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ファイル:3 優生思想のマッドサイエンティスト
ワールド221
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ゲートの向こうは、飾り気のない大理石の大きな空間だ。
そこを大勢の人が行き来している。
条約により、人の行き来が制限されているので、殆どが観光客だ。
キャリーバックを持った平等社会人や異世界人が行ったり来たりをしている。
俺たちは改札ゲートを潜ると、街の中に出た。
そこはどうやら川に囲まれた三角州のようで、北側は巨大な壁が屹立しているようだ。
ここからでもその全容がよく見えた。
「ここは極東の真・外京。」
「なんで真ってつくのかは知らないけどさ。」
カーミラがそう説明してくれた。
教科書で読んだことがある。
多分ここは出島っていうところだろう。
橋に関所を作り、人の出入りをうまく統制しているのだ。
俺たちは出口で出入国の手続きを済ませると、外京を後にした。
そこからは電気自動車のタクシーに乗ると、左京の六条を目指した。
どうやらそこに異世界人の情報屋があるらしい。
俺たちは談笑を交わして、極東の独特な建物や、名物のウドンの尻尾と鴨蕎麦の話をしてから、六条で降りる。
「大丈夫? お腹空いてない? 」
端末の時計を見る。
どうやら不具合なく正確に動いているようだ。
「正午……か。」
「問題ないさ。その情報屋って奴が飯食ってる時間じゃなければな。」
「いや、客足が少なくなるこの時間に来てくれて嬉しいよ。」
暖簾から出てきたのは……不思議な雰囲気を醸し出す鬼? の青年だ。
今は軍服を着ていない。
非番なのだろうか。
店の入り口の柱に、一枚の看板が雑に貼り付けてある。
『ガキお断り。』
「まぁ立ち話もなんだ。中に入れよ。」
俺は小声でカーミラに話しかけた。
「あの人、軍人なんじゃ? 」
するとカーミラは困った顔をして答えた。
「それは本人から直接聞くと良いよ。」
鬼の青年は、俺たちを畳部屋に招くと、座布団に座り込み、俺たちを手招きした。
「極東の公務員なら辞めたよ。俺の性に合わなくてな。」
「オヤジにも馬鹿怒られたし、槍馬にも美奈にも呆れられるし、千代の両親からは勘当されるで、散々だけどな……っと。これは余計か。今は奴らが表で引き受けられない仕事を俺が請け負っているよ。いつの時代もそういう人間は必要だし。その方が俺の性に合っている。」
「とてもそういうふうには見えませんが。」
俺は表の看板を指差した。
そしたら青年は呆れた声で、言葉を返してくる。
「ああ、表向きは、呪具残骸の専門店をやってるんよ。俺、呪力の扱いだけは、才があるみたいでな。」
「んでよ。こういうところってガキがよく来るんよ。小遣い持ってくりゃ。俺んところで呪具残骸を買いに来るわけ。」
「そしたら次の日両親が飛んできたんよ。『ガキに危ないもん持たせるな。』ってな。んなもん知るかってんだ。して良いことと悪いことを教えるのは俺の仕事じゃねえし、親の両分だろ? 」
「はぁ。」
あの看板にそんなストーリーがあったとは。
「っと話が逸れたな。んで、今二つの世界で問題になっている例の怪死事件だっけ? 」
「慎二、何か知っていることはない? 」
彼は少し悩んでいるようだった。
それから答える。
「コレ、外部に漏らして良いのかな? どうやら、この世界に密入国者がいるらしいんだ。コレが公になれば、極東のメンツは丸潰れよ。」
「なんせ世界の出入国を取り持っているわけだからな。」
「役員たちで賄賂が横行しているならまだ可愛いもんよ。」
「ソイツら懲らしめれば良いだけだからな。」
そこから彼は腕を組んでさらに考え込んでいた。
「おりゃ口は硬い方なんだけどよ。そういう人間でも、うっかり漏らしちまうこともあるんよ。」
「どうやら、情報は僕たちで共有しておいた方が良さそうだね。」
と、カーミラ。
「どうやら機材を介さずに、次元にに穴を開けられる能力者がいるらしいんよ。んま。極東が掴んだソースもない不確かな情報だけどな。アンタらを疑っているわけじゃないけど、罠かもしれんし。」
能力者……
俺は生唾を飲んだ。
