上 下
54 / 101

第52話 襲い来る魔の手

しおりを挟む
「前方に敵を発見しました。行きますぜ。サンセイント!」

 モヒカンがここぞとばかりの活躍チャンスと言わんばかりに張り切って光魔法で不死系の邪霊を倒していく。

「先生。あのモヒカンの人大丈夫なんですか? なんか朝からずっと飛ばしてますけど」

 クララがそんな疑問をジェフに投げかける。ジェフは我関せずと言った感じで一言。

「知らん」

「知らんって……」

 ジェフのあまりもの関心のなさにクララは呆れてしまった。

「まあ、やる気があるならいいじゃないか。モヒカンががんばってくれた分だけ、こっちはマナが節約できるんだからな」

 そうこうしている内にモヒカンが「あった!」と言ってとある樹の下まで走って行った。ピンク色の綺麗な小さい花を咲かせる樹。その下にある草をモヒカンがむしり取った。

「この樹の下に薬草が生えやすいんですぜ。土壌の成分が関係していて、まあ詳しい話は長くなるから……」

 バキィと音と共に樹の下の地面が割れた。そして、その割れ目からただれた皮膚の手が出てきてモヒカンの右足の足首を掴んだ。

「ひ、ひい!」

 モヒカンが小さく悲鳴をあげる。それと同時にどんどん地面が割れて同様に手がいっぱいでてきた。

「ジェフ先生! これは一体!」

「そんな驚くなクララ。邪霊だ。この世界には腐るほどいる存在だ」

「それはそうですけど……」

「いいじゃねえか。クマやトラとか獰猛な生物じゃなくて。俺たちは邪霊を狩るエキスパートなんだから堂々としてればいいさ」

「た、助けてくれー!」

 無数の手がモヒカンの足に向かって伸びて彼を地面へと引きずり込もうとしている。

「おい、得意の光魔法でなんとかしてやれ」

 ジェフがそうモヒカンに伝える。ジェフの見立てでは、モヒカンの光魔法があればこの窮地を脱することは容易であると思った。しかし、モヒカンは涙目になりジェフに向かって手を伸ばした。

「た、助けて……マナを使い果たしてもう魔法が撃てない」

「は、はあ! お前バカか! みんな。やるぞ!」

 5人が戦闘体勢を取る。5人の周囲にも地面が割れて手が出てきた。モヒカンを助けようとするのを阻むように。

「一気にカタをつけるぞ! サンセイント!」

 ミラが魔法を唱えた。しかし、手がミラの足を掴んで引っ張った。

「うわっ!」

 足元が不安定になったミラは手元がズレて魔法をジェフに向かって放ってしまった。

「オーロラカーテン!」

 ジェフが防御魔法を使ってミラの魔法を打ち消した。

「おい、ミラ。あぶねえぞ。味方が密集している状態で拡散する性質を持つサンセイントを使うな。たまたま打ち消せる俺の方に飛んできたから良かったものの、もし他のやつらに当たったら、魔法がぶつかった時に拡散して大事故になってたぞ」

「す、すみません」

 ジェフに叱られてしまったミラ。普段の彼女からしたらありえないミスである。しかし、それだけミラも必死なのだ。自分と弟のせいでモヒカンを巻き込んでしまった。もし、モヒカンの身になにかあれば償いきれないほどの罪悪感に苛まれてしまう。

「雷神の槍! ハァッ! 雷突らいとつ!」

 アルドは雷神の槍を出して、それを地面にいる手の邪霊に向かって突き刺した。手の邪霊はその一撃でなんとか倒すことができたが、いかんせん数が多い。この攻撃ペースでは倒しきれない。

「え、えっと……どうしよう。えい!」

 イーリスはどの魔法を使っていいのかわからずに適当にワンドでその辺の手をベシっと殴った。しかし、ワンドは打撃武器ではあるものの、物理的な攻撃を想定して作られてはいない。手の邪霊に満足なダメージを与えることはできなかった。

「た、助けてぇ!」

 モヒカンの体が半分ほど地面に埋まってしまっている。このまま全身が地面に飲み込まれてしまうのも時間の問題である。

「ヒュドロ!」

 クララが地面の手に向かって水魔法を打つ。強化された水魔法の威力により手は消滅してしまう。

「くそ……この状況を打開する方法を考えないと……」

 ジェフは必死に頭を働かせる。年長者として、弟子を導く立場の人間としてここは華麗に決めたいところではあるが、イマイチ頭が回らない。アルコールを摂取して酩酊状態であるがために、頭の回転が鈍ってしまったのだ。

