上 下
65 / 101

第63話 再会

しおりを挟む
「ミラ。気を付けるんだ。こいつにはあまり魔法が効きそうにない」

「それはどういうことだ? アレだけの威力の魔法。信仰が高くないと早々に出せるものじゃない」

 魔法は使用者の信仰が高くなければ威力が出ない。それは間違いないルールなのだが、更なるルールがある。

「あいつは邪霊魔法しか使ってないはずだ。邪霊魔法が大きく関わるのは相手の信仰」

「あ、そうか」

 かつて、信仰が高いイーリスが信仰が低い邪霊相手に邪霊魔法を撃ち込んだ時にあまり効いていなかった。邪霊魔法が強く影響を受けるのは、相手の信仰の方である。自分の信仰も影響はあるが、それでも相手の信仰が高ければ邪霊魔法は強い威力になってしまう。

「やはり、この戦い方は間違ってなかったんだ。ミラの魔法で止めを刺せなかったのは、球が分裂したのもあるけれど、それ以上に相手の信仰がそこまで高くないからだったんだ」

「なるほど。なら、それ相応の戦い方があるということか」

「うん。とりあえず、信仰が低い僕ならアイツの邪霊魔法を受けても致命傷を受けることはない」

 現にアルドは、受け切ったら致命傷を免れないほどの威力であるクラスターレイを全て受けても戦闘不能にはならなかった。邪霊魔法の性質に助けられた形となったのだ。

「ふん……だからなんだと言うのだ」

 邪霊がアルドに攻撃をしかける。大鎌を振り下ろす。アルドはそれを回避するが、ビュンと風音共に風圧を感じて当たればただでは済まないほどの威力を肌で感じ取ってしまう。

「ファントムバレット!」

 邪霊が新たなる魔法を放つ。白い霊魂のようなものが邪霊の中指から出てきた。それが弾丸となりアルドに向かって放たれる。

「これも魔法ならば、僕が受け止める」

 アルドは背後にいるミラに当たらないようにファントムバレットを体で受け止めようとする。だが、アルドに命中した霊魂はその場で消え去らずに貫通をする。

「なに!?」

 アルドの体をすり抜けた霊魂の弾丸は勢いが加速する。そのまま背後にいるミラに向かって弾丸が飛ぶ。

「な、なんだこれは。きゃぁあ!」

 ミラに霊魂の弾丸が命中した。当たったのは左腕。霊魂が命中した部分が削り取られたかのように綺麗さっぱりなくなった。削られた断面は傷口が化膿したみたいにただれていてとても見ていられない状況である。

「なっ……これは」

 アルドはミラに心配そうに目をやる。近づこうとするアルドを見て――

「アタシは大丈夫だ! 近づかないで」

 ミラが制止する。ミラは右手で左手を抑えて苦悶の表情を浮かべるが、ここでアルドが戻ってきてもしょうがないことに気づいている。

「アルドさんはアイツを攻撃し続けてくれ。幸いにもこれは霊障だ。魔法でなんとかできる」

「わ、わかった」

 魔法で負った傷ならば魔法で治せる。物理的損傷ではないので、それだけ傷を負っても慌てるな。冷静な判断を下すミラ。

「もうさっきの魔法は撃たせない」

 アルドは疾風の刃を手に持ち、邪霊に攻撃を仕掛ける。

「疾風一閃!」

 邪霊の信仰が低ければ魔法は通じにくい。だが、人間の物理的な攻撃は信仰が低くてもきっちりとダメージを負う。

 素早い攻撃を邪霊に向かって繰り出す。何度も何度も邪霊に向かって斬りかかる。

「はあ! やあ!」

 疾風の刃と邪霊の大鎌がぶつかりあう音が地下室中に響き渡る。この邪霊もかなり素早くて疾風一閃で攻撃速度を上げているはずのアルドに見事に対応している。

 アルドのスピードが段々と落ちて来る。アルドが使用しているのはあくまでも技であり、その効力の時間は限られている。無理に引き延ばそうとすると体に負担がかかり、体力を消耗してしまう。

 その一方でこの邪霊の速さは元々のスペックの高さがもたらしている恩恵である。そのためアルドよりも消耗が少ないため、時間が経過すればどちらが有利かは火を見るより明らかだった。

「くっ……」

「そこだ!」

 グサっとアルドの腹部に邪霊の大鎌が突き刺さる。

「ぐあぁっ!」

 アルドはとっさに咄嗟に大鎌を手でもち引き抜いてその場から離れた。幸いにもアルドの腹部からはそれほどひどい出血はしていなかった。応急処置用の包帯を取り出して、それで傷口を思いきり抑えつける。

「急所を攻撃したつもりだが……まだ生きているか。やはり、霊障がそこまでではない。信仰が低いタイプはこれだから厄介だ」

 信仰が低ければ邪霊からのダメージは抑えられる。だが、ゼロになるわけではない。防げる限度というものは存在する。

「だが、その傷ではさっきのような接近戦もできまい。じわりじわりと追い詰めてやる」

 邪霊が大鎌をぶんぶん振り回して攻撃の意思を示す。その時だった。

「ピクシード!」

 バルカン砲のような弾丸が邪霊に向かってとんできた。邪霊は不意打ちを受けてその攻撃を食らってしまった。

「ぐぬわ!」

「その声は……クララ!」

 アルドが振り返るとそこにはクララの姿があった。クララが放ったのは精霊魔法による攻撃である。精霊魔法の特徴は相手の信仰に関わらずに一定の効果を与えるというもの。つまり、信仰が低いタイプの邪霊に有効なのである。

「アルドさん! こいつの性質はミラから聞いた。ここは私とミラに任せて」

「任せるって……どういうことだ? 2人で大丈夫なのか?」

 疑問に思うアルドだが、削られた左腕を回復させたミラが首を縦に振る。まだ左腕に若干の痛みは残るものの戦闘できないほどではないので回復を中断して杖を構える。

「さっき見たようにこいつには精霊魔法が効く。ならば、アタシたちにも勝機はある」

「しかし……」

 アルドには言いたいことがある。相手が邪霊魔法を使えるなら自分が盾になった方が良いのではないかと。

「大丈夫。アルドさんは早くイーリスちゃんたちを助けてあげて……お願い」

 ダンジョンに取り残される寂しさを誰よりも知っているクララ。1秒でも早く大人に助けてもらいたい。きっと誘拐された子供たちの誰もがそう思っているに違いないと彼女は思っている。

「わかった」

 アルドは雷神の槍に持ち帰る。そして迅雷を使い邪霊の横を通り抜けようとする。

「させるか!」

 アルドの意図を知った邪霊は当然止めようとする。しかし、2人の少女がそれを阻止しようとする。

「ピクシード!」

 2人が精霊魔法を使う。邪霊はそれを受けるわけにはいかなかった。精霊魔法を回避した邪霊。その隙にアルドは横を通り抜けて、地下室の奥へと進んでいった。

「…………まあいい。どうせ、子供たちを救出したところで、無駄だ。ここで貴様ら3人を倒せば子供たちを再び牢に閉じ込めることも可能だ。なにせ、出口へと向かう通路はここしかない」

「ふふふ、そうかな」

 静かに笑う2人。このタイミングで子供たちを救出するのは決して無意味ではない。なぜならば子供たちの中には戦えるイーリスがいるのだから。



「イーリス! イーリス!」

 イーリスの名を呼びながら地下室を進んでいくアルド。その呼びかけに微睡みの世界にいた少女が意識を取り戻す。

「んっ……! お、お父さん!」

 少女は目を見開いて完全に覚醒した。大好きな父親の声。それが聞こえた瞬間に邪霊にかけられた術があっさり解けてしまう。

「お父さん! ここだよ! こっち!」

「イーリス!」

 地下室に響く親子の声。声を頼りにアルドは地下室を進んでいく。そして、イーリスが捕らえられている牢を発見した。

「お父さん! うぅ……怖かったよぉ……寂しかったよぉ……」

「イーリス! 良かった……! もう大丈夫だ。お父さんが付いている!」

 鉄格子越しに再会する親子。引き離されていた絆が再び結ばれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

仏間にて

非現実の王国
大衆娯楽
父娘でディシスパ風。ダークな雰囲気満載、R18な性描写はなし。サイコホラー&虐待要素有り。苦手な方はご自衛を。 「かわいそうはかわいい」

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...