可能性としては大いにある。
そして、辻褄が合う。
違法に改造された人間が、こちらの世界に来た理由が……
「俺もアンタに伝えないとならないことがある。」
「犯人は俺たちの世界の改造人間たちだ。」
彼はため息をついた。
「何か根拠はあるのか? 」
「さっき俺たちは改造人間に襲われた。国際政府のやり方をあまり良く思っていない奴らのな。」
「おいおい、結論を急ぐなよ。ちょっとそれを結びつけるのは横暴すぎないか? 改造人間だって線はおおよそ間違ってなさそうだけどよ。」
「それはそうと、まずは密入国を手引きしている人間を捕まえるのと、誰が人間を改造しているのかを突き止めないと。」
カーミラは立ち上がり、店を出ようとしている。
「おおい、ちょっと待てよカーミラ。どこへ行くんだ? 」
「決まっている。密入国のことは慎二に任せて、僕たちは、その改造人間を作っている人間を探しに行くんだよ。」
平等社会で秘密裏に研究を行うことは不可能だ。
その色合いは、蝠岡が起こした大事件の後、いっそう濃くなった。
今はAIが一世帯あたりの生活費、エネルギー使用量を厳密に検査し、少しでも異常があると、すぐにパトロールが飛んでくるようになったらしい。
お陰で平等社会人の不貞行為が激減したんだとか。
というのは余談であるが。
俺は彼に、かくかくしかじか、と説明し、彼は再び座布団に座り込んだ。
「北条、つまり君は、サイボーグを生み出しているのは、平等社会人じゃなくて、ここの人間だって? 」
「いや、俺たちの世界から何者かの手を借りて、こちらに逃げてきた研究者が、こっちの世界でラボを築き、悪さをしているのかもしれない。」
「しかし、だとしたら、どうやって彼らのアジトを突き止めるんだい? 雲を掴むような話だと思うけど…… 」
「それは…… 」
そこから先は何も考えていなかった。
俺の考えは机上の空論で、奴は今も、平等社会でひっそりと身を潜め、悪事を働いているかもしれない。
「あー、もう昼休憩終わり。午後からも客が来そうだからとりあえずお開きな。お前らも飯食ってこいよ。」
「ああ、そうだねお腹がすいた。」
「行こう北条。僕、美味しい蕎麦屋さんのお店、知っているだ。」
そう言って俺たちは、彼の店を後にした。
そこを大勢の人が行き来している。
条約により、人の行き来が制限されているので、殆どが観光客だ。
キャリーバックを持った平等社会人や異世界人が行ったり来たりをしている。
俺たちは改札ゲートを潜ると、街の中に出た。
そこはどうやら川に囲まれた三角州のようで、北側は巨大な壁が屹立しているようだ。
ここからでもその全容がよく見えた。
「ここは極東の真・外京。」
「なんで真ってつくのかは知らないけどさ。」
カーミラがそう説明してくれた。
教科書で読んだことがある。
多分ここは出島っていうところだろう。
橋に関所を作り、人の出入りをうまく統制しているのだ。
俺たちは出口で出入国の手続きを済ませると、外京を後にした。
そこからは電気自動車のタクシーに乗ると、左京の六条を目指した。
どうやらそこに異世界人の情報屋があるらしい。
俺たちは談笑を交わして、極東の独特な建物や、名物のウドンの尻尾と鴨蕎麦の話をしてから、六条で降りる。
「大丈夫? お腹空いてない? 」
端末の時計を見る。
どうやら不具合なく正確に動いているようだ。
「正午……か。」
「問題ないさ。その情報屋って奴が飯食ってる時間じゃなければな。」
「いや、客足が少なくなるこの時間に来てくれて嬉しいよ。」
暖簾から出てきたのは……不思議な雰囲気を醸し出す鬼? の青年だ。
今は軍服を着ていない。
非番なのだろうか。
店の入り口の柱に、一枚の看板が雑に貼り付けてある。
『ガキお断り。』
「まぁ立ち話もなんだ。中に入れよ。」
俺は小声でカーミラに話しかけた。
「あの人、軍人なんじゃ? 」
するとカーミラは困った顔をして答えた。
「それは本人から直接聞くと良いよ。」
鬼の青年は、俺たちを畳部屋に招くと、座布団に座り込み、俺たちを手招きした。
「極東の公務員なら辞めたよ。俺の性に合わなくてな。」
