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勇者について〜最後の一ピース〜

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 俺たちは、アスィールの両親の元で、一晩過ごすと、勇者に力を借りて、アスピの故郷へと飛んでいった。
「ディアストについて何か分かったかアスピ。」
「あは、あははははは。」
 彼女は苦笑いすると、冷や汗をかき、頭を掻いた。
 代わりにフォースが、紙の束をこちらに差し出す。
「彼女は倒れたんだ。だから私が代わりにディアストの過去をまとめた。」
 そのことを聞くや否や、リワンは彼女の元へと走っていった。
「アスピちゃん、また無理をして。」
 俺はフォースへと耳打った。
「彼女を出来る限りサポートしよう。」
「そうだな。ドレイクには彼女のお守り役になってもらうことにする。」
 神官が俺の顔を見て複雑な顔をする。
 無理もない。
 俺はバロア城を襲った首謀者だ。
「さ、行こうぜ。みんな。とりあえずノースランドへ行こう。」
 アソコには、アスィールの故郷、そして伝説の勇者を良く知るスカサア女王がいる。
「ちょっと待って!! 」
 神官に呼び止められて、肩が竦む。
 俺は、どんなことを言われるのか、恐る恐る彼の方へと振り返る。
「城を襲うのなら、貴方様より、ディアスト様の方が適任だったはず。」
「なのに貴方はここの襲撃を引き受けた。彼から、城の内部構造を受け取ってまで。」
「さぁな。お前の何変えすぎじゃないのか? 俺はエスカリーナからの命を引き受けただけ。」
「そして、沢山殺した。」
「謝らねえぞ俺は。」
「謝って許されることじゃないんだ。だから、お前らは一生俺を恨んだままでいろ。」
「………ディアスト様を止められるのは、最早貴方様だけ。」
「どうかよろしくお願いします。」
 時空間魔術を使い、次元に穴を開ける。
 フォースが入り、ドレイクが入り、続いてリワンとアスピが入る。
 俺は最後に、神官へ向けて手を振ってから、ソレから लुमाルマを閉じる。
 流れゆく粒子共に、ノースランドを目指した。
 不意に、世界が黒く濁り、次元に穴が開く。
 俺たちは一斉に身構えた。
 誰が来たかって?
 みんなが理解していた奴が来たと。
 アレはエスカリーナの時空間魔術だ。
 ソレで彼は次元に穴を開けて、ノースランドとの道を隔てた。
「みんな大人しくしていてくれ。僕がなんとかするから。」
 何を言い出すかと思いきや……
 俺はなんだか腹が立って、何も考えずに、時空壊を発動させると、彼へと飛びかかる。
 アスィールは俺の右腕の付け根を左手でガッチリ掴んだ。
「久々に会いに来たと思ったら、最初の一言目がソレからよ。」
 リワンが目を真っ赤に腫らしている。
「もっと何かあるだろう。」
 後ろめたいか?
「ごめん。リワン姉さん。もう僕は帰れそうに無いんだ。」
「でも、リワン姉さんは言ってくれたよね。僕は世界を救わなきゃいけないって。」
「僕は勇者だから。」
「今のお前は勇者では無い。」
 フォースの棺桶から、鉛玉がぶち撒かれる。
 アスィールが手を差し出すと、彼の周りで、何かがスパークし、鉛玉は乾いた音を立てながら、パタパタと地面に落ちた。
「兄さん!! 」
 暴れるアスピを、ドレイクが必死に抑えている。
「ドレイク姉さん離して!! 」
 彼女を宥めるためか、アスィールの中にいるアイツが姿を現した。
「アスピ無駄なことはするな。」
「俺が」
「僕が」
「「世界を正しい方向に導くから。」」


