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第23話 女騎士、女神様の正体を見破る
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私の前には、魔王の手下、ではなくセラフィーラと名乗る人物がいる。
セラフィーラ殿は只者ではない。
王国で誰一人として扱うことができない古の最高位防衛魔法の使い手で、私の龍をも討ち取った。
セラフィーラ殿の素性は未だに分からない。けれど信じることにした。
私を殺す機会はいくらでもあったにも関わらず、それをしなかったからだ。
セラフィーラ殿は対話を求め、私はそれを拒んだ。
だから、今回の責任は全て私にあるのだ。
それにここは異世界だという。にわかには信じがたいが。
つまり、私が口を閉ざしていては、何も解決しないのである。
分からないなら聞けばよい。
少なくとも私は、あいつと対話する機会を逃し、あいつは魔王になってしまった。
もう、あの時のような後悔はしたくない。
「聞いてもよいだろうか?」
「はい。なんでしょう?」
「セラフィーラ殿の種族はなんだ? 先ほどの戦闘で翼を出していたが」
「そうですね、なんとお答えすればよいでしょうか」
セラフィーラ殿は考え込んでしまった。
答えづらいことを聞いてしまったのだろうか。
「獣人......にしては、毛が少ないな。他に翼のある種族と言えば、神か天使と……」
一刻、セラフィーラ殿の顔が引きつったように見えたが、気のせいだろう。
「サキュバスくらいしか思いつかないな……知識不足ですまない」
セラフィーラ殿は顎に手を置き、少しの間思案した後、こくりと頷いた。
「そ、そうです! サキュバスなのです」
「なんと、サキュバスだったのか。たしかサキュバスは地域によっては、迫害を受けていると聞いた。それで答えにくそうにしていたのか。そうとは知らず申し訳ない」
「い、いえいえ、お気になさらないでください」
「先ほどの睡眠魔法もサキュバスの力だったのだな」
「ご名答です!」
セラフィーラ殿は人差し指を立てながら答えた。私に看破されて動揺したのか、その指は少し震えていた。
「追放前はどんなことをしていたんだ?」
「規定に抵触するため詳しくはお話できませんが、一言で申しますと、生命を生成しておりました」
「せ、生命……!!」
なんてハレンチな!
「では、なぜ追放を?」
「そ、それは……」
「いや、無理に答えなくていい。私も踏み込みすぎた」
自制が効かなくなって男を襲いすぎた、とかそんなところだろうか。そんな話を聞かされても正直どう反応して良いか分からん。
清純そうに見えたが、経験豊富なのだな……。あの非力な男もそういう用途なのだろう。
「これからどこへ向かうつもりなんだ?」
「はい、この世界を知っていただくべく、図書館を目指しております」
「そうか、それは助かる」
セラフィーラ殿に連れられ、森、ではなく公園を抜けたと同時に私は剣を抜いた。
鱗のついた大きな魔物の群れが、私たちの進行を妨げるように左右へ流れていたのだ。
「下がっていろ、あの魔物の中に人が囚われている。騎士である私が助けなければ」
「お待ちください! あれは魔物ではありません!」
「どういうことだ?」
「あれは自動車です」
「なんだそれは!」
私は顔をしかめた。
「私も詳しくはないのですが、自動で動く車と書いて自動車と言います。人が乗ると自動で目的地まで運んでくれるのです」
「なんだと!? 馬いらずの馬車ということか! この世界では、乗り物自体が意思を持っているとでも言うのか」
「そのようですね」
この異世界の技術レベルは、私の世界のそれを遥かに凌駕していた。
元の世界に戻る手段を探りつつ、図書館でさらに調査をしなくては。
その後、交通るーるとやらを教わりながら、図書館に到着した。
王都の中央図書館より小さい。
「解析、作成、最適化、生成……。我が天啓に打たれよ、ディーヴァイス シュランゲ」
頭に激痛が走る。
私は異世界の文字を読むことができないため、セラフィーラ殿が識字通訳魔法をかけてくれたのだ。
加減を間違えると動物や虫の声も理解できるようになると、おぞましいことを言っていた。
私たちは館内で二手に分かれた。セラフィーラ殿も調べ物があるようだ。
読める、読めるぞ。私にも文字が読める!
