上 下
26 / 108
ファイル:1 リべレイター・リベリオン

奇襲

しおりを挟む
 翌日、俺たちは化学工場跡に集まった。
 俺たちがついた頃には、既に公安の人間、能力者狩りのフリーランス、バウンティーハンターなどが集まっていた。
「よお。新入り、遅いぞ。」
 犯罪課の上司が俺の背中をポンポンと叩く。
「新入りじゃなくて、北条っス。」
「よお、ちゃんと起きれたか? 」
「はい。」
「私が起こすまで寝てたでしょうが。」
 と鵞利場。
 というのにも語弊がある。
 俺はちゃんと一時間前に手錠のアラームをセットしていたのに、鵞利場がその一時間前、つまり二時間前に突然モーニングコールをしてきたのだ。
 どうやら朝飯を作るのを手伝うということらしかった。
 俺はというと、彼女の踏み台を動かしたり、材料や器具を出し入れしただけであったが。
「「ハハハハハ。」」
 和やかな笑いが起こる。
 気がつけば俺も笑っていた。
 俺は気を引き締め直すために、犯罪課の上司に質問した。
「異世界人はまだ来られないのですか? 」
 彼も真剣な眼差しで俺を見る。
「ああ、まだみたいだな。そういやお前は長官と行動を共にしてたから、異世界人を見たんだってな。」
 俺は無言でゆっくりと頷いた。
「はい。一度だけ、あっちの世界で。」
「奴らは、その、どんな感じだったんだ。」
 異世界という存在に、彼の理解が追いついていないせいか、質問が抽象的になっている。
 俺はその問いに対して抽象的に答えた。
「奴らは武器を持った野蛮な奴らです。」
「そして…… 手錠は無く、なんの制約も無く能力を使っていました。」
 上司が俺の顔を覗き込む。
「どうした? 顔色が悪いぞ。」
 この感情は彼らに対する畏敬の念からでは無い、自分を欺いていることに対する恐怖だ。
「なるほどなぁ…… 」
 「誤魔化せた」というよりは、相手が誤った認識をしたということの方が正しい。
 ひとまず、その場を凌ぐことができた。
___不意に甲高い悲鳴が上がった。
 気がつけば、業務用の宅配アンドロイドが、人々を襲っているでは無いか。
 俺の手錠が音もなく外れる。
 鵞利場では無い。
[迂闊だった。すまない北条くん。]
 長官との通信が繋がる。
「どうなっていやがる。業務用のアンドロイドが人を襲っているぞ。」
[奴らは確かに正規のアンドロイドだ。だから、この突発的な状況に対処出来なかった。それにメインプログラムには、なんの異常もない。それもおかしな話だ。]
「じゃあ奴らはなぜ人を襲っている? 人を襲えないようにプログラムされているんだろ? 」
[こちらからの映像じゃ、よくわからない。すまない。]
「なら、俺に任せてください。」
 俺は彼らの前まで接近すると、襲われている人間たちを、アンドロイドから引き剥がし、両手でガッチリ捉えた。
 刹那、機体の温度が上がり始めていることを確認した俺は、跳躍し、空中でアンドロイドの爆風を受け止める。
 幸い、被害を最小限に抑えることが出来た。
 しかし、それは人々の恐怖を煽り、さらなる混乱を招く。
 爆発の間際、アンドロイドの背中から、光るケーブルらしき何かが離れていっているのを俺は見逃さなかった。
「有線だと? 」
 道理でレーダーにも映らないわけだ。
 もちろんメインプログラムにも異常は見当たらないはず。
「クソっ。」
 鵞利場がアンドロイドと善戦している最中に、バウンティーハンターたちが、それとの戦闘に苦戦していた。
 俺は慌てて彼らの元に戻ると、アンドロイドに飛び乗る。
「【伍ノ岩】」
ロンドン橋堕ちた シャッキョウオトシ
 頭をかち割り、そのまま飛び乗ると、全身で爆風を受け止める。
「長官、有線接続の遠隔操作なら、理論上、どれほどの細さまでなら、信号を無理矢理書き換えられる? 」
[そうか、その手が。コードなんて理論上どこまで細くても可能だよ。ただ信号さえ送れれば良い。]
「鵞利場。背中を狙え。」
 彼女は無言でアンドロイドの背中に回り込むと、回し蹴りを放った。
 光る糸のようなものが、業務用のアンドロイドから引き剥がされ、暴走が止まった。
 だが俺は疾走すると、その糸を追いかけた。
 犯人へと続く、その糸口を。
 ビルの壁に飛び移り、壁を走り出すと、屋上で跳躍し、今度は摩天楼の谷へと飛び降りると、深淵深くまで落ちていき、ダクトをかわしながら、薄暗い地面に着地する。
 走りながら室外機を踏み台に跳躍。
 糸をつかみ損ねて、地面に転がる。
 すぐに立ち上がると、突き当たりを右に曲がったそれを追いかけた。
 しかし、角を曲がったところで。
[警告:逃亡は重罪です。]
 手錠に再びロックがかかる。
「クソっ。」
 糸も見失ってしまった。
「長官!! 」
[冷静になりたまえ、君は明らかに敵の罠にハマっていた。おびき出されているんだよ。]
「なら罠ごと噛み砕くまでです。俺のこの能力なら。」
[君の任務は来賓の護衛。敵を深追いすることではないだろう? ]
「……分かりました。戻ります。」
 襲撃者の目的はなんなんだ? 私怨? それとも異世界人との交流を良しとしない人間の仕業か?
 なぜ? 俺たちが消耗すれば、平等社会の命運だって危なくなるはずなのに。
[こちらは私が調査をしておく。君は護衛と、明日の戦いに向けて備えて置いてくれ。]
 俺は化学工場へと戻り始めた。


 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...