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ファイル:5ネオ・リベリオン

はみ出し者共

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石火セッカ
 石火の汎用性を利用して、小子とベルフェさんの間に強引に割り込む。
 俺の脇腹に、ベルフェさんの傘の鉾が突き刺さる。
 この前とは違う。俺を「敵」とみなして、本気で殺しに来ている。彼女の太刀筋にためらいはまるでなかった。
 以上のことから、俺は痛みで歪んだ顔をベルフェさんへと向けた。
 光のない彼女の双眼には、殺すべき相手、ただそれだけが映っていた。
「小子、そっちは任せた。」
 こんな冷酷になった彼女を小子に任せるわけにはいかない。
「そうねコイツはアンタにはやりずらそうだし。」
啄木鳥キツツキ
 彼女の右掌の衝撃で、西郷の体が吹き飛ぶ。
 路地裏のゴミに後頭部から飛び込むと、無様な下半身をバタつかせている。
「よくもやってくれたな、このメスガキがあ。」
 西郷にもはや、いつもの妖艶な雰囲気はなく、その声で、彼女の感情のすべてを表していた。
「シュンッ。」
 無慈悲な傘が、俺の喉笛を狙っている。
 俺を確実に殺したいのだ。
 俺は目の前のキリングマシーンへと意識を集中させた。
 バックステップ。
 これは悪手。
 行動の後に後悔する。
 戦闘技術はおそらく五分。
 対してリーチは向こうへ分がある。
 ここは懐に潜り込んで、殴り合いをするのが正しかった。が、それよりも先に、危険を察知した俺の身体が、本能的に、『引け』とそう命令した。
 彼女がその隙を見逃すはずがない。
 彼女は己の嗅覚で本能的に状況を理解すると、自慢の脚力を使って、ジャンプ。
 冷たい殺意を頼りに、攻撃を避ける。
 当たった個所から、ヒヤリと、冷たい感情が脳内へと送られてくる。
 遅れてやってきた痛みを、俺は戦いに集中することにより、シャットアウトする。
 彼女は宙に浮いたまま、俺に傘での連続突きを繰り返している。
 なんて体幹だ。
 俺はというと......体は既に重力へと捉えられ、自由を失っている。
 彼女の攻撃が大振りになる。
 俺はそれを見逃さなかった。
 壁を両腕に集中させて、天岩流本来の力を引き出す。
石壁セキヘキ
 拳を前に突き出して、威力を相殺する。が、俺も彼女もその運動ベクトルを受け流すための逃げ場を確保していない。
「痛み分けだ! 」
 骨に響く痛み。
 だが、それは彼女も同じこと。
 ベルフェさんが体を小刻みに揺らしたことを俺は見逃さなかった。
滑昇風カッショウフウ
 痛みをこらえて出した渾身の一撃。
 だが、それも彼女の小柄な顎を掠っただけで、大した効果は得られなかった。
 脳を揺らして、相手をひるませる、彼らが俺に使った姦計。
 いくら彼女でも、脳を揺らされれば、ひとたまりもない。
 がそれも失敗に終わったらしい。
 これが、無能力者といえるのだろうか。
 俺たちはほぼ同時に着地すると、間合いを詰めた。
 彼女は必ず、俺の胴を狙ってくるだろう。そして、ひるんだ隙に確実に仕留めてくる。
 傘の鉾は若干上を向いているが、彼女にしてはあまりにも不用心すぎる。
 俺は攻撃を防ごうとはせずに、上半身を大きくそらした。
 間合いに入り込むためだ。
 コンマ一秒遅れて、俺を殺すための武器が、頭上を突っ切っていることを、実感できた。
 「ズドーン。」
 が開き、二十ミリの弾丸が、彼女へと打ち込まれる。
 傘を広げた防御。
 服毒には至らず。
 だが俺もこんな子供だましで彼女を倒せるとは思っちゃいない。
 傘を開いて、バックステップ。彼女から、視界というアドバンテージをうばう。
