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平等な社会
夜の街
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「はー。んま、お小遣いくれたことだし、頼まれたことぐらいしねえと人としてダメだよなぁ。」
口ではそう言ってみたものの、心の中では別の感情が渦巻いていた。
彼女の意識通りに動かなければ、俺は殺される。
絶対にそうだ。
そしてあの大麻とか言う許嫁が俺の死をもみ消すんだ。
いや、そもそも俺に人権があるのだろうか?
能力者の俺に。
プンプン
「落ち着け北条力。お使いなんてガキでも出来るもんだ。二十歳になった俺に出来なくてどうする? 」
エレベーターの矢印ボタンを押したので、指示を聞きつけた本体が健気にも俺のいる階に飛んでくる。
俺は一階のボタンを押し、扉を閉める。
幸い、他に誰かが乗り込んでくることは無かった。
国際政府本部の時のようなタマヒュンも無い。
安全運転で使用者を無事一階に届けて終わったエレベーター君は、次の仕事を求めて律儀にも帰っていく。
扉は内側からも外側からも認証を要求される仕様で、俺が手錠を翳すと、鵞利場の名前でセキュリティーが解かれる。
俺が自動ドアを抜けると、表道と反対の方向、裏路地で悲鳴が聞こえた。
手錠をつけた能力者が、無能力者達にリンチされている。
彼と俺の目が合う。
生憎、今の俺に、奴らを屠る力は無い。
と言うか、昼間彼女から言われた言葉が頭から離れなかった。
「貴方の、貴方達の境遇が悪くなるだけ。我慢しなさい。」
俺たちは殴られることでしか生を享受出来ないのか。
俺は公安に問い合わせることも、彼らに殴り込むことも出来ない。
だったらどうすれば良いんだ?
何が正解なんだ?
間違えることしか出来ないのか。
殴られている能力者が俺を指した。
俺は慌てて物陰に隠れる。
「んだテメェ? お前を助けてくれる人間なんぞここには居ねえよ。世界中どこを探してもなぁ。無能力者も能力者も、公安も、胸糞悪いスキルホルダーの連中もなぁ。」
「…それがお前の答えか。いつまでも逃げ続けて。己の力と向き合わないで。」
気配に気づかなかった。
金髪に色黒の男。
手錠は付けていない。
無能力者ッ。
俺は戦慄した。
「お前が北条力か失望したぜ。」
そういうと、彼は無能力者の前まで瞬間移動し、両手から生成した黄金の刃で、彼らを滅多刺しにした。
「ホラ、さっさと行けよクソ野郎。」
「ひぃ。」
嬲られていた能力者は、腫れた顔を抱えながら、俺を突き飛ばして逃げていった。
「俺はリベリオン摩天楼の錬金術師。金川練華だ。覚えておけ。」
そういうと彼はマンションの影に消えていった。
あまりの出来事に過呼吸になりかけた俺は、公安にコールする。
「人が死んでいます。ええ、マンション00の裏路地で。」
* * *
事情聴取を終えた俺は、ようやく解放されて、交番を後にする。
聳え立つ鉄塔の群生地では、未だに電灯が消えない。
昼間と見分けがつかないほどの明るさだ。
都市部では睡眠障害が危惧され、窓に遮光シートが貼られるほどである。
俺はやっとの思いでドラッグストアにたどり着くと、そこで買い物を始めた。
そこで朱色のプラスチック容器を手に取り、カゴに放り込む。
腕の手錠の数値が、10000から9702へと変化した。
カゴから容器を取り出すと、数値が9702から10000に戻る。
「なんだこれ面白え。」
「こんばんは、北条力さんですね。」
急に名前を呼ばれて、慌てて商品を買い物カゴに放り込んだ。
俺のことを本名で呼ぶ人間などいない。
というか、実家の人間は俺を邪険にするし(まぁ当然のことだが。)俺の知人はみんな獄中なので、俺を知る人間なんぞ。
俺は自然と、その声の主から距離を取った。
便利屋時代からの癖だ。
昔、なにかとお世話になった人たちだろう。
俺にいっぱい食わせにきたわけだ。
生憎事件のこともあって水も喉を通らない。
「そんなに警戒されなくても……あっ申し遅れました。」
「私、宜野座輝子と申します。」
「本堂様の秘書を務めさせていただいております。」
彼女の顔からは表情を読み取ることが出来ない。
だが、本人は笑顔のつもりなんだろう。
警戒させまいとする努力が伝わってくる。
「北条様もお使いですか? 」
「ええ、まぁそんな感じです。」
「あまり顔色がよろしく無いような? 」
「気のせいです。」
「ご飯は、ちゃんと食べてくださいね。犯罪課の仕事はハードなので。」
「そおなの? 」
「本堂様から何もお聞きしていないのですね。」
「……」
「……」
「それでは私は、本堂様は今も事務処理をされておられますので、私も油を売っている場合ではありません。」
「失礼します。」
そういうと、彼女はドラッグストアから出ていってしまった。
俺もトリートメントをカゴに入れたまま、彼女と同じようにゲートを通過する。
「♪~♫。」
ファンファーレと共に、手錠に『毎度ありがとうございます。』の文字が表示される。
向かいのコンビニエンスストアで、エネルギーバーとゼリー(肉と穀物系は身体に入りそうに無かった。)を買い込むと、それを齧りながら帰路を急いだ。
口ではそう言ってみたものの、心の中では別の感情が渦巻いていた。
彼女の意識通りに動かなければ、俺は殺される。
絶対にそうだ。
そしてあの大麻とか言う許嫁が俺の死をもみ消すんだ。
いや、そもそも俺に人権があるのだろうか?
