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平等な社会

転移装置護送任務

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「おはよう、執行者。」
 俺が長官室に入ると、俺の上司が真っ先に挨拶をしてきた。
「ほら、おはようございますでしょ。」
 挨拶は基本。
 上司からの指摘を受けて、俺は挨拶を返した。
「おはようございます。鵞利場オブザーバー。」
 それから本堂の方を見て挨拶をした。
「おはようございます。本堂長官。」
「う~んサマになって来たんじゃないか北条クン。いや結構結構。」
 そして俺は本堂の横に立っている秘書にも挨拶をした。
「おはようございます。宜野座さん。」
「おはようございます。北条力様。」
 本堂が首を傾げる。
「おや? 彼女のことはまだキミに話していなかったはずだが……まぁ良い。紹介する手間が省けたよ。」
「早速本題に入ろうか。」
「キミを執行者に招き入れた理由。大体分かっているだろうと思うけど、護衛だよ。」
「キミと闘った時、光るモノを感じたからね。依頼人を護ろうという信念。気迫。だがそれよりも…… 」
「キミが異端の流派、裏天岩流の使い手だということだ。」
 裏天岩流、北条系に伝わる護るために編み出された天岩流を、攻撃に応用した流派だ。
 もちろん、そんな邪流を本家の人間も、他の条家の人間も認めなかった。
 北家の教義にも、条家のパワーバランスの均衡にも反するからだ。
「俺は能力者の中でも異端なんです。政界には条家の人間も多くいる。そんな俺をそんな理由で雇ったなんて。」
 彼は宥めるように手を振った。
「まぁまぁ、謙遜するのは今回の任務を聞いてからにしてくれたまえ。」
「今日、君たちにやってほしいのは。」

「次元転移装置の移動だ。」

 今朝、報道でやっていた次元転移装置。
「公安は、アレで異世界に旅立つ人間を危惧している。」
「もし、他の世界の実態が民衆に知れ渡ったら、ここはユートピアでは無くなる。」
 護送任務。新人研修にはもってこいであろう。
「ん、分かりましたよ。じゃあ俺らは、IT業者のフリして、巨大なコンピュータを蝠岡のラボから移動させる業者ってことで、そこらで端末でもいじっていたら。」
 三人とも黙り込んでしまった。
「ゴホン。」
 最初に口を開いたのは長官だ。
「キミが仕事を舐めているということは置いておいて。君も朝の情報局の報道を見ただろう? 」
「ええ見ました。」
「あんなことしちゃ。ゴロツキどもはどうする? 次元転移装置は奴らにとって喉から手が出るほどのものであろう。」
「平等社会から逃亡するにも、政府に交渉するにも、そもそも映像課が情報を開示しなければ、こんなことになることは無かった。」
「まぁ、どちらにせよ、あんなモノ隠し通せる代物ではありません。いずれ情報は出回っていたでしょう。」
 と宜野座。
「北条、これはとても重要なプロジェクトよ。護衛には犯罪課はもちろん、フリーの用心棒まで雇われている。」
 うちの上司様は真剣な顔で俺を見つめている。
 俺の言葉がいかに軽々しいモノであったかを叱るように。
「まぁ、護衛をつければつけるほど奴らには嗅ぎつけられる。せいぜい偵察をしてもらう程度だけどね。」
「キミを雇った理由? なんとなく分かったかな? もちろん、本家からの許可は出ているよ。『うちのをどうぞ存分にお使いください。』って。良かったね。私たちに仕えることは、本家の教義に背くどころか、彼らの意向そのものじゃぁないか。これもWIN WINって奴だろ。」
 これは唾を飲んでゆっくり頷いた。
「分かりました。やります。」
 これはチャンスかもしれない。
 能力者の社会的地位を向上させる。
 俺が活躍すれば、また殴られる奴が減る。
 そのはずだ。
 本堂が両手を頭上にあげるとパンパンと叩いた。
「ヨォし。仕事の大まかな内容は理解して貰えたみたいだし、早速現場に直行しようか。宜野座くんはオフィスを頼む。」
「承知いたしました。」
「レッツゴごぉぉぉぉぉ。」
 
      * * *

「てっきりあんたは長官室のディスクで書類の整理をしているもんだと思ったが…… 」
「なーにを言っているだ? 北条クン。キミを捕まえたのは他でもない僕。で唯一能力者に対抗できる僕が、今回の仕事で自室に引きこもっているわけにはいかないだろう? それにずっと座っていたら体に悪いし。エコノミー症候群になって、片目と片腕が動かなくなっちゃったら困るだろう? 」
「たまには罪人を殴ってストレス発散をしないと。」
「俺はそんな心境であなたに殴られていたんですね。」
「まぁまぁそんなに気を悪くしないでくれたまえ。キミはもう公安で働く身。上司と部下の関係だ。細かいことは水に流そうじゃぁないか。」
 長官と鵞利場はタクシーを横切る。
 現場には徒歩で行くのだろうか?
 もしかして、経費削減とかぁ?
 俺はこっそり彼女に訊いた。
「鵞利場オブザーバー? あの、現場には? 」
「チューブを使うわチューブ。」
「チューブ? 」
「地下鉄のことよ。他の護衛も同じ、それぞれ違うルートを通って、現地集合ってことになっている。あまり大人数で移動したら、怪しまれるし。」
「それに地下鉄は電波が届かない、ただ、街の至る所に防犯カメラがあって、地下鉄も例外ではないんだけどね。」
「ハッキングされなきゃ安全。鉄塔から動向を探られるよりはマシでしょ。」
 俺たちは人混みに紛れて、地下鉄の入り口にへと足を運んだ。
 尾行の心配は……ない。
 それは闇社会で仕事をこなしていた俺だから言えることだ。
 そりゃそうだろう。
 お尋ね者がわざわざ監視カメラに映るような真似はしない。
 ゆえに、彼らが電車で尾行してくる心配は無い。
 改札口に手錠をかざすと、残高が減り、ゲートが開く。
「うぉ。スゲェ。この手錠はほんと便利だな。なんでもできる。」
「そうよ。能力者の動向を管理するために、存在するモノだもの。出来ないことがあると言うことは、それすなわち管理できないモノよ。」
「あなたがポルノを買うと、そのデータが公安の情報課や映像課に送られちゃうの。」
「か、んなもん買ってねえよ。」
 俺たちは電車に乗り込んだ。


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