 俺はすぐさま、ぱっかり開いた右手から、小型のナイフを二本取り出すと、彼女の左右、両脇に投げつけた。
 ベルフェはさんは聴覚でそれを聞きつけ、自分に危害が加えられないことに感づくと、その情報を、自分の頭から消去した。
 そのまま突っ込む。
 傘を閉じられては困るので、砲撃を続ける。
 鉾が、火を噴く。
 大体予想はついていた。
 あれはリングイスト作の兵器。合理主義の彼が、兵器に遠距離手段を内蔵しない理由がない。
 俺の右目を正確に狙ってくる。
 俺は姿勢を低くしたので、弾丸は、後ろのレンガ造にねじ込んだ。
 姿勢を低くしながら、そのまま突っ込む。
【ショック・オブ・ラウンド】
 この一撃にすべてをかける。
 だが、その大技も、ベルフェさんの前では、無意味だった。
 俺よりも素早く傘を畳むと、左目を勢いよく突いてきた。
 人は死を予感する時、時間がゆっくりと流れるらしい。
 鋭い研ぎ澄まされたその一撃は、刻一刻と俺に迫ってくる。
 俺に瞬きする余裕などなかった。
 彼女の傘の冷たい一撃が俺の角膜に触れる。
「グシャッ。」
 鈍い音と共に、彼女の背中にナイフがつきささる。
 背後から第三者の気配を感じたのか、彼女は俺への攻撃をやめ、後方へと薙ぎ払った。
「誰もいない。どうやら、地場の感知はできなかったみたいだな。」
 そこまでして、彼女はようやく口を開いた。
「彼女もまたリングイストの血を引くもの。中々面白い武器ね。」
 そうだ。ロバスが俺にくれた、この刃は、互いに磁力で、ひきつけられるようになっている。
 そう、今こちらに内蔵されている予備の投げナイフとも。
 だがそんなもので彼女を倒せるとは思っていない。
 一瞬俺から意識がそれた。
 それが彼女の敗因
裏世界エンド・オブ・ユニバース
 俺の異次元からの裏蹴りが、彼女の後頭部にクリーンヒットする。
 背中を刺して、頭を強打して、ようやく俺は彼女に勝つことができた。
「ふーん殺さないのね。」
 西郷から、武器を全部取り上げて、着ているもの全部はぎとって、公安の拘束用ゴムでギッチリ縛り上げた上官様が、手を払ってこちらにやってくる。
「そっちも、国際テロ組織に対して、随分とあまあまな対応なんじゃないか? 」
「こんなやつ、身ぐるみはがしちゃえば、無能力者と大差ないわよ。まあ過去の怨恨ってのがないわけではないけど。」
 それから、一息ついて、気を失っている彼女を指さす。
「アンタのは違うでしょ。そいつは武器を持っていなくても、バケモノよ。能力抑制剤も効かないし。」
 かつて、俺たちに良くしてくれた人に、そんな言い方はないと思う。
「まざか、まだ引きずっているのかしら。」
 あまりにも真顔だ。だが彼女のそういうところが、上層部から買われている能力の一つなのだろう。
「そんなんじゃない。ここで能力者を殺せば、背中のコイツも蝠岡も裏切ることになるから。」
 俺は、気を失っているベルフェさんを担ぎ上げた。
「こいつらは公安に引き渡す。そして公平な裁きをうけてもらう。」
「ふーんあんがいまじめなのねアナタ。ちょっと見直したかも。」
「小子のせいだよ。」
 聞こえるか聞こえないか、ぎりぎりの声でつぶやいた。
 いつもなら殴られるだろう。
 だがそんなことはなかった。
 彼女は顔を赤くするだけで、「聞こえない。」と、そう一言つぶやき。もがく西郷へ向けて踵を返す。
「早く。応急処理班も呼んどいて。ベルフェさん死んじゃうわよ。応援が来たら、すぐ本堂長官たちに追いつかないと。」
「招致いたしました。」
 俺は、応援を呼ぶために、端末にコールした。


 
 
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