47 / 145
聖の国
極秘任務
しおりを挟む
断頭台から連れ出された俺が、次に連れて行かれたのは極長室だった。
俺が彼の部屋に入ったのは初めてだ。
だが執務室にあるのは酒酒酒、壁は酒棚で埋め尽くされており、ディスクワークの横にはボトルサーバーがある。
"仕事場に酒があるなんて。"
逆に隠し扉でもあるのではないかと疑ってしまう。
「君に新たな任務を___」
「お断りします。」
「なんだ? 僕はまだ何も言っていないじゃないか。それに君は罪人だ、君に拒否権は無い。」
極長は俺の意思など無視して勝手に話し始めた。
「カタルゴ大陸に送り込んでいた極東の隠密部隊と連絡が取れなくなった。」
「君に状況を見に行って欲しいんだ、というか、もう原因は分かっている。君も薄々気がついているだろ? 」
見当がついた。
「セイ・ボイドだな。」
「でもよ、それで俺が派遣されれば『グランディル領にスパイを送り込んでいましたよ~』って言ってるもんだろ。大丈夫なのか? 」
(ゴホン)
「だ・か・ら君を派遣するんじゃ無いか。存在するはずのない人間。ファントムだよ。いやぁカッコいいね。」
俺は存在しない人間、それすなわち、向こうに行けば、なんの援助も得られなくなるということだ。
最悪、俺は口封じに殺されることとなる。
「お、そんな怖い顔するなよ。安心して、危なくなったら極東に頼っていいからね。なーに兵士の十や二十が死ぬだけだよ。」
「隠密ですか? 」
すると極長はプププと笑った。
「自分のことをよく分かっているじゃないか。君が戦闘面以外で、なんの役にも立たないポンコツだって事は周知の事実だからね。」
「とりあえず、目立つ行為はしないで、コレは存在しない人間の君にか頼めない事案なんだから。」
目立つなというのは分かったが……
「そう言いますけど、この角とかどーするんですか? 普通の人間にツノなんて生えてないですよね。」
「それについては僕に任せたたまえ。」
* * *
「例田さん、そこのメジャーとって。」
「はい千代ちゃん。」
「あーやっぱり慎二にリボンは似合わないわね。」
「コラ変幻さん。それじゃ吟遊詩人じゃなくてコメディアンじゃない。」
「えーどっちも同じモノじゃないですか。」
「ダメダメ、こういう強面には似合わない。」
灰弩が俺に、羽のついたとんがりハットを被せる。
「は~い。コレで角はうまく隠せました~。」
「隠せましたじゃないでしょう!! 」
俺は思わず上官にキレる。
「なんなんですかコレは。なんの罰ゲームですか? 」
加賀谷木がキレた。
「ムキー!! なに、その態度!! せっかくこっちが服をコーデしてあげてるのに。」
「ネー。」
「「「ネー」」」
"なにこれ、うっざ。"
緑のロープに緑のとんがり帽子。
スナ0キンじゃねえか!!
