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ファイル:3 優生思想のマッドサイエンティスト
潜入
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桐生慎二は、裏庭のマンホールを開けると、コッチを振り返った。
「北条?外傷は無いか? 」
「無いことはない。だがまざか。」
「下水管だよ。極東がウボクの衛生管理を口実に作ったもんだ。」
彼は俺の傷口が不衛生になり、俺が破傷風にかかることを気にしているのだ。
だが、それぐらいなら、能力を使うことでなんとかなる。
「感染症は……大丈夫だと思う。だがカーミラは…… 」
俺はカーミラを見た。
彼の額の傷は綺麗に塞がって跡形もなく無くなっている。
「呪いの残り香だな。奴はつい最近まで吸血鬼だった。不死だったんだよ。」
「不死だなんて、信じられねえよ。」
「どう?試してみるかい? 」
慎二が慌てて俺の前に立つ。
「やめておけ。奴にかつての頃の力は無い。」
「やらねえよ。一応、家に置いてあった抗生物質と、消毒液、貰って行ってもいいか? 」
「めざといな。ああ、分かった。終わったら降りてこい。三人揃ったら出発するぞ。」
そう言って彼は、下水管の柱を降りていった。
「じゃあ北条、下で待ってるから。」
カーミラもそれに続いた。
* * *
隠れ家で薬を掻っ攫ってきた俺が、下水管を降りていくと、下で二人は待っていた。
「よし、準備は良いな。出発するぞ。」
俺もカーミラと同様に彼の背中を追った。
ひどい悪臭だ。都市の生活排水が、水を酷く濁らせている。
足元ではネズミやGがガサガサと音を立てて蠢いていた。
「それにしても……色々と凄いところだな。」
俺は鼻を摘むと、手を払った。
「極東の地下にも、こういうデッカい空洞が根を張っているのか? 」
「ああ、そうだ。」
慎二はそっけなく答えた。
「極東は国土が小さいからな。こういうインフラ整備もしやすい。逆にウボクじゃ、臨海だけを整備するので手一杯だよ。」
「内陸の方は…… 」
「そうだな……予算のこともあるけど、美奈が反対した。だから井戸を掘ったり、下水の整備はしていない。」
あの美奈皇后が? 反対しただって?
「このままじゃ、国内で貧富の差が生まれるばかりだぞ。」
「そうだな。みんな不衛生な水を使わなきゃいけなくなって、女、子供が遠くの水辺まで水を汲みに行かなきゃいけなくて。」
カーミラがそこで口を挟んだ。
「『子供たちが労働をせずに、綺麗な水が飲めることが、より良いこと。』コレは僕らの価値観だよ。他人に価値観を押し付けるのは良くない。ましてや、内陸の村に推し入って、公共事業を行うなんて、もってのほかだよ。」
俺は彼らの考え方を理解できなかった。
「それで明日生きられるはずの命が無くなってもか? 」
「「俺たちは、そうやって価値観をぶつけあって、傷つけあった。」」
「自分のエゴは通す。だけど、その目的に他人を使いたくない。そうやって俺は一度失敗した。」
「答えはまだ無いよ。だけど、僕たちは考えることにしたんだ。また同じ結末に至らないように。」
カーミラは臣民から逃げるために、こっちの世界に来たと言っていた。
彼らの感じている重みというものは、俺の考えているものよりも、ずっと大きなものだったらしい。
「すまんなカーミラ。偉そうなこと言って。」
「え? 北条? なんのこと? 」
「やっぱり良い。進もうぜ。世界の奸は誰かが拭わなくてはならない。俺たちの大切な物を守るためにな。」
改造人間を作る研究者を逮捕したところで、この国の国王が、腕を振り下ろす訳では無い。また別の力に頼り、世界を滅ぼす計画を立てるだろう。
それはみんながみんな知っていた。
「皇帝とは僕が話すよ。」
その真っ直ぐな目線に、俺は思わず目を逸らしてしまう。
「助かる。正直俺には出来ない事だからな。」
「さぁ行こう。」
カーミラは慎二から地図を奪い取ると、右人差し指を突き出し、先陣を切った。
「カーミラ。暗闇で指を差すのはやめておけ。」
俺もその気配に気がついていた。
「オイ、ここにはバケモンが出るのかよ。」
「良いや、俺がアイツに調べされたところじゃ、そういう情報は無かった。」
本能を刺激され、危険を察知した黒く蠢くソレや、尻尾の生えた齧歯類たちは、一目散に、俺たちとは反対の方向へと逃げていく。
「北条、右によけろ。」
次の瞬間、逃げ惑うソレらを、舗装されたコンクリートごと、大蛇が飲み込んだ。
「蛇? 」
「さあな。水龍か、鰻か、ナマズかもしれんぞ。」
目の前の化け物は、両眼を赫く輝かせると、つるどい牙を光らせた。
「北条?外傷は無いか? 」
「無いことはない。だがまざか。」
「下水管だよ。極東がウボクの衛生管理を口実に作ったもんだ。」
彼は俺の傷口が不衛生になり、俺が破傷風にかかることを気にしているのだ。
だが、それぐらいなら、能力を使うことでなんとかなる。
「感染症は……大丈夫だと思う。だがカーミラは…… 」
俺はカーミラを見た。
彼の額の傷は綺麗に塞がって跡形もなく無くなっている。
「呪いの残り香だな。奴はつい最近まで吸血鬼だった。不死だったんだよ。」
「不死だなんて、信じられねえよ。」
「どう?試してみるかい? 」
慎二が慌てて俺の前に立つ。
「やめておけ。奴にかつての頃の力は無い。」
「やらねえよ。一応、家に置いてあった抗生物質と、消毒液、貰って行ってもいいか? 」
「めざといな。ああ、分かった。終わったら降りてこい。三人揃ったら出発するぞ。」
そう言って彼は、下水管の柱を降りていった。
「じゃあ北条、下で待ってるから。」
カーミラもそれに続いた。
* * *
隠れ家で薬を掻っ攫ってきた俺が、下水管を降りていくと、下で二人は待っていた。
「よし、準備は良いな。出発するぞ。」
俺もカーミラと同様に彼の背中を追った。
ひどい悪臭だ。都市の生活排水が、水を酷く濁らせている。
足元ではネズミやGがガサガサと音を立てて蠢いていた。
「それにしても……色々と凄いところだな。」
俺は鼻を摘むと、手を払った。
「極東の地下にも、こういうデッカい空洞が根を張っているのか? 」
「ああ、そうだ。」
慎二はそっけなく答えた。
「極東は国土が小さいからな。こういうインフラ整備もしやすい。逆にウボクじゃ、臨海だけを整備するので手一杯だよ。」
「内陸の方は…… 」
「そうだな……予算のこともあるけど、美奈が反対した。だから井戸を掘ったり、下水の整備はしていない。」
あの美奈皇后が? 反対しただって?
「このままじゃ、国内で貧富の差が生まれるばかりだぞ。」
「そうだな。みんな不衛生な水を使わなきゃいけなくなって、女、子供が遠くの水辺まで水を汲みに行かなきゃいけなくて。」
カーミラがそこで口を挟んだ。
「『子供たちが労働をせずに、綺麗な水が飲めることが、より良いこと。』コレは僕らの価値観だよ。他人に価値観を押し付けるのは良くない。ましてや、内陸の村に推し入って、公共事業を行うなんて、もってのほかだよ。」
俺は彼らの考え方を理解できなかった。
「それで明日生きられるはずの命が無くなってもか? 」
「「俺たちは、そうやって価値観をぶつけあって、傷つけあった。」」
「自分のエゴは通す。だけど、その目的に他人を使いたくない。そうやって俺は一度失敗した。」
「答えはまだ無いよ。だけど、僕たちは考えることにしたんだ。また同じ結末に至らないように。」
カーミラは臣民から逃げるために、こっちの世界に来たと言っていた。
彼らの感じている重みというものは、俺の考えているものよりも、ずっと大きなものだったらしい。
「すまんなカーミラ。偉そうなこと言って。」
「え? 北条? なんのこと? 」
「やっぱり良い。進もうぜ。世界の奸は誰かが拭わなくてはならない。俺たちの大切な物を守るためにな。」
改造人間を作る研究者を逮捕したところで、この国の国王が、腕を振り下ろす訳では無い。また別の力に頼り、世界を滅ぼす計画を立てるだろう。
それはみんながみんな知っていた。
「皇帝とは僕が話すよ。」
その真っ直ぐな目線に、俺は思わず目を逸らしてしまう。
「助かる。正直俺には出来ない事だからな。」
「さぁ行こう。」
カーミラは慎二から地図を奪い取ると、右人差し指を突き出し、先陣を切った。
「カーミラ。暗闇で指を差すのはやめておけ。」
俺もその気配に気がついていた。
「オイ、ここにはバケモンが出るのかよ。」
「良いや、俺がアイツに調べされたところじゃ、そういう情報は無かった。」
本能を刺激され、危険を察知した黒く蠢くソレや、尻尾の生えた齧歯類たちは、一目散に、俺たちとは反対の方向へと逃げていく。
「北条、右によけろ。」
次の瞬間、逃げ惑うソレらを、舗装されたコンクリートごと、大蛇が飲み込んだ。
「蛇? 」
「さあな。水龍か、鰻か、ナマズかもしれんぞ。」
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