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魔王討伐
出発
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「ふぅ。」
フォースは肩を回し、指を握ったり伸ばしたりしながら、自分の毒が抜けていることを確認する。
「まだ痛む? 」
「いや、痛みはもうない。ただ、しばらく動かなかったんだ。久しぶりに動かすと違和感がな。」
幸い、みんな後遺症が残ることは無かったらしい。
「待たせたわね。アスィール。」
普段落ち着いているアスピも、今回ばかりは、そうはいられないようだった。
今の彼女からは余裕を感じられない。
空気がピリついている。
だけど、それも悪い感じはしない。
アスピは両手で頬をパンパンと叩くと、杖を握りしめた。
「ビギニア王が、物資をくれたそうじゃない? 」
そうだ、大量の魔力ポーションと薬草を。
非常食と、その他消耗品を。
この大変な時期に、僕らのために専用の蔵を用意させ、そこに物資を運んでもらった。
「王様んとは、直接会えんかったみたいやないか。」
लुमाを発現させて以来、僕の罪は晴れたが、ビギニア王は、より一層僕を遠ざけるようになった。
そればかりか、宮殿のセキュリティーが強化されたらしい。
「気にすることはないアスィール。魔王軍の脅威に対して、王宮魔導士のペンタゴンが提案したことだ。」
「イテッ。」
「もう、そんな怖い顔しない。やめてよね。今から私たちは、敵の本拠地にカチコミに行くのよ。」
アスピに、また励まされる。
「んで? その時空間魔術とやらは、どうなんや? 」
一度、リスクを冒して、荒野を中継して魔大陸に入り込もうとした。
しかし、強力な結界に阻まれて、なぜ、魔王が侵略を辞めて、魔王城に部下を呼び寄せたのかを改めて理解した。
魔王城は浮遊城であり、侵入することすら困難だ。
だから、大気圏ぎりぎりに、大量の岩石を落とし、質量で押しつぶす方法も考えた。
しかし、魔王城は、魔大陸全域に結界が円柱状に伸びており、それがそのまま、地球に対して引力が働くギリギリの部分まで伸ばされているようであった。
最初僕たちは、魔王城の真上に、土塊が落とせなかったものだから、困惑したものだ。
僕たちは、魔大陸の近くにワープし、慧眼で直接その結界を観て、魔王の時空間魔術に、対する用意周到さに度肝を抜かれたものだ。
[僕に対する記述も、この数千年の間、ずっと残っていたわけだ。]
伝説の勇者に対する情報を後世に残させた先代の魔族たちもすごいが、ソレを活用させようとしたエスカリーナも、またキレものだ。
なんだって、 लुमा自体も、彼女にとっては未知数な能力のはずだし……
[ソレにしても、時空間魔術に対する知識や理解力。ここら数ヶ月で身についたモノとは考えられないな。]
その通りだ。
このような大規模な結界だって、数日で、おいそれ行使できるものでもない。
事前に用意していたと考える方が妥当だろう。
[気をつけろ。エスカリーナは、既に僕たちへの対策を用意できていると考える方が妥当だ。]
「いや、その話なんだけど…… 」
ビギニアでのディアストとの対峙、バロアでのエシールとの対峙。
「エスカリーナは条件付きで時空間魔術を使える可能性が高いよ。」
[なるほどな。アスィールは、一度彼らと接触したんだってな。敵の本拠地に潜り込んで、手負の状態で、王宮魔導士から逃げ切るのは用意ではないだろうし、こんなに堅実な性格の人間が、なんの対策も無しに、部下を敵の本拠地には送り込まない。と。]
「うん、僕は実際に見たんだ。ディアストが、エスカリーナに連れてかれるのを。」
もしエスカリーナが、僕たちと同じ精度で時空間魔術を使えるのなら、僕らと同じことを考えるだろう。
なら、なんらかの条件が存在すると考えた方が妥当だ。
おそらくソレも
「[自分の魔力]」
魔王城の中は文字通り彼女の庭。
「ビギニア王から魔導船を借りている。ソレで魔大陸まで行こう。」
「と言ってもなぁアスィール。奴らの根城は宙に浮いてんで? 」
「何かしら侵入する方法があるんだと思うよドレイク。もし、それが出来なくても、結界の内側からなら、僕の時空間魔術も使える。見たところ、外界との魔術干渉を隔てることに特化した魔術結界だった。」
「物理的になら可能…….か。」
フォースが、人差し指で顎を摩る。
「逆に物理的障壁を何も用意していないということは。」
「それを迎撃する準備も万端やっちゅうこっちゃな。」
病室のドアがガラガラと開いた。
「逆に今の拮抗状態を保つってのはどう? 魔族の脅威がないのなら、魔王が居ないのも同じ。」
クリートさんだ。
「ごめん、クリート。私、行かなきゃダメなの。」
「アスピ様。凛々しくなられましたね。そうですか。ディアスト様を。」
「うん。ご馳走作って待っててね。」
そうだ、ここで引き下がるには、沢山のモノを背負いすぎた。
僕たちは行かなきゃいけない。
「アスィール。聞きましたよ。貴方の兄弟も、魔王軍に付いていると。」
「アスピ様は、役目を終えられると…… 」
彼女は何かを言いかけた。
それから口を継ぐんだ。
「ありがとうクリート。行ってくるよ。」
