上 下
96 / 108
ファイル:6 悪夢再び

英雄の帰還

しおりを挟む
「慎二、コレは僕たちの問題だ。」
 王様は惨めったらしく、地面に這いつくばっている。
 いや違うな。
「俺が、コイツを、食い止められなかった責任も少なからずあるからな。」
 それから、金色の剣を引き抜いた。
 まざか、またコイツを握ることになるとはなぁ。
 剣の鋒を大兄弟助に向けると、首を少し傾げて、彼に、こう宣言する。
「この前は、ダセエところを見せちまったけどよ。俺もそうダサくはねンだわ。」
「アンタがダサいのはいつものことでしょうが。」
 隣で千代がため息をつきながら、ツッコミを入れる。
「慎二っ!! 」
 俺はカーミラに刺さった剣を抜いてやると、大兄弟助の方に放り投げた。
「黙って俺に投資しろ。その方がお前のためにもなる。」
「フン、随分と気前の良いようだな鬼の子よ。」
 大兄弟助は、真紅の剣を引き抜いた。
「ハッタリかましてんじゃねえぞ。握ってなくても、操れるんだろソイツを。戦闘中に邪魔をされたくない派の人間でね俺は。」
 俺は左手の人差し指に、エクスカリバーで切り傷をつけて、そのまま引き抜いた。
---時空壊クロック・ブレイク---
 あたりに真紅の液体が飛び散る。
 液体は、ゆっくりと地面に落ちていっている。
 世界を巡る旅の中で、俺のこの呪術は、現実と区別がつかなくなってきた。
 ある意味では、鬼銃で脳天を貫いていた時の方が、まだ加速した世界との区別がついていたと思う。
 俺はコイツと同じ時間を過ごしたい。
 だけど、千代とはしばらくの間お別れだ。
 目を細める創造主サマの脳天にエクスカリバーを突き立てる。
____俺が突き刺しているのは残像だ。
 なら
 世界が反転した。
 俺の頭上には世界の大地が広がっている。
 そして、千代が俺を支えていた。
「悪い。周りが見えてなかったわ。」
「それよりも………警戒して。奴はどこから来るかわからない。」
 おそらく千代と同じ能力。
 いや、魔法なんだ。
 俺は、襲撃を受けた時、隣にいた人間のことを思い出した。
「九条念。」
 殺意を感じるよりも先に、エクスカリバーでグラムを弾き返す。
「とりあえず距離を取らねえとな。」
「アウラ!! トライドラン!! 頼んだぞ。」
 金色の剣の鋒から、無数の蔓が、溢れ出した。
「この空間一体を、エクスカリバーの魔力で満たす。」
 この方法は己の五感より役立つ。
 大兄弟助たちは、瞬間移動移動を巧みに駆使しながら、俺の蔓を避けている。
「慎二!! 視界が悪くなったら、私たちにとって不利になる。私には見えないし。」
「だから、してやってんだろうが、ちっとは頭を使ってくれ。」
 千代は思い出したかのように、銃鬼を、つるに向けて放った。
---#金剛掌握カーボン・コントロール---
 九条と、千代では、スタミナ・魔力コントロール・戦闘センスの全てにおいて遅れを取っている。
 今のこの状況で、やっと四割まで持って行けたか?
 さぁ、グラムを蔓に突き刺してみろ?

 ………匙を投げたな。

 俺たちが転移した先で、九条が、両掌を頭上で組むと、俺たちを待ち構えていた。
「逆に言えば、能力を使わなければ、探知されないってこったろ? 」
 咄嗟に左手で凛月を引き抜き、チャクラムで攻撃を防いだ。
---金剛流し---
 千代が咄嗟に未知術を放ってくれたおかげで、攻撃をいくらか受け流すことが出来た。
 空中では、それを外に逃すための地面もない。
「やるな嬢ちゃん。」
 大兄弟助は、腕から二本目の燃えゆる剣を作り出すと、蔓に突き刺した。
「千代、接続を切れ!! 」
 慌てて彼女が未知術を解く。
 九条はあくまでも囮だ。
 猛る炎のせいで、たちまち蔓は燃え尽きてしまった。
「コレは、レーヴァテインだ。お前のような紛い物が作った贋作とは違う。」
 大兄弟助は、数百メートルを一瞬で詰めてきた。
 九条の瞬間移動ではない。
 時空壊よりも何百倍も速いだ。
「慎二!! 」
 彼女の叫びすら、のっぺりとしている。
「お前の相手は私だ!! 」
 九条が、千代の手を叩く。
 俺はグラムに叩きつけられて、そのまま、父の大樹にへと突っ込んだ。