「一緒に戦ってきた仲間に対して水臭くは無いかな? 」


 この世界では彼が存在できる。
 ここは勇者の時空間魔術の中だ。
「せめて、君の気持ちを教えてほしい。勝手に居なくなって、急に魔王のフリなんか初めて。」
「他の仲間だって多分同じ気持ちだと思う。」
「……… 」
で世界を変えることも出来た。」
[だけど、ソレも叶わなかった。]
「元はといえば、僕が女神に背いたせいなんだ。彼女とよろしくしていれば、現状は変わっていたかもしれない。」
「お前、まざか!! 」
「そうだよフォース。僕は女神を殺す。そして本来のあるべき世界を取り戻す。」
「神が創る世界ではなく、人が造る。魔族が作る世界だよ。」
 彼は既に師匠が記していた文言を理解した。
「魔王城の文献を読んだな。」
「うん。君たちは僕たちをあるべき姿に戻そうとしているみたいだけど。」
「俺たちが元に戻ったところで、この悪夢は永遠に続く。」
「そうなるように女神によって仕組まれている。人間と魔族の終わらない血塗られた歴史はこれからも続いていく。」
「俺たちで止めるんだ。」
「「勇者と魔王、両方の力を手に入れたたちならできる。」」
 神を殺すとか、終わらない悪夢を終わらせるとか
 目の前のコイツらに涙を流させてもやらなきゃいけないことなのかよ。
「エシール兄さん? 僕はさっきも言ったよ。邪魔をするなら、君たちにも危害を加えざる負えないって。」
 フォースの踵落としを右手で受け止めると、空間を漂う大理石の支柱へと彼を弾き飛ばした。
「フォース!! 」
 彼は俺が欲しいものを、欲しかったモノを全て持っている。
 正直に言おう。
 俺に私怨がないわけでは無い。
 今でも好いた女を諦めきれない情けない自分がいる。
 最悪最低な自分が。
 大量殺人を犯した自分が。
 師匠を殺した自分が
 弟子を妬んでいる自分が。
 リワンと幸せになろうとしている自分が。
「アスィール!! 」
 彼が放ってきた電撃を、燠見で嗅ぎ分けて、前段避ける。
 両手にドラゴン・ファングと、紅を宿し、ソレを両手で重ねると、そのまま突っ切った。
[黒龍の大顎ディープ・ストライク]
---[紫電斬シデンザン]---
 彼の勇者の雷と魔王の雷が混じり合い、紫へと変色する。
 彼らが、ソレで俺の二振りの魔導剣を弾き返すだけで、大きくノックバックし、背中に強い衝撃を受けて、岩石を貫き、廃墟の屋根を突っ切ってから、煉瓦造りの道であったであろうモノに後頭部を撃ちつける。
 彼が、リワンの頭と、アスピの頭へと手を伸ばした。
 ………させない。
 アイツらの思い出を全てなかったことにするなんて。
 俺がさせない。
「待っていろ、エシール。僕が行く。」
 今の勇者が行ったところでどうにかなるわけでは無い。
 彼にはもう伝説の武具すらないのだから。
「俺に任せてくれ。」
 アスィールは俺を止めた時、次元の腕で、別世界のアポカリプスと接続し、一時的に能力値を底上げした。
「エシール!! まざか!! キミ? 」
「やめておいた方がいいよ。エシール兄さんはスペアなんだから。」
「言ってろ。」
「ソレに暴走を止める時はどうするの? リワン姉さんは今度力を使えば、今度こそ消滅してしまうかもしれない。」
「心配ない。」
「ソレに、リワンがこうなっちまったのは、お前のせいでもあるんだぜ。なぁアスィール。」
 一度堕ちた道にもう一度堕ちる。
 あの時と同じだ。
 師匠を倒そうと思った時、俺は深い湖へと身体が沈んでいった。
 あの頃と違うこと言えば、呼吸が苦しくないことぐらいか。
 師匠は、狂気と正気との境目こそが、達人の境地だと俺に教えてくれた。
 俺が、こうなりなくなかった理由。
 そんなことは分かりきっている。
 彼女を傷つけたくないというのは建前だった。
 彼女に嫌われたくなかった。
 だから、この姿にはなりたくなかった。
 だけど
 なぁマスター・リー今がその時だろ?
 アンタの弟子を取り返して来るよ。
 
 

--- 多元憑依ディメージョンズ・ギフト---


 次元の腕とは、師匠が勝手に、この魔法に付けた名前だ。
 俺の、俺たちが受け継ぐ魔法の真の名は………
「真第四魔法、 多元憑依ディメージョンズ・ギフト。」
 アスィールはアレ以来、魔法を使っていない。
 おそらく、ディアストのことを案じてだろう。
 なら、ギアを上げ続けられる俺に部がある。
 肋骨が露出し、自身の鎧へと形状を変化させる。
 背中から龍の羽が出現し、ソレがマントへと形状変化する。
 龍の顎が、俺の顔を飲み込み、兜へと形状を変化させる。
 足から蹄が生え、ソレが俺の靴となる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
 複数の意識が俺を取り込む。
 一気に複数の人格を取り込んだせいだ。
 その中でも、憎悪を含む悪感情だけが、俺の胸へと強く刻まれる。
「この程度の烙印で、俺を支配できると思うな!! 」
 俺の烙印、奥底に刻まれている罪の意識が、俺の脳幹を激しく揺さぶり、ソレらを全て打ち消した。
「さっさと始めようぜ、三下。」
「久しぶりに聞いたよ。その言葉。」
 黒い渦で自分の背後に回り込んできたアスィールを鎧の尻尾で弾き飛ばした。
 残骸をぶち抜きながら、吹き飛ぶ彼に追いつき、二振りの邪龍の牙、シャドー・ファングを両手に出現させると、彼らを斬り裂く。
 牙は、魔王のマントを斬り裂くと、鮮血が飛び出す。
「まだ、血が赤いじゃねえか、人間と同じ赤い血がたぎってるじゃねえか。」
 まだ、彼らは引き返せる。
 いや、引き摺り出す。
 泥沼から彼らを救い出せるのは、同じく泥沼にいる俺だけだ。
 誰もこちら側には来させない。
「時空間魔術!! この空間の中でも使えるのか? 」
「元々ここは彼の空間だった。対空戦に関しては、僕らの方が不利かも知れないね。」
 超音波で、彼の魔力を追う。
 追いかける。
 五感なんかに頼らず、己の本能一つで彼を追い詰める。
 彼が現れる前に、魔力の澱みを感知し、先読みして牙を突き立てる。
 俺の感知が、じゃないと理解したアスィールは、自身に身体強化術をかける。
---[神威カムイ]---
 目が、キラリと瞬く。
 右眼に慧眼。
 左眼に魔眼。
 彼は俺と同じ領域へと追いついた。
 いや、その表現はおかしい。
 俺はようやく、彼の領域へと追いついたのだ。
「ようやく引き摺り出したぞ。お前の力の底を。」
「言ってろ。」
 アスィールの二対の魔導剣が、合体し、藍色の光を帯びた大剣へと姿を変える。
--- 虚斬剣ケイオス・ブレード---
 彼の斬り下ろしを両手の牙で受け止める………
 が、彼の両手剣の雷斬が、シャドウ・ファングを絡め取り、裏斬の部分が俺の喉笛へと迫ってきた。
 この状態では逃げられないと踏んだ俺は、魔導剣を解除し、時空壊で強化された脚力で大きく後ろに下がる。
 透過、不透過の剣。常軌を逸している。
 オマケに、さっきのねちっこい感覚。おそらくシャドウファングは彼の雷斬に捕縛されていた。
 あのままシャドウ・ファングを握ったままであれば、俺は確実に斬られていた。
「流石だねエシール兄さん。」
 また邪龍の牙を出せば、同じことが起こるだけだ。
 俺は、魔導剣の構成方法を少し変えた。
 今までは炎を核に、闇を忍ばせ、龍属性の魔導剣を作っていたが……
[ 黒炎刀ブレネン・スコタディ]
 闇夜を漆黒の炎が照らし、俺の新しい魔導剣が完成する。
 その細く長い刀身の鋒を、彼へと向けた。
 再び彼と剣を交え、今度は俺の炎が、奴の雷斬を絡めとる。
 俺の刀と奴の剣が接触した時の弾性力を使い、彼に蹴りを入れる。
 彼はそのオッドアイで俺の動きを読むと、左肘でソレを受け止めた。
 右腕を捻り、体勢を崩した俺を残骸へと叩きつける。
 砂煙を突っ切った俺は、魔導剣を大きく振りかぶり、アスィールに浴びせる。
 防御姿勢をとったアスィールの虚斬剣に、接触した俺の魔導剣はガラスのように砕け。
 構わずそのまま柄を振り切る。
 唖然としたアスィールの喉笛に、再び出現させた黒炎刀を突きつける。
 グガァ。
 アスィールは俺に向けて吐血すると、黒い渦を出現させる。
「おい待てよ。アスィール!! 」
 彼は聞く耳を持たないのか、ソレどころではないのか。
 視界が赤く染まっているせいで、彼の表情が見えない。
 俺が血を振り払い、彼へ手を伸ばす頃には、彼の存在は跡形もなく消えていた。

 

 

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