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第67話 新しい家、新しい生活
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「こちらがダイニングキッチンです」
イーリスは案内されるが否やすぐにキッチンに立った。イーリスの身長からすると少しキッチンが高い気がするがなんとか使える感じではある。
「どうだ? イーリス」
「うん。大丈夫。なんとか使える」
イーリスの身長が今後伸びることを考えると、これくらいが丁度いいだろうなとアルドと判断した。キッチン周りは特に問題はない。
「気に入っていただけたでしょうか?」
中年男性がにこやかに問いかける。イーリスが頷くと、中年男性はほっと胸を撫でおろした。
「一応、僕も立ってみるか」
アルドがキッチンに立つ。キッチン周りは基本的に成人女性の身長に合わせて作られることが多いので、アルドの身長だと少し低めに感じるも使用する分には問題ない。また、アルドは手を伸ばせばキッチンの上に付けられている棚に手が届く。
「わあ、お父さんすごい! 私じゃそこに届かないよ。なにか取って欲しいものがある時はお父さんにお願いしようかな。えへへ」
父親の背丈に逞しさを感じたイーリスは頬を緩めた。
「こちらがお手洗い。そして、こちらがバスルームです」
「風呂トイレ別なんだな」
「ええ。街でもこの方式を取ってるところは珍しいですね。大体がユニットバス方式ですので」
スラム街では、風呂どころかトイレすらない家も決して少なくない。アルドの住むA地区はまだマシな方で一応はユニットバス式がついていて、風呂もトイレもあるが、そういうのがない家は共同の汚いトイレを使うし、B地区以下は風呂屋にも滅多にいかない不衛生な人も少なくない。
「では、お2階に参りましょう。2階は部屋が3つありますね」
「3つか……」
流石にイーリスと2人で暮らすのに部屋の数が多い気がしないでもない。しかし、両親と子供がいる家庭と考えると丁度良い部屋数なのである。
一応の部屋を見ていく。イーリスがその内の1つの部屋を見て目を輝かせた。
「わあ、いいなあこの部屋。この壁紙可愛い」
イーリスは花柄の壁紙が貼られてある部屋を気に入った。
「そっか。イーリス。その部屋が気に入ったんだな」
「うん!」
アルドはイーリスが部屋を気に入ったこともあってか、この家を第1候補においた。
「以上がこちらの物件ですね。気に召しましたか?」
「はい。娘が気に入ったようですね」
「それは良かったです。一応他の物件も見ますか?」
「はい」
アルドとイーリスは一応は他の物件も見て回った。しかし、この物件以上にイーリスが気に入るものはなかった。アルドが働いている炭鉱との距離とかも考えると、やはり最初の物件が良いと言う結論が出た。
アルドは不動産屋と契約を結び、新居を手に入れた。そして、引っ越しの前準備として、昔の家を手放すために片付けを始める。
「イーリス。そっちはどうだ?」
「うん。大体片付け終わった」
荷物をまとめる作業を2人で共同して進める。イーリスは元々、片付けや掃除が好きで得意で、普段からきちんと整理整頓をしている。そのため、引っ越しにかかる作業もそこまで苦労はしなかった。
アルドもイーリスほどではないにせよ、片付けの苦手は克服しているのだが……やはり、イーリスの手際の良さには敵わない。
「お父さん。手伝おうか?」
「あー、うん。そっちの荷物は軽いからイーリスでも持てるかな。お願い」
「わかった!」
アルドの荷物の一部をイーリスが片付ける。こうして、予定時刻よりちょっと早めに片付けが終わった。
「ふう。とりあえず、荷物をまとめ終わったな。イーリス。片付けを手伝ってくれてありがとう。引っ越し業者が来るまでまだ時間があるな」
「お父さん……」
「ん? どうした? イーリス」
「ありがとうね」
アルドは首を傾げた。イーリスにお礼を言われるような覚えはなかった。さっきも、荷物の片づけを手伝ってもらったのはアルドの方である。
「私のために引っ越しをしてくれるんでしょ?」
「ああ……まあな」
「引っ越しだってお金がかかるし、そのために家計を色々と切り詰めてがんばってくれていたんだよね?」
アルドが副業としてディガーを始めたのは、将来的にイーリスのために必要なお金を稼ぐためだった。イーリスにとって、この環境が良くないことはアルドも自覚をしていた。
「ありがとう。凄く嬉しいよ……新しい家に引っ越しても、これからもよろしくね。お父さん」
「ああ。もちろんだ」
昔の飲んだくれていた頃のアルドはイーリスのために引っ越そうだなんて考えはなかった。自分がこの環境に身を置いて、ただただ、酒を飲むために稼いで、嫌なことがあればイーリスに八つ当たりをする。そういう最低な生活を送っていただけだった。
それが、今では娘のために生活を節制してまでも新居を手に入れるためにがんばっていた父親になったのだ。
玄関先でイーリスは振り返って家の内装を見た。もう2度とこの家に戻ってくれない。そう思うと寂しい気持ちがないわけではない。それでも、アルドが良い父親に変わったように生活に変化というものはいずれやってくる。いくら、良いものに変えたと言っても、古いものに愛着がないわけではない。
「バイバイ」
イーリスは家に別れを告げた。そして、アルドと共に家の外に出た。これにて、この家でのアルドとイーリスの生活は終了した。次からは新しい家で生活して、そこでアルドと共に楽しい幸せな思い出を育んでいく。
この家が今後どうなるかはわからない。不動産業者に売りに出したが、まだ買い手はついていない。今後、この家で誰かが新しい思い出を作るのか……それはまだ誰の知ることでもない。
◇
街に馬車が止まる。弐台に積んである荷物をアルドとイーリスが卸していく。御者もそれを手伝い、家の中に荷物を運んでいった。
「ふう……ありがとう。御者さん。少ないけど取っておいてくれ」
「へへ、ありがとうございます。旦那」
御者はアルドからチップを受け取り、馬車を走らせた。残った2人の親子は荷物が入った箱を見て一息ついた。
「なんとか家の中にまで運んだけれど……今度はこれを取り出して配置しないとな」
「うん……でも、私、荷物を運ぶだけで疲れちゃったよ」
イーリスが床にペタンと座る。
「そうだね。着いたばかりだし、荷解きはゆっくりやればいいか」
イーリスの体調のことも考えて、ここは一旦休憩することにした。十数分の休憩のちに、アルドたちは家具やその他色々を自分たちが使いやすい位置に配置する。
「ふう。こんなもんでいいかな」
「うん。もう日が暮れちゃったね」
昼過ぎから始めていた作業も夜が更ける前に終わった。家具が配置されて自分たちの家らしさが出てきて、イーリスも新生活に対するワクワク感が高まってくる。
「イーリス。せっかくだし、今日はどこか食べに行こうか」
「うん」
アルドとイーリスは外に出た。イーリスはすぐにアルドと手を差し出して繋ごうとする。
「イーリス。ここはもうあのスラムじゃない。治安も良いから手を繋ぐ必要もないよ」
「あ、そっか……そうだよね。ここはそんなに危険じゃないもんね」
イーリスは手を引っ込める。しかし、なにやら言いたそうに口をもごもごさせている。アルドはなんとなくイーリスの言おうとしていることがわかってしまった。
「まあ……慣れるまではいつも通りでいいか」
アルドがイーリスに手を差し出す。イーリスの顔がぱぁっと明るくなり、アルドの手を握った。
「うん!」
鼻唄を歌いながら、夕方の街を歩くアルドとイーリス。家は変わったけれど、これから2人の生活はまだまだ続いていく。
イーリスは案内されるが否やすぐにキッチンに立った。イーリスの身長からすると少しキッチンが高い気がするがなんとか使える感じではある。
「どうだ? イーリス」
「うん。大丈夫。なんとか使える」
イーリスの身長が今後伸びることを考えると、これくらいが丁度いいだろうなとアルドと判断した。キッチン周りは特に問題はない。
「気に入っていただけたでしょうか?」
中年男性がにこやかに問いかける。イーリスが頷くと、中年男性はほっと胸を撫でおろした。
「一応、僕も立ってみるか」
アルドがキッチンに立つ。キッチン周りは基本的に成人女性の身長に合わせて作られることが多いので、アルドの身長だと少し低めに感じるも使用する分には問題ない。また、アルドは手を伸ばせばキッチンの上に付けられている棚に手が届く。
「わあ、お父さんすごい! 私じゃそこに届かないよ。なにか取って欲しいものがある時はお父さんにお願いしようかな。えへへ」
父親の背丈に逞しさを感じたイーリスは頬を緩めた。
「こちらがお手洗い。そして、こちらがバスルームです」
「風呂トイレ別なんだな」
「ええ。街でもこの方式を取ってるところは珍しいですね。大体がユニットバス方式ですので」
スラム街では、風呂どころかトイレすらない家も決して少なくない。アルドの住むA地区はまだマシな方で一応はユニットバス式がついていて、風呂もトイレもあるが、そういうのがない家は共同の汚いトイレを使うし、B地区以下は風呂屋にも滅多にいかない不衛生な人も少なくない。
「では、お2階に参りましょう。2階は部屋が3つありますね」
「3つか……」
流石にイーリスと2人で暮らすのに部屋の数が多い気がしないでもない。しかし、両親と子供がいる家庭と考えると丁度良い部屋数なのである。
一応の部屋を見ていく。イーリスがその内の1つの部屋を見て目を輝かせた。
「わあ、いいなあこの部屋。この壁紙可愛い」
イーリスは花柄の壁紙が貼られてある部屋を気に入った。
「そっか。イーリス。その部屋が気に入ったんだな」
「うん!」
アルドはイーリスが部屋を気に入ったこともあってか、この家を第1候補においた。
「以上がこちらの物件ですね。気に召しましたか?」
「はい。娘が気に入ったようですね」
「それは良かったです。一応他の物件も見ますか?」
「はい」
アルドとイーリスは一応は他の物件も見て回った。しかし、この物件以上にイーリスが気に入るものはなかった。アルドが働いている炭鉱との距離とかも考えると、やはり最初の物件が良いと言う結論が出た。
アルドは不動産屋と契約を結び、新居を手に入れた。そして、引っ越しの前準備として、昔の家を手放すために片付けを始める。
「イーリス。そっちはどうだ?」
「うん。大体片付け終わった」
荷物をまとめる作業を2人で共同して進める。イーリスは元々、片付けや掃除が好きで得意で、普段からきちんと整理整頓をしている。そのため、引っ越しにかかる作業もそこまで苦労はしなかった。
アルドもイーリスほどではないにせよ、片付けの苦手は克服しているのだが……やはり、イーリスの手際の良さには敵わない。
「お父さん。手伝おうか?」
「あー、うん。そっちの荷物は軽いからイーリスでも持てるかな。お願い」
「わかった!」
アルドの荷物の一部をイーリスが片付ける。こうして、予定時刻よりちょっと早めに片付けが終わった。
「ふう。とりあえず、荷物をまとめ終わったな。イーリス。片付けを手伝ってくれてありがとう。引っ越し業者が来るまでまだ時間があるな」
「お父さん……」
「ん? どうした? イーリス」
「ありがとうね」
アルドは首を傾げた。イーリスにお礼を言われるような覚えはなかった。さっきも、荷物の片づけを手伝ってもらったのはアルドの方である。
「私のために引っ越しをしてくれるんでしょ?」
「ああ……まあな」
「引っ越しだってお金がかかるし、そのために家計を色々と切り詰めてがんばってくれていたんだよね?」
アルドが副業としてディガーを始めたのは、将来的にイーリスのために必要なお金を稼ぐためだった。イーリスにとって、この環境が良くないことはアルドも自覚をしていた。
「ありがとう。凄く嬉しいよ……新しい家に引っ越しても、これからもよろしくね。お父さん」
「ああ。もちろんだ」
昔の飲んだくれていた頃のアルドはイーリスのために引っ越そうだなんて考えはなかった。自分がこの環境に身を置いて、ただただ、酒を飲むために稼いで、嫌なことがあればイーリスに八つ当たりをする。そういう最低な生活を送っていただけだった。
それが、今では娘のために生活を節制してまでも新居を手に入れるためにがんばっていた父親になったのだ。
玄関先でイーリスは振り返って家の内装を見た。もう2度とこの家に戻ってくれない。そう思うと寂しい気持ちがないわけではない。それでも、アルドが良い父親に変わったように生活に変化というものはいずれやってくる。いくら、良いものに変えたと言っても、古いものに愛着がないわけではない。
「バイバイ」
イーリスは家に別れを告げた。そして、アルドと共に家の外に出た。これにて、この家でのアルドとイーリスの生活は終了した。次からは新しい家で生活して、そこでアルドと共に楽しい幸せな思い出を育んでいく。
この家が今後どうなるかはわからない。不動産業者に売りに出したが、まだ買い手はついていない。今後、この家で誰かが新しい思い出を作るのか……それはまだ誰の知ることでもない。
◇
街に馬車が止まる。弐台に積んである荷物をアルドとイーリスが卸していく。御者もそれを手伝い、家の中に荷物を運んでいった。
「ふう……ありがとう。御者さん。少ないけど取っておいてくれ」
「へへ、ありがとうございます。旦那」
御者はアルドからチップを受け取り、馬車を走らせた。残った2人の親子は荷物が入った箱を見て一息ついた。
「なんとか家の中にまで運んだけれど……今度はこれを取り出して配置しないとな」
「うん……でも、私、荷物を運ぶだけで疲れちゃったよ」
イーリスが床にペタンと座る。
「そうだね。着いたばかりだし、荷解きはゆっくりやればいいか」
イーリスの体調のことも考えて、ここは一旦休憩することにした。十数分の休憩のちに、アルドたちは家具やその他色々を自分たちが使いやすい位置に配置する。
「ふう。こんなもんでいいかな」
「うん。もう日が暮れちゃったね」
昼過ぎから始めていた作業も夜が更ける前に終わった。家具が配置されて自分たちの家らしさが出てきて、イーリスも新生活に対するワクワク感が高まってくる。
「イーリス。せっかくだし、今日はどこか食べに行こうか」
「うん」
アルドとイーリスは外に出た。イーリスはすぐにアルドと手を差し出して繋ごうとする。
「イーリス。ここはもうあのスラムじゃない。治安も良いから手を繋ぐ必要もないよ」
「あ、そっか……そうだよね。ここはそんなに危険じゃないもんね」
イーリスは手を引っ込める。しかし、なにやら言いたそうに口をもごもごさせている。アルドはなんとなくイーリスの言おうとしていることがわかってしまった。
「まあ……慣れるまではいつも通りでいいか」
アルドがイーリスに手を差し出す。イーリスの顔がぱぁっと明るくなり、アルドの手を握った。
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