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ファイル:3 優生思想のマッドサイエンティスト

合流

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「くたばれ代行者。」
「この国から出て行け。」
「偽善者め。失せろ。」
「侵略者が、お前のせいでワシらの子供が全員兵役に出されたんじゃ。」
 
「……なんだよ…これ。」
 四方八方から飛び交う罵倒に俺は目を見開いて驚愕した。
 本能的に辺りを見回してしまう。
 だが、俺たちを囲んでいる人々は全員揃って俺たちに憎悪を向けていた。
「死ねぇ西方の悪魔め!! 」
 一人の子供が、俺たちに石を投げる。
 石は俺の頬を掠めると、カーミラの左額に当たった。
 彼の額から、ツーッと鮮血が垂れているのが分かる。
 それを気に、人々はカーミラに石を投げ続けた。
 何度も何度も。
 俺は、ようやく我に帰ると、カーミラを投石から守った。
「おい、何やってるんだよお前ら。俺の友達に。カーミラが何したっていうんだ? 」

「誰じゃお前は!! 」
「お前もグランディルの人間か? 」
「お前は平等社会人だろ? 代行者の肩を持つ? 」
「今度は外の世界の人間と目を組んで、ワシらを苦しめる気か? 」
「嘘つき。俺たちを唆して、対等なんて言って。腹の底が見えたぞ。」
 カーミラがぐいっと俺の肩を握ると、俺を退けた。
 俯いているため、表情は良く見えない。
「北条。君には話していなかったね。」
「おい、カーミラ。何でお前はコイツらに…… 」

「僕が……僕が侵略者だからだよ。」

「極東軍が来たよぉ~みんな逃げて!! 」
 可愛らしい女の子の声で、カーミラを囲っていた人々は恐れ響めき、散り散りに逃げていってしまった。
「ありがとう。助かった。」
「そうだよな。お前も。危ないところを救われた。な。」
「………」
 カーミラは俺と目を合わせてくれない。
「あー。貴方たち怪我をしてるでしょ。私の家に来て!! 」
 カーミラは全身血まみれで、俺は肋が逝っている。
 とりあえず、この状態ではどこへ行くこともできないため、彼女の家に向かうことにした。
 だが
「罠かもしれないぞ。」
「いや、彼女を信じる。僕にはその義務があるんだ。」
 
     * * *

 市街地から離れたバラック小屋。そこに彼女の家はあった。
「ここね。私のお家。」
「良い家だな。」
 親御さんは? と聞こうとしたが、やめておいた。
 小屋は静かだ。
 いや、でももしかすれば、親御さんたちは、仕事に出掛けているのかもしれない。
 明け方こちらについて、サツにパクられて、襲撃に遭い、現在は午前10時を回っている。
「さぁさぁ中に入って。君たちの治療をするから。」
 俺たちはドアを開けて、暖簾をくぐった。
 緑の井草の匂い。
 畳という奴だ。俺の本家の実家にも、これと同じようなものがあった。
 そして、そこで片膝をついて我が物顔でくつろいでいる青年。
「桐生慎二!! 何でここに? 」
 そこでカーミラは少し元気がでたようだ。
「ダメだろ。家の鍵はちゃんと閉めておかないと、空き巣の被害に遭うからね。」
 すると青年が頬を膨らませる。
「失敬な!! 」
 少女が微笑む。
「そうだよ。先生は私の先生。私に生き方を教えてくれたんだ。」
「どういう意味なんだ慎二。他国で子供なんて作って。黒澄さんに言い付けるぞ。」
(青年は慌てて首をブンブンと振った。)
「誤解だ。千代にだけは勘弁な。」
「コイツはウボクで任務中に拾った。そん時、行き倒れていたから、生きる術を教えてやっただけだ。」
「公職をクビになって食えなくなった人がよく言うよ。」
 少女が湯呑みと、怪しげな薬草を持ってくる。
「今は先生の指導の元、探偵をやっているの。」
「そうだ。」
「奴らの居場所が分かった。」
 俺は食い入る。
「九条の居場所か? 」
「ああ、銃鬼の弾丸に呪いをつけておいたからな。」
「どこなんだ? 」
「まぁそうセクな。南瓜城だ。奴らはここの皇帝に取り入って、怪しげな研究をしている。恐らく。」
「僕たちに復讐しようとしているんだね。」
「グランディル人だけでは無いよ。世界に、だ。もちろん俺たち極東にもな。」
「これはますます、見過ごせなくなったな。問題は思ったより深刻化しそうだ。」
「乗り込むか? 」
 彼は首を振って否定する。
「それでこそ事が大きくなるだけだろ。ルートは既に確保している。」
「用意周到だな。」
 それから青年はカーミラの方を見た。
「お前はどーするんだカーミラ。奴らは俺たち二人でもなんとかなる。いや、してみせるさ。」
 カーミラは葛藤していた。
 握る手が震えているのが分かる。
「いや、僕も行くよ。どんな結末になろうとも。義務を投げ捨てることは許されない。僕はそういう立場の人間だから。」
「そうか……立派だな。お前は。」
「君の皮肉は聞き飽きたよ。」
 そういうと、彼はそれを鼻で笑った。
「皮肉……か。そうだな。そっちの方が俺のアイデンティティに合っている。」
「行くぜ北条。」
「よし、傷の応急手当て、終わったよ。」
 少女が俺の背中をポンポンと叩く。
 痛みがスッカリ消えたようだ。
「気をつけろ。包帯巻いて、痛み止めを塗っただけだ。切れた時にドットくるからな。」
「ならちょっとは休ませてくれても…… 」
「人手が足りん。力を貸せ。」
 俺たちは慎二の後を追った。


 
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