「きゃっ!」

 イーリスの足に手が絡みつく。

「おい! 人の娘になにしてくれてんだ!」

 アルドがすかさず雷神の槍でイーリスの足を掴んだ手を貫き倒した。

「あ、ありがとうお父さん」

「イーリス怪我はないか?」

「うん、大丈夫」

 クララはイーリスの真下にある地割れの後を見てなにやら考え込んでいる。そして、ある作戦を思いついた。

「そうだ! もしかしたら、地中の中で穴が繋がっているかもしれない! こうなったら、フラッド!」

 クララが水魔法を足元の穴に向かって放った。大量の水が地中の穴の中に注ぎ込まれて、穴の中に繋がってる手に水属性の攻撃が伝わる。

 シュウウとどんどんクララたちの周囲の邪霊の手が消滅していく。これでアルドたちは自由に行動できるようになった。

「も、もうダメかも……」

 モヒカンは肩まで地面に引きずり込まれている。なんとか両手をあげて薬草は守っているもののモヒカンが完全に地面に取り込まれるのも時間の問題である。

「すぐに助けないと! 迅雷!」

 アルドは雷神の槍の力を使った。バチバチした電撃を体に纏って、移動速度を上げた。

「アルドさん。アタシも連れてって」

 アルドはコクリと頷いてミラの手を取った。そして、雷のような速度で一瞬にしてモヒカンのところまでミラを連れて飛び立った。

「ちょっと我慢して欲しい。行くぞ! サンセイント!」

 ミラは手に向かって光の玉をぶつけた。その光の玉は拡散してたちまちモヒカンの周囲にいる手を光に包んでいく。体が地面に埋まっているモヒカンもその魔法の攻撃を受けてしまう。

「がはぁあ!」

「すまない。アパト!」

 ミラは回復魔法でモヒカンを回復させた。

「よっと」

 アルドはモヒカンの手をとって彼の体を地面から引き抜いた。イノセント・アームズのお陰で身体能力が上がっているアルドは片手で楽々と成人男性を持ち上げることができる。

「ア、アルドの旦那。すまねえ」

「まだ手がいるかもしれない。ここは危険だ。すぐに離れよう……ぐっ」

 アルドは迅雷の反動を体に受けてしまう。ミラを連れて行った分だけ、体に負担がかかってしまったのだ。

「おっと、大丈夫ですかい? オレが肩を貸しますぜ」

 モヒカンの肩を借りたアルドは無事に危険地帯から離れることができた。

 帰り道はマナが切れたモヒカンや反動でボロボロになったアルドの分まで、他の4人がしっかりとカバーして邪霊を倒しつつ、無事に街へと帰還した。



 薬草を無事に持ち帰ったミラは薬師に特効薬を作ってもらった。その薬をホルンに飲ませて、数日安静にさせているとホルンの病気はすっかり良くなった。

「みんな、この度は弟のために本当にありがとう。迷惑をかけたな」

「迷惑だなんて全然思ってないよ。困った時はお互い様ってね」

 クララがミラに向かってウインクをする。

「とにかくホルン君が無事で良かったな。ミラ」

「はい。アルドさん」

「ミラさん。一緒に冒険できて私は楽しかったよ。最後の手がちょっと怖かったけどね」

「あはは。ごめんなイーリスちゃん。怖い思いをさせて」

「たしかにな。あの手は流石に酔いが覚めるほどひやひやしちまったぜ」

「先生はもっと酔いが覚めた方が良いんじゃないですか? ほら、お酒を控えるとかして」

「かっかっか。相変わらず、俺には手厳しいな」

「アタシは先生の健康のためを想って言ってますから」

 くすっと笑うミラ。これにて、ホルンの病気の問題は解決した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

あーあーあー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

仏間にて

非現実の王国
大衆娯楽
父娘でディシスパ風。ダークな雰囲気満載、R18な性描写はなし。サイコホラー&虐待要素有り。苦手な方はご自衛を。 「かわいそうはかわいい」

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

見た目幼女は精神年齢20歳

またたび
ファンタジー
艶のある美しい黒髪 吸い込まれそうな潤む黒い瞳 そしてお人形のように小さく可愛らしいこの少女は異世界から呼び出された聖女 ………と間違えられた可哀想な少女! ………ではなく中身は成人な女性! 聖女召喚の義に巻き込まれた女子大生の山下加奈はどういうわけか若返って幼女になってしまった。 しかも本当の聖女がいるからお前はいらないと言われて奴隷にされかける! よし、こんな国から逃げましょう! 小さな身体と大人の頭脳でこの世界を生きてやる!

処理中です...