腰の凛月は、ギターに擬態させられている。
---イェーイ慎二!! 私もおめかししてもらったよ---
彼女は子供のようにはしゃいでいた。
"まっ、凛月が楽しんでいるなら良いか。"
そこに黒澄がやって来る。
「ホラ、これ。」
彼女がぶっきらぼうな口調でネックレスを投げて来る。
「なんだコレは。」
「早くつけろ。そんでうせろ。」
---おい慎二、腹減った。前言ってた牛鍋ってのを俺に食わせろ---
鬼影だ。
---そりゃええの。なぁ坊、さぁ牛極にいくぞ---
ゴスロリ姿の銃鬼が出てくる。
そういえば、セル帝国からグランディル、連行させるまでなにも食ってなかった。途中で携帯用食料は尽きてしまったし、自分がなにも食っていないということを認識した瞬間に腹が鳴る。
「ああ、仕事の前に腹ごしらえだ。」
「「「ダメ」」」
「服に臭いがついちゃうでしょ。」
「割下で汚れちゃう。」
「吟遊詩人が牛鍋の匂いさせてたらバレるでしょ。」
「ごめんな鬼影、牛鍋は今度にしよう。今はレーションで我慢してくれ。」
---女は敵に回さない方が良いな---
* * *
俺は再び極長室へと戻った。
「……いやダメだろ。目立つじゃんこんなカッコ。隠密じゃねえじゃん。」
極長が俺を宥める。
「まぁまぁ、人を隠すなら人の中って言うでしょ。極東じゃ目立つけど、カタルゴの方なら良いカモフラージュになるって、いやほんと。」
ほんとかなぁ。
「どーなっても知らねえからな。」
「せいぜい、兵士を殺さなくていいように頑張りたまえ。」
俺は本題に切り出した。
「今回の隠密は暗殺か? 情報収集か? 」
「ハハハハ、君に神族を暗殺? 無理無理。」
「隠密の安否を確認して欲しい。取り返せないのなら。」
彼は右手で自分の首をチョンパする。
「俺に同胞を殺せと。」
「いや仕方ないじゃないか、極東の未来のためだよ。」
「死体を含めて全部。」
そうだ、セイ・ボイドが死体から情報を得る術式を持っていないとは限らない。
「噂によれば、領土のカタルゴを唆して、グランディルに宣戦布告しようとしているみたいだ。あ、そうそう、コレも見てくれ。」
極長から差し出されていたのは、
「ドミニクッ。死んだはずじゃ。」
「ちゃんと生きてるじゃん。ホントトドメ刺したの? 」
俺の輪廻界雷は確かに奴の顎へ届いた。
頸を跳ね飛ばしたのだ。代行者の息子とはいえ、生きていられるはずがない。
「コレが死体もちゃんと回収してねって言った理由。分かった? 」
「分かりました。」
俺は振り返り、極長室を後にする。
「頼むよ~極東の命運は君にかかってるからさぁ。」
俺が彼の部屋に入ったのは初めてだ。
だが執務室にあるのは酒酒酒、壁は酒棚で埋め尽くされており、ディスクワークの横にはボトルサーバーがある。
"仕事場に酒があるなんて。"
逆に隠し扉でもあるのではないかと疑ってしまう。
「君に新たな任務を___」
「お断りします。」
「なんだ? 僕はまだ何も言っていないじゃないか。それに君は罪人だ、君に拒否権は無い。」
極長は俺の意思など無視して勝手に話し始めた。
「カタルゴ大陸に送り込んでいた極東の隠密部隊と連絡が取れなくなった。」
「君に状況を見に行って欲しいんだ、というか、もう原因は分かっている。君も薄々気がついているだろ? 」
見当がついた。
「セイ・ボイドだな。」
「でもよ、それで俺が派遣されれば『グランディル領にスパイを送り込んでいましたよ~』って言ってるもんだろ。大丈夫なのか? 」
(ゴホン)
「だ・か・ら君を派遣するんじゃ無いか。存在するはずのない人間。ファントムだよ。いやぁカッコいいね。」
俺は存在しない人間、それすなわち、向こうに行けば、なんの援助も得られなくなるということだ。
最悪、俺は口封じに殺されることとなる。
「お、そんな怖い顔するなよ。安心して、危なくなったら極東に頼っていいからね。なーに兵士の十や二十が死ぬだけだよ。」
「隠密ですか? 」
すると極長はプププと笑った。
「自分のことをよく分かっているじゃないか。君が戦闘面以外で、なんの役にも立たないポンコツだって事は周知の事実だからね。」
「とりあえず、目立つ行為はしないで、コレは存在しない人間の君にか頼めない事案なんだから。」
目立つなというのは分かったが……
「そう言いますけど、この角とかどーするんですか? 普通の人間にツノなんて生えてないですよね。」
「それについては僕に任せたたまえ。」
* * *
「例田さん、そこのメジャーとって。」
「はい千代ちゃん。」
「あーやっぱり慎二にリボンは似合わないわね。」
「コラ変幻さん。それじゃ吟遊詩人じゃなくてコメディアンじゃない。」
「えーどっちも同じモノじゃないですか。」
「ダメダメ、こういう強面には似合わない。」
灰弩が俺に、羽のついたとんがりハットを被せる。
「は~い。コレで角はうまく隠せました~。」
「隠せましたじゃないでしょう!! 」
俺は思わず上官にキレる。
「なんなんですかコレは。なんの罰ゲームですか? 」
加賀谷木がキレた。
「ムキー!! なに、その態度!! せっかくこっちが服をコーデしてあげてるのに。」
「ネー。」
「「「ネー」」」
"なにこれ、うっざ。"
緑のロープに緑のとんがり帽子。
スナ0キンじゃねえか!!
腰の凛月は、ギターに擬態させられている。
---イェーイ慎二!! 私もおめかししてもらったよ---
彼女は子供のようにはしゃいでいた。
"まっ、凛月が楽しんでいるなら良いか。"
そこに黒澄がやって来る。
「ホラ、これ。」
彼女がぶっきらぼうな口調でネックレスを投げて来る。
「なんだコレは。」
「早くつけろ。そんでうせろ。」
---おい慎二、腹減った。前言ってた牛鍋ってのを俺に食わせろ---
鬼影だ。
---そりゃええの。なぁ坊、さぁ牛極にいくぞ---
ゴスロリ姿の銃鬼が出てくる。
そういえば、セル帝国からグランディル、連行させるまでなにも食ってなかった。途中で携帯用食料は尽きてしまったし、自分がなにも食っていないということを認識した瞬間に腹が鳴る。
「ああ、仕事の前に腹ごしらえだ。」
「「「ダメ」」」
「服に臭いがついちゃうでしょ。」
「割下で汚れちゃう。」
「吟遊詩人が牛鍋の匂いさせてたらバレるでしょ。」
「ごめんな鬼影、牛鍋は今度にしよう。今はレーションで我慢してくれ。」
---女は敵に回さない方が良いな---
* * *
俺は再び極長室へと戻った。
「……いやダメだろ。目立つじゃんこんなカッコ。隠密じゃねえじゃん。」
極長が俺を宥める。
「まぁまぁ、人を隠すなら人の中って言うでしょ。極東じゃ目立つけど、カタルゴの方なら良いカモフラージュになるって、いやほんと。」
ほんとかなぁ。
「どーなっても知らねえからな。」
「せいぜい、兵士を殺さなくていいように頑張りたまえ。」
俺は本題に切り出した。
「今回の隠密は暗殺か? 情報収集か? 」
「ハハハハ、君に神族を暗殺? 無理無理。」
「隠密の安否を確認して欲しい。取り返せないのなら。」
彼は右手で自分の首をチョンパする。
「俺に同胞を殺せと。」
「いや仕方ないじゃないか、極東の未来のためだよ。」
「死体を含めて全部。」
そうだ、セイ・ボイドが死体から情報を得る術式を持っていないとは限らない。
「噂によれば、領土のカタルゴを唆して、グランディルに宣戦布告しようとしているみたいだ。あ、そうそう、コレも見てくれ。」
極長から差し出されていたのは、
「ドミニクッ。死んだはずじゃ。」
「ちゃんと生きてるじゃん。ホントトドメ刺したの? 」
俺の輪廻界雷は確かに奴の顎へ届いた。
頸を跳ね飛ばしたのだ。代行者の息子とはいえ、生きていられるはずがない。
「コレが死体もちゃんと回収してねって言った理由。分かった? 」
「分かりました。」
俺は振り返り、極長室を後にする。
「頼むよ~極東の命運は君にかかってるからさぁ。」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる