全裸の姿のままでユベールに抱きついていた。
一切生産的な要素がないこの部屋で、シャルリーヌのむせび泣く声が静寂に染み入るように広がっていくが、その事を『悲しい』と捉えているのは、残念ながらシャルリーヌだけだった。
とりわけ、ユベールにとっては至極の時間のはじまりだった。
彼の表面に少しづつ、サディスティックな影が忍び寄っているのを、シャルリーヌは気付いていない。
恐らくずっと気付かずに、彼女自身を作り変えられてしまうのだろう。
*****
後編に続きます(´ー+`)
*****
黒装束の男がユベールに何やら耳打ちをしている。黒装束の男はユベールが従える密偵の一人だった。
「元王子は恋人を残してティパサを発ちました。如何なさいますか?」
「エレーナとその家族がティパサを出たら、何人か護衛につけてあげて。彼女たちが無事にどこかに落ち着けるまでで良いからさ」
命令を受け取ると、黒装束の男は闇夜に溶けて消え失せた。
驚いたよジュリアン。
まさかキミが改心するとはね。
僕がやっている事は、恨みを晴らして楽しんでいるだけだから。
言ってみればマイナスを生み出すだけなんだよ。
でも、キミ自身が立ち直ってくれただけでなく、エレーナたちまで救ってしまった。
これは大きなプラスだと思うんだ。
今後のキミの行く末がすごく楽しみだから……
その前払いってわけじゃないけど、エレーナたちの事は任せて。悪いようにはしないから、約束するよ。
僕はね。
復讐するときも必ずそうしたように、約束をすれば絶対に守るから。
あとは彼らに地獄を見せないとだね。
寄生虫の二人に、きっちり引導を渡してやらないとね?
辺境だから簡単だよ。
こっちみたいに安全なルールなんてないからね。
僕もあの二人はすごく気に入らないんだよね。
殺したりはしない。
なるべく長く苦しめるようにしてあげる。
―――
今日もまたあの窓際で、シャルリーヌはひたすら外を眺めていた。
最近は可能な限りそうしている。運が良ければ、またユベールの姿を見る事ができると、シャルリーヌは必死になっていた。必死にユベールの姿を求めていた。
もう、何日あの人の姿を見ていない? ユベール、貴方の姿を見せて。貴方に会いたい。貴方に触れて欲しい。抱きしめて欲しい。
キスもして? 貴方がしたい所にして欲しいの。
もう心も身体も貴方に捧げてしまいたい。そうすれば、きっと楽になれるから。
だからもう、この爺さんには触らせたくないの。この身体はユベールに捧げるのだから……
「……触らないでッ! あの人を連れて来て!!」
もうとっくに諦めの心境だったシャルリーヌが、今日は老人の手を拒んで払いのけていた。
裸を見せるのでさえ拒絶している。老人のする全てを拒もうとしている。そんな気迫が彼女の態度から見て取れた。
「あの人とは?」
わざわざ聞くまでも無い。
シャルリーヌの反応で、何を意図しているのかは分かり切っていた。
老人は『完成した』と、心の内でほくそ笑んでいる。ようやく役目が果たせたと。
「この間の若い男の人よ! 女の人と居たでしょ!!」
「ああ……ユベールさまの事かい?」
言うなり下卑た笑いを浮かべている。何よりこの瞬間を楽しみにしていたのだから、自然と笑みが浮かんでしまうのも無理はない。
「……どんな関係なの?」
俄かにシャルリーヌの胸中がざわめきはじめた。
「それは直接聞いたらどうかな?」
「……ここに居るの?」
「居るとも言えるし、居たとも言えるかな……?」
回りくどい言い方をして、老人はなるべく長く楽しもうと表情を歪めている。
「どういう事!」
すぐそこに答えがある気がするのに、なかなか手が届かない。そんなもどかしさにシャルリーヌは耐えきれずに声を荒げたが、それが切欠になったのか、隣室で椅子から立ち上がるような物音がした。シャルリーヌはハッとなって扉がある戸口を凝視しはじめた。
彼女の予感というのは適切ではない。
"そうであって欲しいという願望"と言う方が正しい。
そしてその願望が成就するなら、扉をくぐり抜けて部屋へと入ってくるのは、ユベールのはずだ。
『キイイイ』と、余り手入れがされていなそうな音を響かせて、扉がゆっくりと開かれた。ドアノブには人間の手が掛かっている。腕の太さから考えても男性であろう事は疑う余地が無い。
少なくともシャルリーヌにはそう見えていた。
この時の彼女はもう、誰が見てもそうとしか思えないような悦びを、顔中でも、身体中でも現わそうとしていた。
そうしてそれは次の瞬間に、彼女の意思とは別に一気に解き放たれていた。
扉をくぐって姿を現したユベールをひと目見ただけで、シャルリーヌは駆け出していた。小走りに駆け寄って、脱げかけた衣服が床に落ちるのも気に留めず、全裸の姿のままでユベールに抱きついていた。
一切生産的な要素がないこの部屋で、シャルリーヌのむせび泣く声が静寂に染み入るように広がっていくが、その事を『悲しい』と捉えているのは、残念ながらシャルリーヌだけだった。
とりわけ、ユベールにとっては至極の時間のはじまりだった。
彼の表面に少しづつ、サディスティックな影が忍び寄っているのを、シャルリーヌは気付いていない。
恐らくずっと気付かずに、彼女自身を作り変えられてしまうのだろう。
*****
後編に続きます(´ー+`)
*****
0
お気に入りに追加
1,606
あなたにおすすめの小説
キャラ交換で大商人を目指します
杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
怠惰生活希望の第六王子~悪徳領主を目指してるのに、なぜか名君呼ばわりされているんですが~
服田 晃和
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた男──久岡達夫は、同僚の尻拭いによる三十連勤に体が耐え切れず、その短い人生を過労死という形で終えることとなった。
最悪な人生を送った彼に、神が与えてくれた二度目の人生。
今度は自由気ままな生活をしようと決意するも、彼が生まれ変わった先は一国の第六王子──アルス・ドステニアだった。当初は魔法と剣のファンタジー世界に転生した事に興奮し、何でも思い通りに出来る王子という立場も気に入っていた。
しかし年が経つにつれて、激化していく兄達の跡目争いに巻き込まれそうになる。
どうにか政戦から逃れようにも、王子という立場がそれを許さない。
また俺は辛い人生を送る羽目になるのかと頭を抱えた時、アルスの頭に一つの名案が思い浮かんだのだ。
『使えない存在になれば良いのだ。兄様達から邪魔者だと思われるようなそんな存在になろう!』
こうしてアルスは一つの存在を目指すことにした。兄達からだけではなく国民からも嫌われる存在。
『ちょい悪徳領主』になってやると。
転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です
途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。
ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。
前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。
ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——
一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——
ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。
色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから!
※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください
※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる