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帰還

ビギニアへ

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「んっアスィールか。」
「そうか、終わったんやな。」
「アスィールが倒したの? 」
 みんなに本当のことを話そうか迷った。
 でも自分が魔王になってしまったことを話してしまうと、この関係は。
 壊れるはずがない。
 だけど、怖かった。彼らに拒絶されるのが。
 僕は彼らを信用しなければならないのに、信じ切ることができない。
「アスピはどこだ? 」
 フォースが当たりをキョロキョロする。
「ごめん、まだ लुमाルマだ。」
 僕は、時空間魔術を発動させて、彼女を時空の狭間から出そうとした。
 が、今、僕はディアストと同化している。
 もし耐性のない彼が、時空間魔術を使うことになったら……どうなる?
 ソレに。
[彼女はまだ時空の狭間に閉じ込めておけ。]
「ごめんフォース。魔力切れだ。もう立つのも精一杯でさ。みんなを送ることも出来ないよ。ごめんね。帰りも魔導船で。」
「問題ない。」
「良かった……のか、まだ実感が湧かんのや。」
「もしかして僕の心配をしてくれてるの? 」
「違うわボケぇ。」
「お前だけじゃない。アスピもや。ドレイク姉さんドレイク姉さんって…… 」
「ねぇみんな。アスピは死んだことにしないか? 」
「やめておけ、お前の魔術が復活し、再びポータルが開けば、彼女の居場所はすぐにバレる。となれば、人間サイドに余計な詮索を招くことになる。」
「……分かったよ。」
「そこのケツの青いヘタレはどうするんや? 」
 ドレイクは、エシールを指さした。
「もちろん連れて帰るよ、エシール兄さんは。」
「置いておけ。アスィール。コイツの素性がバレれば、お前やアスピの立場も悪くなる。」
「フォース。許してくれ。コレだけは譲れない。」
「アスィール!! 昔のお前なら…… 」
「いや、この男はお前を殺そうとしたんだぞ。」
「いや、リワン姉さんもソレを望んでいるはずだ。だって僕らは同じ釜の飯を食った仲間だったんだから。」
「お前が私に頼み事をしたことなんて一度もなかった。」
「分かった。善処する。」
「僕が背負っていくよ。昇降台は生きてるかな? 」

      * * *

 幸い、あんなにボロボロになった浮遊城でも、動力源は生きていた。エスカリーナが、まだ生きている証だろうか。
 いや、僕が魔王として、この世界に存在し続けているからだろうか?
 僕たちは再び森を掻き分けてると、記憶を頼りに僕たちが上陸した浜を目指した。
「あったぞ。」
 フォースが指をさした先に、魔導船が当時のまま、そっくり転がっている。
 当時のままっていうのは大袈裟に聞こえるかも知れないが、僕らにとっては遠い昔の話だった。
「本当にアタイらは、魔王を倒したんやな。」
「そうだよドレイク。早く帰ろう。」
 魔導船に乗って、それからみんな事切れたように話さなくなってから、ビギニア大陸の桟橋を見つけて着眼する。
 どこから聞きつけたのか、王都への道の両側には既に人だかりが出来ていて、皆が勇者の帰還を祝っている。
 フォースは辺りをキョロキョロと見渡すと、はにかんだ笑顔を見せる。
「なんだ、歓迎されているじゃないか。」
 ドレイクは僕の背中をパンパンを叩く。
「なぁ胸を張れ。そんな辛気臭い顔をするんやない。」
 あの時も、三人でビギニアを出た。
 武具を集める旅に出た時は、ドレイクの居た場所にアスピが居だけど。
「魔力が回復したら、早くアスピを出してやろう。絶対に彼女も喜ぶ。」
[ダメだ。絶対にアイツを出すな。]
 思わず口に出してしまいそうになり、口をつぐむ。
 民衆に祝福されながら、地平線を目指し、やがて大きな煉瓦の絶壁が見え始める。
 セカンドと共に歩いた平野、あの時の風は、変わらず、僕の身体を優しく撫でた。
 風は、僕を通り過ぎると、青々とした草たちをサワサワと撫でて、関所の方へと消えていった。
「アスィール殿、よく戻られた、ささ、中へ。」
 町人たちは、僕らが帰ってくることを待っていたようで、クラッカーやら、花束やらで僕らを祝福する。
「フォース様、こっち向いてぇ。」
 彼も満更ではないようで、ウィンクをすると、右手を振って、彼女にアピールした。
 それを見たドレイクが頬を膨らまして怒っている。
「ドレイクさーん。」
 ドレイクが、男性陣を睨むと、彼らは苦笑いをしながらソソクサと逃げていく。
「コラ、ドレイク。」
「黙っとれ!! 」
 僕は、人混みの中で、リワン姉さんを見つけて、手を振る。
 彼女は安堵したような顔を向けると、背中の兄弟子の存在に気づき、両手で口を押さえて、目に涙を溜めている。
 リワン姉さん。ちゃんとエシールを連れて帰って来たよ。
 ビギニア城の内門の前で、ビギニア王は待っていた。
「良くぞ。帰ってきた。勇者よ。」
「いや、いい加減姿を現したらどうだ? 」
 民衆がドヨメキ始めた。
 フォースはビギニア王のその言葉を聞くと、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして、ドレイクはカトラスを抜き、その鋒をビギニア王へと向ける。
「先ほど女神ティアマト様からお告げがあった。」
「もうすぐ勇者が帰ってくる。いや、勇者の皮を被った魔物が王都でお前の首をとりにくるだろうってな。」
 刹那。
 僕はビギニア王の喉元へと、魔導剣を突き立てていた。
「そうやって、伝説の勇者も処刑しようとしたんだな。お前の腹の内は見えた。」
[やめろ、ディアスト。]
「奴を取り押さえろ!! 」
 ビギニア王の叫び声が、合図となり、世界が再び動き出す。
 民衆には悲鳴と怒号をあげて、兵士たちが滝のように雪崩れ込み、僕を捕まえんとする。
 僕は大きく跳躍すると、空中に黒い渦を作り、その中に逃げた。
 逃げて逃げて逃げて、逃げた先に魔王城があった。
 僕は、浮遊城の最奥、玉間の椅子に座ると、足を組んだ。
 人々は僕をこう呼ぶ。
 魔王アポカリプスと。
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