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ファイル:1 リべレイター・リベリオン

最終決戦

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「さっすがぁー。」
 彼女はいつにも増してテンションが高かった。
「うんうん、私の部下ならやってくれると思ったわ。」
 嘘つけ。
 いやいや、俺がそう思ってしまうのは、俺の心が汚れているから。
 そう思いたい。
 そうだ、彼女が俺を褒めてくれている。
 ここは素直にその気持ちに応えるべきだろう。
「うん、頑張ったよ。俺。」
 金川はというと、窓際でうわの空であったが、すくっと立ち上がり俺を指差した。
「なるほどな。九条が、なぜお前を気にかけているのか分かったぜ。」
 随分と上から目線の感想ではないか。
「リベリオンに来ないか? 」
 俺は無言で首を横に振る。
「冗談だ。んじゃあな。俺たちはもう公安の犬。」
 そう言って、じっと考え込んでしまっている玉鉄の奥襟を引っ張ると、そのまま控室から出ていってしまった。
「次会う時は敵同士かもしれない。」
「そん時は容赦しねえからな。」
 俺は彼を引き止めた。
「おい、ちょっと待てよ。最終試合がまだ残っている。負けたくせに、それは薄情じゃねえのか? 」
「勝負は、もう、ついている。アレに勝てるやつなんぞいない。それはお前が一番よく知っている筈だ。お前にその忌々しい鎖をつけたやつ本堂の実力をな。」
 腕輪をつけた黒服がワラワラとやってきた。
「無駄口を叩くな。ほら、さっさと来い罪人め。」
 金川は不敵で不気味な笑みを俺に向けると、そのまま消えてしまった。
「長官は勝つと思うか? 」
「十中八九ね。」
「アンタはそう思わないんでしょ? 」
「ああ、あのガキからは底知れぬ力を感じる。」
「アナタはそう思いたいのね。」
 反応に困った。
 控室にも勿論盗聴器はある筈だし、だが彼女が俺にカマをかけているとも思えない。
「大丈夫、ここには盗聴器も監視カメラも無いわ。」
 俺は無言でコックリ頷いた。
「なら見届けましょうよ。私たちの未来を。」
   
       * * *
 
 勝負は一瞬だった。
 生身の身体能力で長官を上回った軍服の青年が、その珍しい武器を巧みに使いこなし、長官を下したのだ。
 会場でブーイングが巻き起こる。
 本堂長官に対する失望と、青年に対する侮辱だ。
 俺は控室の窓を破り、外に出ようとした。
 その腕を鵞利場が抑える。
「もういいの北条、私たちは頑張ったわ。最善を尽くした。それで負けたの。」
「だからって……酷すぎる。アイツらにリスペクトってモノは無いのか? 闘ったモノたちに対する。」
「私たちから見れば、聖戦かもしれない。でも彼ら無能力者から見てみればコロッセオの剣闘よ。」
 そうしているうちにも、黒服たちが、青年を取り囲む。
「なんで…… 」
「あの方に見つかったんだわ。」
 あの方、名前は出さないが、俺も誰だか知っている。
 国際政府、大家族同盟ビック・ファミリア・アライアンスのトップ。
 つまりこの世界の支配者。
 ビック・ファーザーだ。
 俺は今度こそ控室から飛び降りようとした。
「コラ、戻りなさい。アナタが今出れば、ラストプリズン行きは間違いないわ。」
 「もういい、俺が死んでも、能力者の運命は俺が決める。」
___その刹那。
 黒服服たちが次々と、悲鳴を上げて倒れていく。
 九条? それとも蝠岡か?
 来訪者は高らかに舞い、青年の背後に回った。
 次々と黒服を倒していく。
 不意にスクリーンが暗転した。
 『あの方』がついに姿を現したのだ。
 白い髭を生やした中年ではあるが、精力のある、また厳格な顔つき。
 いや、厳格であるのは、彼の感情が昂っていることも助けているのかも知れない。
 だが、その激昂も、民衆たちの喝采も、俺にとってはどうでも良かった。
 問題はその先だ。
 スクリーンが不意に移り変わる。政府の意図的に行われたものでは……恐らく無い。
 画面に映ったのは、俺のよく知る人物だった。
 蝠岡……なぜ?
 彼はラストプリズンで死ねない地獄を味わっているはず、こんな大それたことを出来る立場でも無い筈だ。
 俺は走った。
 控室を抜ける。
 鵞利場が俺を呼び止めている気がする。
 だがそれも遠い世界の出来事だった。
 混乱で警備が手薄になっている。
 俺は走った。
 走った。
 そして、彼を目指したのだ。
 彼が収容されているラストプリズンに。
 ハアハアの息を切らしながら、リスクも顧みず、セキュリティーなんて眼中に無かったし、正式な手続きを踏まずに、監獄へと立ち寄った。
 幸い、守衛と門番は全員出払っていたので、簡単に忍び込むことができた。
 走る。
 走る。
 走り続ける。
 体力には自信があったが、獄中の階段も、廊下もどこまでも長く続いており、彼にたどり着くことはできない。
「やぁ。」
 彼のその声で、俺は足を止める。
 まるで俺が来ることを分かっていたかのような。
「ちょうどいい。話し相手になってくれないか北条。」
 すっかり痩せ細ってしまった蝠岡が俺を手招きしていた。



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