上 下
40 / 40
暗黒教団編

第41話 教団の設立理由

しおりを挟む
 スキルアブソーバーに能力を吸われたら、最悪スキルなしで生きなければならない。それはとても辛いことだ。俺も暗黒騎士であることを隠すためにスキルなしを装ったことがある。その周りの軽蔑とも哀れみにも似た視線は経験したものにしかわからない辛さがある。

「なるほど。スキルなしにさせられる危険があるから、その危険分子を始末したり管理したりしようとしたわけか」

「しかし、なぜグレイス王がカゲロウ族にしか扱えないスキルを……?」

「その答えは簡単。グレイス王が嬰児えいじだった頃、カゲロウ族の嬰児とすり替えたから。生まれて間もなければ入れ替わったことには気づかれにくい。これがカゲロウ族が打った革命の一手なのです」

 悪霊が憑りついたベラドンナは淡々と語る。彼女に憑りついた悪霊も自分が助かりたい一心で真実を語るはず。だから、これは真実なのだろう。

「なるほど……では、グレイス王は暗黒騎士の力を手に入れるために暗黒教団を作ったと言うことですか?」

「ええ。暗黒教団は表向きの姿。その真の姿はグレイス王の私設軍隊。教団の上に行けば行くほど戦闘能力が高くグレイス王の息がかかった兵がいる。彼らの目的は、暗黒騎士を捕らえてグレイス王に差し出すこと。そして、グレイス王が暗黒騎士になり、世界の支配者になる。我らが崇拝するのは、暗黒騎士にあらず、いずれ暗黒騎士になるグレイス王こそ主なのだ」

「なんてことだ……では、なぜ私はこの地位を手に入れることが……私はグレイス王の思惑は全く知らなかった」

「それはノエルが純粋な信者の中でも戦闘能力が高く、悪霊憑きのスキルを有していたから。暗黒騎士となったグレイス王にノエルは仕える予定だったのだ。そうすることで、暗黒騎士唯一の弱点である聖騎士に対抗する切り札カードとして機能する。だから、後に懐柔するために今の内に高い地位を与えていたのだ」

 ベラドンナが淡々と語る真実を耳にしてノエルは拳を握りしめている。自分が信じていたものに裏切られた気分なのだろうか。ノエルからしたら、純粋に暗黒騎士やアルバートを崇拝していたのに、それがグレイス王に利用されていただけだなんて。

 俺も開拓地村ではエドガー達に裏切られた。だから、その悔しさはある程度は理解できるつもりだ。

「わかりました。ベラドンナ。もう貴女から聞く情報はありません。消えなさい。ソウルクラッシュ!」

 ノエルが手を開き、そして拳を握ると次の瞬間、ベラドンナの口から血が噴き出てバタっと倒れた。

「がは……」

「お、おい。ノエル。お前何をした……」

「ソウルクラッシュ。悪霊を憑けた相手の魂を砕く技。心配しないで下さい。命までは取ってません。彼女ほどの生命力があれば、まあ一命はとりとめるでしょう。その後の後遺症は知りませんが……」

「そ、そうか……」

「私の主たるリック様の前で殺生を行うわけにはいきませんからね」

 ノエルはニコっと笑った。この笑顔はどういう感情で出たものなのか。それがわからない。どことなく薄気味悪い笑顔を見て、俺はあることを思い出した。

「あ! リーサはどうなってるんだ!」

 ベラドンナに夢中ですっかりリーサのことを忘れていた。



「なあ、リーサ。機嫌直せよ」

「リックもノエルも嫌い。私、ミミズが苦手って言ったのに! ずっと私をあんな目に遭わせて放置するなんてサイテー! 変態! 悪趣味! サディスト!」

 俺たちがベラドンナから尋問している間、ずっとリーサはミミズと戯れていた。まあ、その様は見ているこっちも身の毛もよだつ光景だったわけで、ミミズ嫌いからしたら本当に拷問のような仕打ちだったと思う。

