57 / 108
ファイル:3 優生思想のマッドサイエンティスト
エピローグ
しおりを挟む
僕は謎の男の残したメモを元に、彼女のいる病室へと足を急いだ。
普段は厳しい親方ではあったが、僕が彼女に会いにいく旨と、公安の人間からのメモを見せると、返事二つで休暇をくれた。
会いにいく?
何しに?
僕は彼女になんと言えば良いのだろうか。
分からない。
いつもの街並みを抜けて、都市部に入る。
ここはいつも通り変わらなかった。
無能力者たちが、能力者を囲い込んでは、ひどい言葉や、暴力を投げつけている。
彼らは僕の存在に気づくと、チラ見してから、無能力者であることが分かると、再び、手錠をつけた咎人を殴り始めた。
「変わらないなこの社会は。」
メインストリートをしばらく歩いていくと、公安が管轄している大きな市民病院に辿り着く。
そこで僕は受付のアンドロイドに面会許可を取った。
アンドロイドからICカードを受け取り、そのままエスカレーターで二階に上がる。
そこからはエレベーターに乗って、伸びすぎた鉄の塔を眺めてから、大きく深呼吸をして気持ちを整えた。
突き放されるかもしれない。
気味悪がられるかもしれない。
でもそれも厭わない。
僕にはそれだけの罰を受けなければならない理由がある。
あるような気がするのだ。
もう逃げない。
正面から向き合おう彼女と。
僕は病室の前でノックした。
「どうぞ。空いていますわよ。」
僕は恐る恐る扉をスライドさせていく。
徐々に彼女の全容が明らかになっていく。
僕が一番恐れているのは彼女の顔だ。
病室のドアは、焦らすようにゆっくり開いていく。
そして彼女は僕の顔を見た途端に泣き始めた。
「いまさら……どのツラ下げて……ワタクシに……」
なぜだろう前が見えない。
僕も泣いていた。
色々な気持ちが混ざってなんと表現すれば良いか分からなくて。
胸の内から何かがグッと押し上げてくるのだ。
そして身体をグッと締め上げて、ブルブルと振動が来る。
「ごめん。ロバス。居なくなったりして。」
「ホントにバカ。アナタなんて大っ嫌いですわ。ワタクシの前から急に居なくなるくせに、こうやってまた。最低のクズ男。」
僕は彼女に抱きついてしまった。
本当はこうしたかった。
でもその勇気がなかった。
彼女はブルッと震えると、そのまま僕の背中に腕を回してくる。
「嫌だった? 」
「いいえ、ちょっとビックリしただけですわよ。ワタクシ。アナタに嫌われたのかと思って。」
「身体も。ちゃんと歩けるようにしてもらったのですわよ。叔父様に。」
そういうと彼女は、掛け布団の下の義足を僕に見せてくる。
僕はそれまでに彼女を追い詰めていた。
僕は自分の行動に腹が立った。
「どうなさったの? そんなに怖い顔をして。」
「本来。僕が君の脚になるはずだった。なのに…… 」
「許してあげる。」
彼女は頬を膨らませてそう言った。
「今なんて? 」
「許してあげますわ。アナタの全部。ワタクシから逃げたことも、ワタクシをこんなふうにしてしまったのも、またこうやってノコノコと帰ってきたことも。」
「うぅごめんよロバスごめんよ。」
それから彼女は、笑顔でこう言った。
「その代わり。」
「またワタクシの脚になって頂けますか? 」
答えは決まっている。僕は考える間もなく答えた。
アレほど重く考えていた自体をこうも簡単に。
「うん。喜んで。」
彼女は病室の天井を見ると、白々しくこう言う。
「あーなんだかお花が見たくなってきましたわね。」
「この病院の中庭は四季それぞれの花が管理されているのだとか。」
「鉄のオブジェばっかり見飽きましたわ。」
「あー誰かワタクシを連れ出して下さいませんかしら? 」
「お嬢様。お手をどうぞ。」
僕は彼女の手を取った。
普段は厳しい親方ではあったが、僕が彼女に会いにいく旨と、公安の人間からのメモを見せると、返事二つで休暇をくれた。
会いにいく?
何しに?
僕は彼女になんと言えば良いのだろうか。
分からない。
いつもの街並みを抜けて、都市部に入る。
ここはいつも通り変わらなかった。
無能力者たちが、能力者を囲い込んでは、ひどい言葉や、暴力を投げつけている。
彼らは僕の存在に気づくと、チラ見してから、無能力者であることが分かると、再び、手錠をつけた咎人を殴り始めた。
「変わらないなこの社会は。」
メインストリートをしばらく歩いていくと、公安が管轄している大きな市民病院に辿り着く。
そこで僕は受付のアンドロイドに面会許可を取った。
アンドロイドからICカードを受け取り、そのままエスカレーターで二階に上がる。
そこからはエレベーターに乗って、伸びすぎた鉄の塔を眺めてから、大きく深呼吸をして気持ちを整えた。
突き放されるかもしれない。
気味悪がられるかもしれない。
でもそれも厭わない。
僕にはそれだけの罰を受けなければならない理由がある。
あるような気がするのだ。
もう逃げない。
正面から向き合おう彼女と。
僕は病室の前でノックした。
「どうぞ。空いていますわよ。」
僕は恐る恐る扉をスライドさせていく。
徐々に彼女の全容が明らかになっていく。
僕が一番恐れているのは彼女の顔だ。
病室のドアは、焦らすようにゆっくり開いていく。
そして彼女は僕の顔を見た途端に泣き始めた。
「いまさら……どのツラ下げて……ワタクシに……」
なぜだろう前が見えない。
僕も泣いていた。
色々な気持ちが混ざってなんと表現すれば良いか分からなくて。
胸の内から何かがグッと押し上げてくるのだ。
そして身体をグッと締め上げて、ブルブルと振動が来る。
「ごめん。ロバス。居なくなったりして。」
「ホントにバカ。アナタなんて大っ嫌いですわ。ワタクシの前から急に居なくなるくせに、こうやってまた。最低のクズ男。」
僕は彼女に抱きついてしまった。
本当はこうしたかった。
でもその勇気がなかった。
彼女はブルッと震えると、そのまま僕の背中に腕を回してくる。
「嫌だった? 」
「いいえ、ちょっとビックリしただけですわよ。ワタクシ。アナタに嫌われたのかと思って。」
「身体も。ちゃんと歩けるようにしてもらったのですわよ。叔父様に。」
そういうと彼女は、掛け布団の下の義足を僕に見せてくる。
僕はそれまでに彼女を追い詰めていた。
僕は自分の行動に腹が立った。
「どうなさったの? そんなに怖い顔をして。」
「本来。僕が君の脚になるはずだった。なのに…… 」
「許してあげる。」
彼女は頬を膨らませてそう言った。
「今なんて? 」
「許してあげますわ。アナタの全部。ワタクシから逃げたことも、ワタクシをこんなふうにしてしまったのも、またこうやってノコノコと帰ってきたことも。」
「うぅごめんよロバスごめんよ。」
それから彼女は、笑顔でこう言った。
「その代わり。」
「またワタクシの脚になって頂けますか? 」
答えは決まっている。僕は考える間もなく答えた。
アレほど重く考えていた自体をこうも簡単に。
「うん。喜んで。」
彼女は病室の天井を見ると、白々しくこう言う。
「あーなんだかお花が見たくなってきましたわね。」
「この病院の中庭は四季それぞれの花が管理されているのだとか。」
「鉄のオブジェばっかり見飽きましたわ。」
「あー誰かワタクシを連れ出して下さいませんかしら? 」
「お嬢様。お手をどうぞ。」
僕は彼女の手を取った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる