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勇者について〜最後の一ピース〜

ノースランドへ

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「で? 大量殺人鬼の大罪人様が、北の辺境まで、どのようなご用かな? 」
 イーストランドを後にした俺たちは、アスィールの素性についてもっと詳しく調べるために、ノースランドへと来ていた。
「辞めろ、フェル。彼からは事前に手紙が来ていたアポイントのね。」
 アスピとフォースが、騎士団長を睨んでいる。
 ドレイクはそうでも無かったが。
 彼とは過去に何かがあったのかもしれない。
「二人とも、気持ちは分かるが、抑えてくれ。アスィールのことは調べさせた。幸いにも、この国は、人間の管理が徹底されていてね。彼の家系の七世代前ぐらいは遡ることができたよ。」
「フェル。もう良い下がりなさい。」
 スカサア様は、彼の態度を見かねたのか、アスィールの過去を俺たち以外に口外されたく無いのか彼を玉間の外へと出させた。
「ったく。中でこの逆賊どもに、首を掻き切られてもワタクシの責任では有りませんからね。」
「アレから、国の方も随分と発展したようで。」
 アスピが、ひりついた雰囲気を少しでも良くしようと、世間話を始めた。
 そういや、この国は以前、奴隷貿易が盛んだったらしい。アスィールが、マスター・リーの後継者として、俺の弟弟子としてビギニアに招かれたのも、そのためだ。
 多分、戸籍が厳重に管理されているのも……
「アスィールのおかげで、こんな辺境の地にも、新鮮な南国の果物が届くようになった。礼を言うよ。」
今、ノースランドは奴隷貿易をやめて、ノースランドの雪や氷に目をつけた商人たちが、高額でソレらを買い取っているらしい。
「ソレで、アスィールの件なんだが。」
[彼の家系は結界術に長けていた魔術師の家系。そうなんだろう? ]
「勇者っ!! 」
 彼が実体化することなんてコレまでに無かった。
「早くルマに戻れ、さもなくば、存在そのものが消えてしまうぞ。」
「心配ないよ。ここは元々僕が作った結界だしね。多少無理をしても大丈夫らしい。」
「何でオマエがソレを知っているんだよ。」
「この結界は元々、ここの国の結界術に詳しい魔術師の文献を読んでソレをアレンジして作った物だから。」
 スカサアは頷いた。
「その通りだよ勇者。ここは過酷な環境だ。だからこそ、外界との隔たりを作り、少しでも環境を整えられるように。そういうことが出来る魔術師が、村で長老として祭り上げられていた。」
「奴隷貿易が盛んになる前までは。」
「やっぱりね。彼は時空間魔術について、異様なまでの適性があったからさ。」
「次元の腕にしても लुमाルマにしても。だから、もしかしたら、とは思ったんだ。」
 ドレイクが腕を組んだ。
「んで?アスィールが、結界術に適性があることと、奴を分離させることと、どんな関係があるんや? 」
「結界術とは、境界を引き、またソレを取っぱらうこと。」
 アスピがそう答えた。
「つまり、身体がソレに順応しているということは、もちろん、融合した二者の存在を分離させることにも役立つ。」
 と、フォースが付け加える。
「アーちゃんには、何となく、感じていました。幼い頃から、空間に穴を開けるのが得意だったので。」
「彼が、 लुमाルマに取り込まれないのもそのためだね。」
「彼は空間に穴を開け、ソレを閉じる能力に特化しているんだ。」
 なるほど。
「だから俺たちは、別世界に手ェ突っ込んで、別世界の自分にアクセスできるわけだな。」
「だけど、君たちのは異常だよ。結界術の範疇を超えている。他の世界の自分にアクセスするなんて、魔術では到底不可能な代物だ。」
「だから……魔法……か。」
 アスピがスカサア様に頭を下げた。
「調べてくれてありがとう。女王様。コレで、アスィールと兄さんを救い出すことが出来るよ。」
 僕らが、彼女に一礼をして帰ろうとしたその時、勇者はスカサアのところに歩み寄って行った。
「君に謝らないといけないことがあるんだ。」
 彼女は目に涙を溜めると、ソレを拭って、頷いた。
「分かってる。オマエの気持ちは。」
「だけど寂しかったぞ。永遠に近い時間を、この玉間で過ごすのは。」
「毎日が退屈だった。オマエの作った檻の中から出れないというのは。」
「時間は経た。だけど、私にはその実感が無かった。まるで、一日の最後に時間が巻き戻っているようで。アスィールが、盾を取りに、ここの地を訪れるまでは。」
「こんなやり方で済まなかった。ごめんスカサア。」
「また……ここに戻ってこいよ。」
 スカサアに見送られて。再び勇者はこちらに戻ってくる。
「お前だけここに居ても良いんだぜ。」
「キミも言うようになったじゃないか、エシール。」
 俺は、彼女たちに訊いた。
「後どれぐらいで、魔法陣は完成する? 」
「明日の昼間迄には。」

      
       * * *


 俺たちは、ノースランドの宿に泊まることにした。
 夜の帳が下りたころ、フォースが宿から出て行くのが見えたので、俺もその後を追った。
「お前とこうして話すのは、初めてか。」
「アスィールとお前が、俺を殺しに来た時以来だよ。」
「ほう、狂人になっていた頃の記憶は鮮明に残っているんだな。」
「当たり前だ。まぁ、俺たちは暴走すれば、リワンにリセットされていたから、記憶が残っている方が稀だと思うけど。」
「そうか。そういやアスィールもそうだった。アイツも、一度、魔王アポカリプスになったんだ。その時も、リワンがリセットしに来た。」
「……… 」
「………」
「なぜ、私たちに協力しようと思った? 」
「ソレはこっちのセリフだよ神父さん。」
「仲間だからだ。特に私は、彼と一番付き合いが長い。アスピよりも。協力しなければ、教皇様も、ファーストもきっと怒る。」
 大層な理由だと思った。
「俺は、罪滅ぼしだ。だとか、兄弟子の責務だ。だとか、力持つ物の義務だ。だとかさ。大層なこと言ってるけど。結局は、女に惚れた弱みを握られているだけなんだよ。」
「リワンか。」
「言うなよ恥ずかしい。」
「だけど、ソレなら、アイツアスィールを諦めさせて、二人で、孤児院のみんなと、静かに暮らせば良かったじゃないか。」
「ソレをアイツらが許すかよ。」
「なぁ、アイツらは、俺がアイツらの実親当然のマスター・リーを殺したことを知っているのかな? 」
「フフフフッ。」
 何がおかしいんだよ。この神父は。
「すまない。笑うところでは無かったな。」
「そんな小心者のくせに、師匠を殺して、魔王軍に付いたのか? 」
だからだよ。ソレに、俺が魔王軍に入ったのは、俺の意思じゃないところがある。」
「なるほどな。お前たちの暴走とは、そういうモノなのか。少し安心した。アレがアイツの意思じゃないってことにな。」
「相当トラウマになっているんだな。弟弟子の暴走にさ。」
「そうなっていない……って言えば嘘になるかもな。アレから、私は、アスィールを少し違って目で見てしまうようになった。」
「だけど、アイツは無事『勇者』になった。」
「どうした? そんな不貞腐れた顔をして。」
「女ってのは、いつもそうだぜ。肩書きにばっかり囚われて。」
「拗ねてるのか? 」
「ちげえよ。ふぇっくしょん。冷えてきやがったな。俺は先に戻るぜ。」
「女々しい奴め。」
「アスィールは本当に良い仲間を持ったんだな。兄として嬉しいぜ。」
 俺は一足早く宿に戻ると、灯りの灯る部屋を横切って、ベットに倒れ込むと、目を閉じた。
 明日か。
 明日、ゲートを開いて、魔王城へと乗り込む。
 長いようで短かった、この旅。
 俺はこの度が終われば、処刑されるのか。
 せめて、奴ら三人は助けてやらないとな。
 

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