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第50話 月雫の丘探索

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 アルドたちは月雫の丘の近くまで運んでもらった。流石に邪霊が多い丘の環境で卸してもらうと御者に迷惑がかかるから仕方のないことである。

 アルドたちはペガサス馬車を見送った後に、丘を目指すことにした。

「よし、まず月雫の丘に足を踏み入れる前に確認しておきたいことがある。まず、この周辺の地域では水の魔法の威力が上がる性質がある。青の魔法を使えるんだったら、そのことを頭に入れた方がいいな。それにこの丘の邪霊は不死系のも邪霊が多い。不死系の邪霊は光魔法。つまり黄の魔法が使えるんだったら、そっちを優先して使うと楽になる」

 ジェフが攻略の手引きを語る。仮にも先生と呼ばれるだけの人間であるからにして、そういう知識は豊富なのである。

「じゃあ、アルドさんとやら。先頭はアンタに任せたぜ。俺はしんがりを務めさせてもらう」

「はい。わかりました。後ろはお願いします」

 前後、どちらかから襲撃を受けるかわからない状況では、パーティの前後は内側のメンバーを守れる強さを持っている方が良い。アルドは信仰の低さからの耐久性が高いし、ジェフは単純にこの中では最も知識も経験も豊富で強いからである。

「あ、じゃあ。オレがアルドの旦那のすぐ後ろにつきます。黄色の魔法が得意なんで、後ろから旦那をサポートします」

「旦那……僕のことか」

 モヒカンに妙に懐かれて変な呼び方をされてしまったが、アルドは深く気にすることはなく受け入れた。そして、月雫の丘の攻略が始まった。

 アルドは疾風の刃の鎖の留め具を外して、武器として使える状態にした。雷神の槍の方が重量があるため、継続して戦うのであれば疾風の刃の方が都合が良い。

「おお! お父さん。それが言っていた拡張機能ってやつなの?」

「うん。こうして鎖の留め具を外すと武器として展開できるようになるんだ。アクセサリの状態ならば僕以外の人が触っても大丈夫みたい」

「そうなんだー。じゃあ、私も触ってみたいー」

「……万一の時のことを考えたらイーリスには触って欲しくないかな」

 安全とは聞いていたけれど、それが確実である保証はどこにもない。石橋を叩いて渡るがごとく、娘に害が加わる可能性は極力排除したいのだ。

「そうなんだ。わかったよ、えへへ」

 イーリスは素直にアルドの言うことを聞き入れた。アルドが自分を心配して触らせないという気持ちを汲んでいるのである。イーリスにとって、父親に心配されて嬉しいという気持ちは小さな好奇心をも上回るのである。

 月雫の丘を進んでいくこと数分。目の前に身長が160センチ程の比較的小柄の人間が数体現れた。その人間は皮膚がただれていて、肌の色も緑がかった土気色で人としての生気が感じられない。いわゆるゾンビというやつだ。

「早速出ましたね。アルドの旦那。ここはオレに任せて下さい。はぁあああ!」

 モヒカンが気合いを溜めている。ゾンビは動きがのそのそとしていて、モヒカンがマナを体になじませている時間が十分に取れている。

「光魔法! サンセイント!」

 モヒカンの手から黄色い球体が出て来てそれがゾンビに向かって放たれた。その球体がゾンビに命中するとピカっと光って球体が破裂して更に小さな球体が拡散して周囲のゾンビにもダメージを与える。

「ぐしゃあああ」

 ゾンビはドロドロに溶けて消えてなくなった。残されたのは石片だけである。

「おお。凄いね。モヒカン君」

「へ、へへ。凄いでしょ。オレでもやればできるんですぜ」

 まさかの戦力にアルドたちは嬉しい誤算だと思った。だが、ジェフはかっかっかと笑う。

「まあ、凄いのはモヒカンじゃなくて、サンセイントの魔法だな。これさえ使えれば魔法習得歴10日程の坊やでもゾンビ程度なら倒せるぜ。かっかっか」

「ちょ、アニキ。それは言わないお約束ですぜ」

 単純に使える魔法と敵の相性が良いだけの話であった。使える魔法に有利が取れる状態であれば、実力以上の邪霊を狩ることだって可能である。しかし、その反面、相性が悪いと実力がある魔法使いでも敗北を味わうことになる。その最たる例が先のヴァンとファイヤードゴーレムとの戦いであろう。