僕たちは病棟を出ると、魔導船に乗り込むべく、港を目指した。
フォースは肩を回し、指を握ったり伸ばしたりしながら、自分の毒が抜けていることを確認する。
「まだ痛む? 」
「いや、痛みはもうない。ただ、しばらく動かなかったんだ。久しぶりに動かすと違和感がな。」
幸い、みんな後遺症が残ることは無かったらしい。
「待たせたわね。アスィール。」
普段落ち着いているアスピも、今回ばかりは、そうはいられないようだった。
今の彼女からは余裕を感じられない。
空気がピリついている。
だけど、それも悪い感じはしない。
アスピは両手で頬をパンパンと叩くと、杖を握りしめた。
「ビギニア王が、物資をくれたそうじゃない? 」
そうだ、大量の魔力ポーションと薬草を。
非常食と、その他消耗品を。
この大変な時期に、僕らのために専用の蔵を用意させ、そこに物資を運んでもらった。
「王様んとは、直接会えんかったみたいやないか。」
लुमाを発現させて以来、僕の罪は晴れたが、ビギニア王は、より一層僕を遠ざけるようになった。
そればかりか、宮殿のセキュリティーが強化されたらしい。
「気にすることはないアスィール。魔王軍の脅威に対して、王宮魔導士のペンタゴンが提案したことだ。」
「イテッ。」
「もう、そんな怖い顔しない。やめてよね。今から私たちは、敵の本拠地にカチコミに行くのよ。」
アスピに、また励まされる。
「んで? その時空間魔術とやらは、どうなんや? 」
一度、リスクを冒して、荒野を中継して魔大陸に入り込もうとした。
しかし、強力な結界に阻まれて、なぜ、魔王が侵略を辞めて、魔王城に部下を呼び寄せたのかを改めて理解した。
魔王城は浮遊城であり、侵入することすら困難だ。
だから、大気圏ぎりぎりに、大量の岩石を落とし、質量で押しつぶす方法も考えた。
しかし、魔王城は、魔大陸全域に結界が円柱状に伸びており、それがそのまま、地球に対して引力が働くギリギリの部分まで伸ばされているようであった。
最初僕たちは、魔王城の真上に、土塊が落とせなかったものだから、困惑したものだ。
僕たちは、魔大陸の近くにワープし、慧眼で直接その結界を観て、魔王の時空間魔術に、対する用意周到さに度肝を抜かれたものだ。
[僕に対する記述も、この数千年の間、ずっと残っていたわけだ。]
伝説の勇者に対する情報を後世に残させた先代の魔族たちもすごいが、ソレを活用させようとしたエスカリーナも、またキレものだ。
なんだって、 लुमा自体も、彼女にとっては未知数な能力のはずだし……
[ソレにしても、時空間魔術に対する知識や理解力。ここら数ヶ月で身についたモノとは考えられないな。]
その通りだ。
このような大規模な結界だって、数日で、おいそれ行使できるものでもない。
事前に用意していたと考える方が妥当だろう。
[気をつけろ。エスカリーナは、既に僕たちへの対策を用意できていると考える方が妥当だ。]
「いや、その話なんだけど…… 」
ビギニアでのディアストとの対峙、バロアでのエシールとの対峙。
「エスカリーナは条件付きで時空間魔術を使える可能性が高いよ。」
[なるほどな。アスィールは、一度彼らと接触したんだってな。敵の本拠地に潜り込んで、手負の状態で、王宮魔導士から逃げ切るのは用意ではないだろうし、こんなに堅実な性格の人間が、なんの対策も無しに、部下を敵の本拠地には送り込まない。と。]
「うん、僕は実際に見たんだ。ディアストが、エスカリーナに連れてかれるのを。」
もしエスカリーナが、僕たちと同じ精度で時空間魔術を使えるのなら、僕らと同じことを考えるだろう。
なら、なんらかの条件が存在すると考えた方が妥当だ。
おそらくソレも
「[自分の魔力]」
魔王城の中は文字通り彼女の庭。
「ビギニア王から魔導船を借りている。ソレで魔大陸まで行こう。」
「と言ってもなぁアスィール。奴らの根城は宙に浮いてんで? 」
「何かしら侵入する方法があるんだと思うよドレイク。もし、それが出来なくても、結界の内側からなら、僕の時空間魔術も使える。見たところ、外界との魔術干渉を隔てることに特化した魔術結界だった。」
「物理的になら可能…….か。」
フォースが、人差し指で顎を摩る。
「逆に物理的障壁を何も用意していないということは。」
「それを迎撃する準備も万端やっちゅうこっちゃな。」
病室のドアがガラガラと開いた。
「逆に今の拮抗状態を保つってのはどう? 魔族の脅威がないのなら、魔王が居ないのも同じ。」
クリートさんだ。
「ごめん、クリート。私、行かなきゃダメなの。」
「アスピ様。凛々しくなられましたね。そうですか。ディアスト様を。」
「うん。ご馳走作って待っててね。」
そうだ、ここで引き下がるには、沢山のモノを背負いすぎた。
僕たちは行かなきゃいけない。
「アスィール。聞きましたよ。貴方の兄弟も、魔王軍に付いていると。」
「アスピ様は、役目を終えられると…… 」
彼女は何かを言いかけた。
それから口を継ぐんだ。
「ありがとうクリート。行ってくるよ。」
僕たちは病棟を出ると、魔導船に乗り込むべく、港を目指した。
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