能力者の俺に。
プンプン
「落ち着け北条力。お使いなんてガキでも出来るもんだ。二十歳になった俺に出来なくてどうする? 」
エレベーターの矢印ボタンを押したので、指示を聞きつけた本体が健気にも俺のいる階に飛んでくる。
俺は一階のボタンを押し、扉を閉める。
幸い、他に誰かが乗り込んでくることは無かった。
国際政府本部の時のようなタマヒュンも無い。
安全運転で使用者を無事一階に届けて終わったエレベーター君は、次の仕事を求めて律儀にも帰っていく。
扉は内側からも外側からも認証を要求される仕様で、俺が手錠を翳すと、鵞利場の名前でセキュリティーが解かれる。
俺が自動ドアを抜けると、表道と反対の方向、裏路地で悲鳴が聞こえた。
手錠をつけた能力者が、無能力者達にリンチされている。
彼と俺の目が合う。
生憎、今の俺に、奴らを屠る力は無い。
と言うか、昼間彼女から言われた言葉が頭から離れなかった。
「貴方の、貴方達の境遇が悪くなるだけ。我慢しなさい。」
俺たちは殴られることでしか生を享受出来ないのか。
俺は公安に問い合わせることも、彼らに殴り込むことも出来ない。
だったらどうすれば良いんだ?
何が正解なんだ?
間違えることしか出来ないのか。
殴られている能力者が俺を指した。
俺は慌てて物陰に隠れる。
「んだテメェ? お前を助けてくれる人間なんぞここには居ねえよ。世界中どこを探してもなぁ。無能力者も能力者も、公安も、胸糞悪いスキルホルダーの連中もなぁ。」
「…それがお前の答えか。いつまでも逃げ続けて。己の力と向き合わないで。」
気配に気づかなかった。
金髪に色黒の男。
手錠は付けていない。
無能力者ッ。
俺は戦慄した。
「お前が北条力か失望したぜ。」
そういうと、彼は無能力者の前まで瞬間移動し、両手から生成した黄金の刃で、彼らを滅多刺しにした。
「ホラ、さっさと行けよクソ野郎。」
「ひぃ。」
嬲られていた能力者は、腫れた顔を抱えながら、俺を突き飛ばして逃げていった。
「俺はリベリオン摩天楼の錬金術師。金川練華だ。覚えておけ。」
そういうと彼はマンションの影に消えていった。
あまりの出来事に過呼吸になりかけた俺は、公安にコールする。
「人が死んでいます。ええ、マンション00の裏路地で。」
* * *
事情聴取を終えた俺は、ようやく解放されて、交番を後にする。
聳え立つ鉄塔の群生地では、未だに電灯が消えない。
昼間と見分けがつかないほどの明るさだ。
都市部では睡眠障害が危惧され、窓に遮光シートが貼られるほどである。
俺はやっとの思いでドラッグストアにたどり着くと、そこで買い物を始めた。
そこで朱色のプラスチック容器を手に取り、カゴに放り込む。
腕の手錠の数値が、10000から9702へと変化した。
カゴから容器を取り出すと、数値が9702から10000に戻る。
「なんだこれ面白え。」
「こんばんは、北条力さんですね。」
急に名前を呼ばれて、慌てて商品を買い物カゴに放り込んだ。
俺のことを本名で呼ぶ人間などいない。
というか、実家の人間は俺を邪険にするし(まぁ当然のことだが。)俺の知人はみんな獄中なので、俺を知る人間なんぞ。
俺は自然と、その声の主から距離を取った。
便利屋時代からの癖だ。
昔、なにかとお世話になった人たちだろう。
俺にいっぱい食わせにきたわけだ。
生憎事件のこともあって水も喉を通らない。
「そんなに警戒されなくても……あっ申し遅れました。」
「私、宜野座輝子と申します。」
「本堂様の秘書を務めさせていただいております。」
彼女の顔からは表情を読み取ることが出来ない。
だが、本人は笑顔のつもりなんだろう。
警戒させまいとする努力が伝わってくる。
「北条様もお使いですか? 」
「ええ、まぁそんな感じです。」
「あまり顔色がよろしく無いような? 」
「気のせいです。」
「ご飯は、ちゃんと食べてくださいね。犯罪課の仕事はハードなので。」
「そおなの? 」
「本堂様から何もお聞きしていないのですね。」
「……」
「……」
「それでは私は、本堂様は今も事務処理をされておられますので、私も油を売っている場合ではありません。」
「失礼します。」
そういうと、彼女はドラッグストアから出ていってしまった。
俺もトリートメントをカゴに入れたまま、彼女と同じようにゲートを通過する。
「♪~♫。」
ファンファーレと共に、手錠に『毎度ありがとうございます。』の文字が表示される。
向かいのコンビニエンスストアで、エネルギーバーとゼリー(肉と穀物系は身体に入りそうに無かった。)を買い込むと、それを齧りながら帰路を急いだ。
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