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第2章『お仕置き生活続行中』
第24話「皇女セシリアの望み」
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カイトゥス皇国第1皇女セシリアはご満悦だった。
15年ほど前に嫌々隣国へ嫁いでから、ようやく祖国に戻る事ができたから。
しかも彼女がずっと昔から欲していた物が遂に手に入る。
女王の戴冠が認められる国柄なのに、男性が優先されている事に長子であるセシリアは不満に思っていたからだ。
もっと言えば庶子でしかないユベールが優遇されているのを、セシリアはとても不満に思っていた。
セシリアは今年で30歳になる。
彼女が嫁いだ当時、ユベールはまだ2歳くらいで、彼の将来もセシリアの将来も不透明だった。
だから当時は気にしていなかったが、いよいよ自分の皇位継承が現実的になると、彼女としては何故なのか分からない、ユベールの優遇されている環境に苛立ちを覚えていた。
単に皇帝ユスランがセシリアには教えなかっただけだが、彼女のほうはそういう風には考えていなかった。
そうは考えていないから、隣国から連れ帰った腹心と、良からぬ事を考え始めている。
「アリリオ、私の可愛いアリリオ、必ずやお前を私の摂政にしてみせるわ」
傍らに控える優男に、セシリアは白く細い指先を這わせては恍惚としている。
「ご安心ください。まさか皇帝陛下も、たかが庶子などを摂政にとは申されないでしょう」
「当たり前よ。私が嫁いだお陰でカイトゥスは繁栄してきたし、何と言っても私は長子よ。結局は一番愛されているのはこの私なの」
アリリオは隣国バルカ王国の第3王子で嫡子にあたる。
バルカでは継承するものが大してなかった為、セシリアと共にカイトゥスへ渡って来た経緯がある。
セシリアはそのバルカの王太子セザールと結婚しているが、セザールには年若い側室が何人もおり、夫婦仲はとっくに冷え切っている。
大国の、しかも第1皇女だからと、結婚当初からセザールとバルカを見下した結果、そうなったのだが、セシリアはそれを全く気付いていない。
そんな性格だから父親にも軽んじられているが、その辺も全く気付いていない。
「かの庶子は辺境で不遇を託っています。皇女殿下の敵ではありませんよ」
にやにや笑いながら自分の言葉に酔っている。そのさまからは、この男が自信家で自己愛が強いと伝わってくる。ある意味でセシリアとはお似合いの性格をしていた。
もっともアリリオには、セシリアが向けてくる恋愛感情などは持ち合わせてはいない。
単に望む物を与えてくれるから、傍近く寄り添っているに過ぎない。彼女は早速、帰還の祝いにと父親から授かった竜騎士団のひとつをアリリオに委ねている。
アリリオからしたらそれだけでも望外の望みだ。しかし、彼はもっと欲しいと望んでいた。その為には彼にとってもユベールは邪魔な存在だった。
「そうね。レンヌにいる間は見逃すけど、こちらへ擦り寄るようなら小指の先で捻り潰してあげないとね」
セシリアは口元に妖しい笑みを湛えて、少し先の自分の未来がこうあるべきだという妄想をしはじめていた。
―――
おかしい。
アイツはいつ私を迎えに来る気なの?
いつまでも私が待っていると思っているわけ?