     * * *

「テテテ。ちょっと俺には荷が重かったかな? 」
 それよりも、どれぐらい気絶していた?
 早く千代を……みんなを助けに行かないと。
 俺は重い体を己の覇気で奮い起こし、アウラの力を使い、再び飛びあがろうとした。
 背中がやけに暖かい。
 振り返ると、深緑に輝く、一振りの剣が……
「親父ィ……」
 俺は、ここにいた頃、一度も、この刀を握らなかった……
 いや、それは語弊があるな。
 だった時、一度だけ……転界からコイツを持ち帰った時に、俺はこの刀を、握った。
 それでも、一度も契約を試みたことが無かったのは、この刀が父の愛刀だったからだ。
---タケル? さぁアタイを取って!! ---
「俺はタケルじゃない慎二だ。」
---天叢雲剣を握るのは、ただ一人、ヤマトタケルだけだよ---
 オヤジもコイツからそう呼ばれていたのか?
 そんなことはどうでも良かった。
 この刀は、創造主に打ち勝てるかどうか……だ。
「そうだ。俺はヤマトタケル。極東に伝わりし、伝説の英雄だ。」
 俺は二振りの武器を携えると、幹の外へ向けて跳躍した。
 父の言葉を思い出す。

---腓腹筋に力を込めろ。そして、一気に解き放て---

 一面火の海だ。
 俺は千代の元へ舞い戻ると、右手の刀を薙ぎ払い、レヴァーテインの炎を消した。
 それから、千代に命を分け与える。
「ごめんな、千代。また傷つけてしまって。」
 彼女は、弱々しく俺に拳をぶつけると、震えた口で、掠れた声を放った。
「アンタのそういうところ嫌いよ。女は守ってやらなきゃダメみたいな過保護なところ。」
「悪い。」
 そりゃそうだ。今回ばかりは相手が悪い。
 千代には魔法適正などないのだ。
 見上げると、大兄弟助たちが俺を見下ろしていた。
「ほう? 世の二本目の剣か? 」
「それも世の力の一部だ。どう足掻いてもお前は世たちを倒すことなどできん。」
「それに…… 」
「その力。お前も魔法に目覚めたな。そこのエセ魔法使いとは違い。」
「どうだ? 世ととも……」
      「断る!! 」
 俺は天叢雲剣を薙ぎ払った。
 辺り一体の黒焦げた大地が、再び花を咲かせる。
「ったく……馬鹿の相手は疲れるっ!! 」
 大兄弟助の疾走。
 今度は目で追うことが出来た。
 残像が見えていることもない。
 俺の視覚はハッキリとその輪郭を捉えている。
 背後に気配を感じる。
 腰の凛月をさせる。
---雷斬ライザン---
 チャクラムの水平斬りが九条を捉える。
 だが、彼女とも、波の能力者ではない。
 彼女の念力は、ベクトルすら捻じ曲げてしまう。
 一瞬……一瞬のウィークポイントさえあればいい。
 俺たちはコンマ一秒の間に、グラムをエクスカリバーで受け止め、天叢雲剣をレーヴァテインに弾かれ、攻防しながら互いに上昇し、対空圏の上で、お互いの最大火力を解き放った。
「「---森羅万象オール・オブ・ユニバース---」」
 視界を覆うほどの眩い光。
 この感覚は、帝国の悪魔と戦った時以来だ。
 







 二つの強大なエネルギーが、世界を覆った。

 

 

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

月は夜をかき抱く ―Alkaid―

深山瀬怜
ライト文芸
地球に七つの隕石が降り注いでから半世紀。隕石の影響で生まれた特殊能力の持ち主たち《ブルーム》と、特殊能力を持たない無能力者《ノーマ》たちは衝突を繰り返しながらも日常生活を送っていた。喫茶〈アルカイド〉は表向きは喫茶店だが、能力者絡みの事件を解決する調停者《トラブルシューター》の仕事もしていた。 アルカイドに新人バイトとしてやってきた瀧口星音は、そこでさまざまな事情を抱えた人たちに出会う。

転生先のご飯がディストピア飯だった件〜逆ハーレムはいらないから美味しいご飯ください

木野葛
恋愛
食事のあまりの不味さに前世を思い出した私。 水洗トイレにシステムキッチン。テレビもラジオもスマホある日本。異世界転生じゃなかったわ。 と、思っていたらなんか可笑しいぞ? なんか視線の先には、男性ばかり。 そう、ここは男女比8:2の滅び間近な世界だったのです。 人口減少によって様々なことが効率化された世界。その一環による食事の効率化。 料理とは非効率的な家事であり、非効率的な栄養摂取方法になっていた…。 お、美味しいご飯が食べたい…! え、そんなことより、恋でもして子ども産め? うるせぇ!そんなことより美味しいご飯だ!!!

三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河

墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。 三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。 全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。 本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。 おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。 本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。 戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。 歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。 ※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。 ※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。

処理中です...