「リック様はこれからどうするおつもりですか?」

「ああ……恐らく、俺のことはグレイス王とやらに筒抜けなんだろ?」

「ええ。教団員を取り逃がしてしまいましたからね。彼らが国に帰りグレイス王に報告するとなると……グレイス王は必ずリック様を捕まえようと躍起になるでしょう」

「なら事情が変わった。俺たちは近場の村に行き、そこで生活するつもりだったけれど……身に降りかかる火の粉は払わなければならない。グレイス王を倒して教団を解体する。でなければ、俺に平穏はやってこないだろう」

「リック様。私もお供してもよろしいでしょうか?」

 ノエルは膝をつき俺にそう問いただした。ノエルの能力は確かに強力だ。物理攻撃しか択がない俺やリーサと違って、搦め手で敵を追いつめることができる。仲間としては強力だけど、信用していいものなのか。

「ノエル。お前の祖国を裏切ることになるんだぞ」

「ええ。構いません。私がお仕えするのは王に非ず、暗黒騎士たるリック様なのです」

「あ! そうだ。リック。グレイス王とやらにスキルを吸収してもらえばいいんじゃないかな? そうすれば、リックは暗黒騎士じゃなくなって平穏な日常が……」

「リーサ。それはできない」

「え? なんで?」

 首を傾げるリーサ。

「私から説明しましょう。グレイス王は世界を支配するために暗黒騎士の力を欲している。そのためにリック様を捕まえようとしている。グレイス王に暗黒騎士のスキルが渡ると、彼は間違いなくその力を私利私欲のために使うでしょう。誰にも止められない暴君の誕生です。そして……暗黒騎士の力を手に入れればリック様は用済み。グレイス王の手によって、処刑されてもおかしくありません。だから、リック様の視点ではグレイス王に能力を渡すわけにはいかないのです」

「あ、そっか」

 リーサが手をポンと叩いて納得した素振りを見せる。

「全く、こんな単純なこともわからないのですか? 頭に栄養が言ってないようですね。まあ、無駄な栄養が詰まってそうな袋が2つほどありますが」

「セクハラ!」

 リーサが両手で胸を隠してノエルに軽蔑の視線を送る。

「私から提案よろしいでしょうか。まずは予定通り、近くの村に行きます。そこで、体勢を立て直してクリスリッカの国に行く準備をする。そこでなんやかんやと行動しながら、グレイス王を討つ! その流れが妥当かと思います」

「ああ。そうだな。ずっと野宿しっぱなしだったし、たまには宿に泊まりたい。なんやかんやの部分は宿でゆっくりと考えるとして、まずは村を目指さないとな」

 結局、俺はノエルと共に行動をすることとなった。グレイス王。俺の平穏を邪魔する敵だ。こいつをなんとか懲らしめてやらないといけない。でないと、俺は奴の追手からずっと逃げ惑う生活を送らなければならない。そんな生活は平穏とは呼ばない。

 俺は覚悟を決めて、1歩を踏み出した。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

裏アカ男子

やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。 転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。 そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。 ―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

柴田 沙夢
ファンタジー
アラサー狩りガールが、異世界転移した模様。 神様にも、仏様にも会ってないけど。 テンプレなのか、何なのか、身体は若返って嬉しいな。 でも、初っぱなから魔獣に襲われるのは、マジ勘弁。 異世界の獣にも、猟銃は使えるようです。威力がわやになってる気がするけど。 一緒に転移した後輩(男)を守りながら、頑張って生き抜いてみようと思います。 ※ 一章はどちらかというと、設定話です。異世界に行ってからを読みたい方は、二章からどうぞ。 ******* 一応保険でR-15 主人公、女性ですが、口もガラも悪めです。主人公の話し方は基本的に方言丸出し気味。男言葉も混ざります。気にしないで下さい。 最初、若干の鬱展開ありますが、ご容赦を。 狩猟や解体に絡み、一部スプラッタ表現に近いものがありますので、気をつけて。 微エロ風味というか、下ネタトークありますので、苦手な方は回避を。 たまに試される大地ネタ挟みます。ツッコミ大歓迎。 誤字脱字は発見次第駆除中です。ご連絡感謝。 ファンタジーか、恋愛か、迷走中。 初投稿です。よろしくお願いします。 ********************* 第12回ファンタジー小説大賞 投票結果は80位でした。(応募総数 2,937作品) 皆さま、ありがとうございました〜(*´꒳`*)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...