変態じじいに私が穢されそうになっているのに。
「さすが金貨千枚の買い物じゃわい。お前は本当に美しい娘だな」
やせ細ったしわくちゃの指が、シャルリーヌの肌の上に触れている。
触れるかどうかという感じに。
「……」
(このクソジジイ、私を何だと思っているの? 待ってなさい。今にアイツが私を助けに来て、お前など葬り去ってくれるわ)
「今日はもう休みなさい。明日またお前を愛でてやるわい。ワシはな、少しづつ楽しむのが好きなんじゃ」
顔中に刻まれた深いシワから、おぞましいものが伝わってくる。
これならまだジェドのような直情的な男の方がましだったと、シャルリーヌはそう思っていた。
いつそうなるのか分からない不安が彼女を圧し潰そうとしていた。
今はただユベールが救ってくれるという、根拠のない希望に一縷の望みを託していた。
いつの間にかそういう風に考えている事を、彼女はまだ気付いていない。
シャルリーヌの今の飼い主である老人は、届いたばかりの封書に目を通してこう思っていた。
「ふはは。あの方もまだ年端の行かぬ子供の年齢だと言うのに、大層趣味が悪い。クククク。だがしかし、そのお陰であのような娘を味わえるのだから、ありがたいことだ。ユベールさま、仰せに従いますぞ」
老人は封書の送り主に、そう心の中で返答をしていた。
*****
次の犠牲者を補充しました(´ー+`)
*****
15年ほど前に嫌々隣国へ嫁いでから、ようやく祖国に戻る事ができたから。
しかも彼女がずっと昔から欲していた物が遂に手に入る。
女王の戴冠が認められる国柄なのに、男性が優先されている事に長子であるセシリアは不満に思っていたからだ。
もっと言えば庶子でしかないユベールが優遇されているのを、セシリアはとても不満に思っていた。
セシリアは今年で30歳になる。
彼女が嫁いだ当時、ユベールはまだ2歳くらいで、彼の将来もセシリアの将来も不透明だった。
だから当時は気にしていなかったが、いよいよ自分の皇位継承が現実的になると、彼女としては何故なのか分からない、ユベールの優遇されている環境に苛立ちを覚えていた。
単に皇帝ユスランがセシリアには教えなかっただけだが、彼女のほうはそういう風には考えていなかった。
そうは考えていないから、隣国から連れ帰った腹心と、良からぬ事を考え始めている。
「アリリオ、私の可愛いアリリオ、必ずやお前を私の摂政にしてみせるわ」
傍らに控える優男に、セシリアは白く細い指先を這わせては恍惚としている。
「ご安心ください。まさか皇帝陛下も、たかが庶子などを摂政にとは申されないでしょう」
「当たり前よ。私が嫁いだお陰でカイトゥスは繁栄してきたし、何と言っても私は長子よ。結局は一番愛されているのはこの私なの」
アリリオは隣国バルカ王国の第3王子で嫡子にあたる。
バルカでは継承するものが大してなかった為、セシリアと共にカイトゥスへ渡って来た経緯がある。
セシリアはそのバルカの王太子セザールと結婚しているが、セザールには年若い側室が何人もおり、夫婦仲はとっくに冷え切っている。
大国の、しかも第1皇女だからと、結婚当初からセザールとバルカを見下した結果、そうなったのだが、セシリアはそれを全く気付いていない。
そんな性格だから父親にも軽んじられているが、その辺も全く気付いていない。
「かの庶子は辺境で不遇を託っています。皇女殿下の敵ではありませんよ」
にやにや笑いながら自分の言葉に酔っている。そのさまからは、この男が自信家で自己愛が強いと伝わってくる。ある意味でセシリアとはお似合いの性格をしていた。
もっともアリリオには、セシリアが向けてくる恋愛感情などは持ち合わせてはいない。
単に望む物を与えてくれるから、傍近く寄り添っているに過ぎない。彼女は早速、帰還の祝いにと父親から授かった竜騎士団のひとつをアリリオに委ねている。
アリリオからしたらそれだけでも望外の望みだ。しかし、彼はもっと欲しいと望んでいた。その為には彼にとってもユベールは邪魔な存在だった。
「そうね。レンヌにいる間は見逃すけど、こちらへ擦り寄るようなら小指の先で捻り潰してあげないとね」
セシリアは口元に妖しい笑みを湛えて、少し先の自分の未来がこうあるべきだという妄想をしはじめていた。
―――
おかしい。
アイツはいつ私を迎えに来る気なの?
いつまでも私が待っていると思っているわけ?
変態じじいに私が穢されそうになっているのに。
「さすが金貨千枚の買い物じゃわい。お前は本当に美しい娘だな」
やせ細ったしわくちゃの指が、シャルリーヌの肌の上に触れている。
触れるかどうかという感じに。
「……」
(このクソジジイ、私を何だと思っているの? 待ってなさい。今にアイツが私を助けに来て、お前など葬り去ってくれるわ)
「今日はもう休みなさい。明日またお前を愛でてやるわい。ワシはな、少しづつ楽しむのが好きなんじゃ」
顔中に刻まれた深いシワから、おぞましいものが伝わってくる。
これならまだジェドのような直情的な男の方がましだったと、シャルリーヌはそう思っていた。
いつそうなるのか分からない不安が彼女を圧し潰そうとしていた。
今はただユベールが救ってくれるという、根拠のない希望に一縷の望みを託していた。
いつの間にかそういう風に考えている事を、彼女はまだ気付いていない。
シャルリーヌの今の飼い主である老人は、届いたばかりの封書に目を通してこう思っていた。
「ふはは。あの方もまだ年端の行かぬ子供の年齢だと言うのに、大層趣味が悪い。クククク。だがしかし、そのお陰であのような娘を味わえるのだから、ありがたいことだ。ユベールさま、仰せに従いますぞ」
老人は封書の送り主に、そう心の中で返答をしていた。
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