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第1章『お仕置き生活は突然に』

第6話「シャルリーヌ、小便王子に捨てられる」

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「それでは引き続き、アリオス伯爵の件に移ります」

 宰相オーギュストがアリオス伯爵カイゼルに目配せをした。
 アリオス伯爵は王太子ジュリアンの無様な様子を、次は自分の番だとぶるぶる震えながら見つめているしかなかった。
 頭の中で言い訳を必死に考えていたが、ユベールに通用するとは思えず、とうとう彼の出番がやってきてしまった。

「アリオス伯爵、余が遣わした使者の報告では、ユベール殿下にきちんと説明をすると承知したと聞いておる。それが何故、殿下に刃向かうような事になるのだ? 言い訳くらいは聞いてやる。さっさと申せ」

 汚い物でも見るかのような見下した目で、アラン王は跪くアリオス伯爵を見据えていた。

「せ、説明はしました……けど、あの、意見の相違があったと言いますか……」

「ほう? ユベールさまを暴行しようとしておいてか? 貴様、それが反逆罪に相当する重罪だと分かっておるな?」

「そ、そそそんなつもりは!」

 この場にユベールが居るのに言い訳をしても意味が無いのだが、よっぽど先ほどの王太子の件が堪えたのだろうか、何とかしようと必死に取り繕おうとしている。

「お前の家の使用人から証言が取れている。『殺しても構わん』と言ったそうだな?」

 確かにあの時は『そうなっても構わない』と、取れる発言をしている。

「あ、ああ、そ、それは! し、知らなかったのです! 知っていればユベールさまに手出しなど!!」

「アラン、伯爵家では無事でしたからその事はいいです。それよりシャルの事をお願いします」

 『その事はいいです』とは言っているが、これは"今は置いといて"という意味で、当然、襲って来ようとした件についてもユベールはきっちり責任を取らせるつもりでいる。
 一応、アラン王の、王としての立場を考えて譲っていただけで、もう十分だとばかりにシャルについての釈明を促した。

畏まりましたかしこまりました。ユベールさま」

 アラン王はアリオス伯爵に顎をしゃくって『先を話せ』と促した。

 さて、どんな言い訳をするかな?
 結論から言うと言い訳の内容はどうでもいい。
 どの道許す気はないから。
 ただ、理由や言い訳によって、どうするか決めないとね?

「あ、あの、皇子殿下との結婚を娘が嫌がりまして……わ、私もその、不本意でしたので……御身分を教えて下さってたら! それなら今でも!!」

 政略結婚なのだから伯爵の態度や言い分も正当だろう。

「確かに皇国の事情で身分を伏せていましたからね。仕方はないですよね」

 ユベールが会話に割って入った。
 彼は未だに無表情だが、口元は僅かに釣り上がっている。
 心にもない事を言って伯爵に助け船というか泥舟を出した。この後すぐに沈むのだから泥舟なのだ。

「そ、そうです! こ、皇国にも責任はあるのに、私だけを責めるのは間違いです! で、ですよね!?」

 伯爵の顔にぱあっと明るい笑顔が広がった。
 ユベールの表情を見れば、そこまで楽観的になれないと気付くはずだが。

「そうですね。貴方の仰る通りです」

 そりゃそうですよ?
 あの場で僕に刃向かった連中も地獄行きですし。
 貴方の娘も酷い目に遭わせますよ?
 『貴方だけ』のわけがない。
 何を今さら。

 しかし皇国まで持ち出すとは……
 父上に知らせたら冗談抜きでレンヌは無くなるかな。
 ここが無くなったら冒険でもしようかな?

「ユベール殿下、どうなさいますか?」

「うん。そうですね。とりあえず僕が用立てている交易品は打ち切りますね。確か、アリオス伯爵が貿易の担当でしたよね?」

「あ、は、はい……しかし、紅炎石を打ち切られると、我が国の財政が……」

 紅炎石は元来、レンヌの特産品だったが、数年前に枯渇して以降は、ユベールが自身の領地から算出する分を無償で提供していた。
 紅炎石の利益はレンヌ王国の貿易黒字の半分を占めている。
 つまり王国の浮沈はユベールに懸かっている事になる。

「うん? 貴方のお願いは聞きましたよね。そこの小便王子の助命をしたはず。この上、この腹立たしいレンヌの国に目こぼししろって言うのですか? あれ? 僕に喧嘩売ってますか?」

(きゃあああ!! 凄む姿も素敵です!! ユベールさま! カミラは貴方に嫁ぎたいです♥ 何番目でも構いませんのでお傍に置いてください!!!)

 だめですよ。アラン。
 貴方は何か勘違いをしているようですね。
 小便を助けただけでも、ずいぶん譲歩しているのですよ?
 その上、何故レンヌを救い続ける必要が?
 それでなくとも、カイトゥスから僕の養育費代わりに、色々貰ってるでしょ。
 欲張るのは良くない。

「そ、そんな事はないです! わ、分かりました! 打ち切りで構いません!!!」

「構いませんって……決めるのは僕です。辺境の小国の国王如きごときが生意気ですね」

「あ、ああ! も、ももも申し訳ありません!!! こら! 伯爵お前のせいだぞ!! お前の娘と殿下の件はきっちり詰めてやるから覚悟しておけ!!!」

 そうなのだ。
 ユベールはこれまでの恩義を返すつもりでジュリアンを助けた。
 だがそれで恩義はほぼ無くなっている。
 その上でこの国を救う義理は、ユベールにはないのだ。
 本来なら攻め滅ぼされててもおかしくはない。
 このアラン王が呑気すぎるだけの話だった。

「ひ、ひいいいい!!! 殿下は許して下さると!!」

「『貴方だけ』ではないと言っただけです。他の人も含めてお仕置きしますよ。なに? まさか、命を狙っておいて助かるつもりだったのですか?」

「あひいいいい!!! お、お許しを!! 娘を説得して殿下の元へお連れしますのでええええ!!!」

「シャルは僕が自分でお仕置きするので結構です」

 シャルのお仕置きが一番楽しいのに、人任せにするわけでしょ?
 メインディッシュは自分で仕上げないとね。



―――



 シャルリーヌはまさか、自分がこんな目に遭うとは思っていなかった。

「このクソ女!! お前のせいで散々だ!」

 小便王子がシャルリーヌに痛烈な批判を浴びせている。
 『お前のせい』とは言うがどっちもどっちだろう。そそのかしたのはシャルリーヌかもしれないが。それに乗ったのは王太子だろう。いや、元王太子だ。

「お、王太子殿下?」

「もう王太子ではなくなった!!」

「はあ? 何故です?」

 え?
 この人が王太子でなくなったら何の価値が?
 私の美貌と才能に見合うのは、王太子だからなのに……
 
「だからお前のせいだ! ユベールとお前に仕返ししてやるからな! お前との婚約は破棄だ! 二度と俺の前に現れるな!!」

 それだけ言うと小便王子はドカドカと騒がしく出て行った。

「……はあ? 何あれ。王太子でないならこっちから願い下げよ。ばかみたい、でも私から突き放すならともかく、振られるなんて有り得ないわ……」


 この日の夜、更に父親から衝撃的な話を聞かされるとは夢にも思わなかっただろう。




*****

若干一名、祖国よりユベールを優先しているアホの子がいるのは気のせいです(´ー+`)

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