知らないはずの文字だが、すらすらと頭に入ってくる。
ここは日本という国で、島国だという。
魔法がない、魔物がいないことに目を瞑れば、私のいた世界の仕組みと大差はないようだ。
技術レベルは……私たちの完敗だな。
日本では、みな7歳から学び舎に通えるという。戦争の絶えない王国にはそんな余裕はない。
戦いは非情だ……。羨ましいと感じた。
ほう、面白い。この国には、『ぶし』や『しのび』と呼ばれるものたちがいるらしい。
私も一度、手合わせ願いたいものだ。
先ほどから、この世界に関心するばかりで、肝心の私の世界へ帰る手段が見つからない。
私が助力を仰ごうと、セラフィーラ殿を探していたその時。
「分かりましたっ!!!!」
図書館全体にセラフィーラ殿の大声が響き渡った。
何事かと、私はセラフィーラ殿のもとまで駆け寄った。
「何が分かったんだ?」
「はやとさんが戸籍を取得する方法です!」
セラフィーラ殿はひどく興奮していたが、私にはなんのことか、さっぱり分からなかった。
==============
【セラフィーラ様の秘密】
セラフィーラ様は嘘が下手。
セラフィーラ殿は只者ではない。
王国で誰一人として扱うことができない古の最高位防衛魔法の使い手で、私の龍をも討ち取った。
セラフィーラ殿の素性は未だに分からない。けれど信じることにした。
私を殺す機会はいくらでもあったにも関わらず、それをしなかったからだ。
セラフィーラ殿は対話を求め、私はそれを拒んだ。
だから、今回の責任は全て私にあるのだ。
それにここは異世界だという。にわかには信じがたいが。
つまり、私が口を閉ざしていては、何も解決しないのである。
分からないなら聞けばよい。
少なくとも私は、あいつと対話する機会を逃し、あいつは魔王になってしまった。
もう、あの時のような後悔はしたくない。
「聞いてもよいだろうか?」
「はい。なんでしょう?」
「セラフィーラ殿の種族はなんだ? 先ほどの戦闘で翼を出していたが」
「そうですね、なんとお答えすればよいでしょうか」
セラフィーラ殿は考え込んでしまった。
答えづらいことを聞いてしまったのだろうか。
「獣人......にしては、毛が少ないな。他に翼のある種族と言えば、神か天使と……」
一刻、セラフィーラ殿の顔が引きつったように見えたが、気のせいだろう。
「サキュバスくらいしか思いつかないな……知識不足ですまない」
セラフィーラ殿は顎に手を置き、少しの間思案した後、こくりと頷いた。
「そ、そうです! サキュバスなのです」
「なんと、サキュバスだったのか。たしかサキュバスは地域によっては、迫害を受けていると聞いた。それで答えにくそうにしていたのか。そうとは知らず申し訳ない」
「い、いえいえ、お気になさらないでください」
「先ほどの睡眠魔法もサキュバスの力だったのだな」
「ご名答です!」
セラフィーラ殿は人差し指を立てながら答えた。私に看破されて動揺したのか、その指は少し震えていた。
「追放前はどんなことをしていたんだ?」
「規定に抵触するため詳しくはお話できませんが、一言で申しますと、生命を生成しておりました」
「せ、生命……!!」
なんてハレンチな!
「では、なぜ追放を?」
「そ、それは……」
「いや、無理に答えなくていい。私も踏み込みすぎた」
自制が効かなくなって男を襲いすぎた、とかそんなところだろうか。そんな話を聞かされても正直どう反応して良いか分からん。
清純そうに見えたが、経験豊富なのだな……。あの非力な男もそういう用途なのだろう。
「これからどこへ向かうつもりなんだ?」
「はい、この世界を知っていただくべく、図書館を目指しております」
「そうか、それは助かる」
セラフィーラ殿に連れられ、森、ではなく公園を抜けたと同時に私は剣を抜いた。
鱗のついた大きな魔物の群れが、私たちの進行を妨げるように左右へ流れていたのだ。
「下がっていろ、あの魔物の中に人が囚われている。騎士である私が助けなければ」
「お待ちください! あれは魔物ではありません!」
「どういうことだ?」
「あれは自動車です」
「なんだそれは!」
私は顔をしかめた。
「私も詳しくはないのですが、自動で動く車と書いて自動車と言います。人が乗ると自動で目的地まで運んでくれるのです」
「なんだと!? 馬いらずの馬車ということか! この世界では、乗り物自体が意思を持っているとでも言うのか」
「そのようですね」
この異世界の技術レベルは、私の世界のそれを遥かに凌駕していた。
元の世界に戻る手段を探りつつ、図書館でさらに調査をしなくては。
その後、交通るーるとやらを教わりながら、図書館に到着した。
王都の中央図書館より小さい。
「解析、作成、最適化、生成……。我が天啓に打たれよ、ディーヴァイス シュランゲ」
頭に激痛が走る。
私は異世界の文字を読むことができないため、セラフィーラ殿が識字通訳魔法をかけてくれたのだ。
加減を間違えると動物や虫の声も理解できるようになると、おぞましいことを言っていた。
私たちは館内で二手に分かれた。セラフィーラ殿も調べ物があるようだ。
読める、読めるぞ。私にも文字が読める!
知らないはずの文字だが、すらすらと頭に入ってくる。
ここは日本という国で、島国だという。
魔法がない、魔物がいないことに目を瞑れば、私のいた世界の仕組みと大差はないようだ。
技術レベルは……私たちの完敗だな。
日本では、みな7歳から学び舎に通えるという。戦争の絶えない王国にはそんな余裕はない。
戦いは非情だ……。羨ましいと感じた。
ほう、面白い。この国には、『ぶし』や『しのび』と呼ばれるものたちがいるらしい。
私も一度、手合わせ願いたいものだ。
先ほどから、この世界に関心するばかりで、肝心の私の世界へ帰る手段が見つからない。
私が助力を仰ごうと、セラフィーラ殿を探していたその時。
「分かりましたっ!!!!」
図書館全体にセラフィーラ殿の大声が響き渡った。
何事かと、私はセラフィーラ殿のもとまで駆け寄った。
「何が分かったんだ?」
「はやとさんが戸籍を取得する方法です!」
セラフィーラ殿はひどく興奮していたが、私にはなんのことか、さっぱり分からなかった。
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【セラフィーラ様の秘密】
セラフィーラ様は嘘が下手。
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