 ゾンビの石片を回収しつつ、アルドたちは更に先に進む。そこには草が生い茂っている場所があった。

「ねえ、モヒカンさん。あそこの草ってもしかして……?」

「いや、イーリスのお嬢。あそこにある草は山菜でさ薬草じゃねえ。まあ、今の季節は繊維質がしっかりして食べられない。食べたければ、成長途中の春先がオススメだ」

「そうなんだ」

「しかし、食べられる山菜に目を付けるとは……フィーリングとは言え、センスがあるんじゃないのか?」

「本当? 私ってセンスあるのかな?」

 イーリスは目をぱっちりと見開いて、アルドに褒めて欲しそうな視線を送る。

「ああ、そうだな。流石はイーリスだ。魔法使いの才能だけじゃなくて、薬草鑑定の片鱗も見せるなんて将来の可能性は無限大だ」

「そ、そうかな」

 イーリスは頬を手で押さえて照れてしまっている。

「な、なあ。クララ。この親子っていつもこんな感じなのか?」

「そうです。先生。アルドさんは度が過ぎた親バカなんですから」

 微笑ましそうに語るクララに、まだついていけてない様子のジェフだった。

 その後も道中にゾンビを中心とした不死系の邪霊が多く出現した。

「今度は僕がやる! 疾風一閃!」

 アルドがゾンビを斬撃を入れる。

「ウィンド!」

 アルドの攻撃でダメージを追っているゾンビに魔法での追撃を入れてイーリスがゾンビを倒した。

「ヒュドロ!」

 クララが青の水の魔法のヒュドロを唱えた。月雫の丘の水属性の強化を受けて強い威力の水魔法を放ってゾンビに大きなダメージを与え、一撃で倒す。

「お、おお。なんか私も凄い魔法使いになってみたい」

 信仰が並程度のクララはそこまで魔法に強い補正がかかるわけではない。だが、そのクララでも普段の数段上の威力の魔法を放てるので、地形による属性強化も意外とバカにならないものである。

「……やれやれ。ヒュドロ!」

 しんがりを務めていたジェフが後ろを振り返ることなく背後に向かってヒュドロを唱えた。ジェフの背後にいて彼に不意打ちをかけようとした邪霊はその姿を標的に見せつけることなく、倒されてしまった。

「奇襲かけるなら気配くらいたつんだな。まあ、低級邪霊程度の知能じゃ難しいか」

 それぞれが邪霊を倒しつつ行動するも、結局丘の探索が半端なまま陽が暮れてしまった。

「くそ、陽が暮れてしまった。こうしている間にもホルンが……」

 ミラの頬に汗が伝う。明らかに表情が焦っていて動揺が隠し切れない。

「ミラ。焦っていても仕方ない。今日はここで野営をすることにするぞ」

「はい……」

 暗い中では薬草の目利きはおろか発見すらできずに見逃してしまう可能性がある。そんな状況で探索を続けるのは効率が悪いし無謀である。

 ジェフとモヒカンが鳴れた手つきでテントを2つ組み立てている。1つは男性用、もう片方は女性用である。

「折角人数がいるんだ。交代で2人ずつ見張りをしようぜ。俺はモヒカンと組む。女子連中もこいつと組むのは嫌だろ?」

「はい」

 女子3人組が口を揃えてそう言い放つ。

「うっ……」

 モヒカンは捨てられた子犬のような表情でジェフを見つめた。

「まあ、消去法でそうなるのは仕方ない。悪く思うな。かっかっか」

「私、お父さんと一緒が良い!」

 イーリスがアルドにしがみついた。

「それじゃあ、アタシはクララとだな」

「うん。よろしく。ミラ」

「それじゃあ、最初の見張りはアルドさんとイーリスちゃんで良いな。子供は深夜まで起きてられないからな。早めに見張りの順番を回しが方が良い。まあ、後はどっちでもいいか」

 ジェフの判断により、アルドとイーリスが最初の見張り。次にクララとミラ。最後にジェフとモヒカンのペアが交代で見張りをする流れとなった。
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