「オヤジにも馬鹿怒られたし、槍馬にも美奈にも呆れられるし、千代の両親からは勘当されるで、散々だけどな……っと。これは余計か。今は奴らが表で引き受けられない仕事を俺が請け負っているよ。いつの時代もそういう人間は必要だし。その方が俺の性に合っている。」
「とてもそういうふうには見えませんが。」
俺は表の看板を指差した。
そしたら青年は呆れた声で、言葉を返してくる。
「ああ、表向きは、呪具残骸の専門店をやってるんよ。俺、呪力の扱いだけは、才があるみたいでな。」
「んでよ。こういうところってガキがよく来るんよ。小遣い持ってくりゃ。俺んところで呪具残骸を買いに来るわけ。」
「そしたら次の日両親が飛んできたんよ。『ガキに危ないもん持たせるな。』ってな。んなもん知るかってんだ。して良いことと悪いことを教えるのは俺の仕事じゃねえし、親の両分だろ? 」
「はぁ。」
あの看板にそんなストーリーがあったとは。
「っと話が逸れたな。んで、今二つの世界で問題になっている例の怪死事件だっけ? 」
「慎二、何か知っていることはない? 」
彼は少し悩んでいるようだった。
それから答える。
「コレ、外部に漏らして良いのかな? どうやら、この世界に密入国者がいるらしいんだ。コレが公になれば、極東のメンツは丸潰れよ。」
「なんせ世界の出入国を取り持っているわけだからな。」
「役員たちで賄賂が横行しているならまだ可愛いもんよ。」
「ソイツら懲らしめれば良いだけだからな。」
そこから彼は腕を組んでさらに考え込んでいた。
「おりゃ口は硬い方なんだけどよ。そういう人間でも、うっかり漏らしちまうこともあるんよ。」
「どうやら、情報は僕たちで共有しておいた方が良さそうだね。」
と、カーミラ。
「どうやら機材を介さずに、次元にに穴を開けられる能力者がいるらしいんよ。んま。極東が掴んだソースもない不確かな情報だけどな。アンタらを疑っているわけじゃないけど、罠かもしれんし。」
能力者……
俺は生唾を飲んだ。
可能性としては大いにある。
そして、辻褄が合う。
違法に改造された人間が、こちらの世界に来た理由が……
「俺もアンタに伝えないとならないことがある。」
「犯人は俺たちの世界の改造人間たちだ。」
彼はため息をついた。
「何か根拠はあるのか? 」
「さっき俺たちは改造人間に襲われた。国際政府のやり方をあまり良く思っていない奴らのな。」
「おいおい、結論を急ぐなよ。ちょっとそれを結びつけるのは横暴すぎないか? 改造人間だって線はおおよそ間違ってなさそうだけどよ。」
「それはそうと、まずは密入国を手引きしている人間を捕まえるのと、誰が人間を改造しているのかを突き止めないと。」
カーミラは立ち上がり、店を出ようとしている。
「おおい、ちょっと待てよカーミラ。どこへ行くんだ? 」
「決まっている。密入国のことは慎二に任せて、僕たちは、その改造人間を作っている人間を探しに行くんだよ。」
平等社会で秘密裏に研究を行うことは不可能だ。
その色合いは、蝠岡が起こした大事件の後、いっそう濃くなった。
今はAIが一世帯あたりの生活費、エネルギー使用量を厳密に検査し、少しでも異常があると、すぐにパトロールが飛んでくるようになったらしい。
お陰で平等社会人の不貞行為が激減したんだとか。
というのは余談であるが。
俺は彼に、かくかくしかじか、と説明し、彼は再び座布団に座り込んだ。
「北条、つまり君は、サイボーグを生み出しているのは、平等社会人じゃなくて、ここの人間だって? 」
「いや、俺たちの世界から何者かの手を借りて、こちらに逃げてきた研究者が、こっちの世界でラボを築き、悪さをしているのかもしれない。」
「しかし、だとしたら、どうやって彼らのアジトを突き止めるんだい? 雲を掴むような話だと思うけど…… 」
「それは…… 」
そこから先は何も考えていなかった。
俺の考えは机上の空論で、奴は今も、平等社会でひっそりと身を潜め、悪事を働いているかもしれない。
「あー、もう昼休憩終わり。午後からも客が来そうだからとりあえずお開きな。お前らも飯食ってこいよ。」
「ああ、そうだねお腹がすいた。」
「行こう北条。僕、美味しい蕎麦屋さんのお店、知っているだ。」
そう言って俺たちは、彼の店を後にした。
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