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サウスランドへ
摩天のディアブロス
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「ねぇ『ドレイク姐さん』で、良いのかな? 」
「何やもやし男。」
ドレイクが、疾走しながら、顔だけをこちらに向ける。
僕は、息を吐きながら言葉を捻り出した。
「何があったの? 」
「ウチらの得意先の村が、魔王軍にやられた。」
商売相手とは、盗んだアイテムや、密造酒の取引先だろうか?
「先に王宮に連絡した方が……僕たちなら出来るけど。」
「アンタらに頭下げんのはごめんや。」
それから彼女は言葉を濁した。
「それよりな…… 」
「ウチらみたいな歌舞伎モンと取引するような奴らを、ポート王が助けるわけないやろう。」
「ドレイク…… 」
彼女は僕よりもずっと人間の本質と向き合っていた。
彼女はずっと僕よりも強い。
彼女こそ僕が目指すべき人間ではないだろうか?
「父さん…… 母さん…… 」
「コレはケジメや。アンタも覚えときゃ。自分のケツは自分で拭けるようにならなアカン。そうでないと、この世界ではやっていけん。」
「……分かった。」
洞窟を抜けると、麓の木々の向こうで、村が赫く燃えていた。
「時間が無い。飛び降りんで!! 」
「分かった。」
一番に飛び降りたのは、意外にもフォースだった。
僕も彼の後を追うように両手を大きく広げて、空中で体勢を崩さないようにバランスを取る。
自由落下のベクトルが大きくなるにつれて、地面が迫ってくるにつれて、心臓が締め付けられるような冷ややかな感覚に襲われる。
両足いっぱいで、衝撃を受け止め……
そして立ち上がった。
「ヒャッ。」
姐さんは乙女のような声を上げると、フォースに担ぎ上げられている。
「そんなことしなくても大丈夫だから。」
ドレイクは慌てて飛び降りる。
「姐さ~ん。あっしたちは。」
「無理すんな。いつもの道からゆっくり降りて来い。消火の準備を忘れんなや? 」
「「アイアイサー。」」
僕は消えたフォースの後を追う。
今の彼は……
何か生き急いでいるような感じがして。
そうだ。
僕たちは、何も勇者らしいことをしていなかった。
伝説の武具を集めることに躍起で。
それ以上にフォースのことやらセブンスのことやら色々あったけど。
フォースは悔いているんだ。
何に悔いているかは分からない。
僕も。
心当たりがありすぎて。
自分の力じゃ、人一人救えなくて。
「何、難しい顔をしとるんじゃ? 」
「難しく考えんでええ。」
「姐さん。」
「今自分がすべきことはなんや? 」
まずは……
「フォースが危ない。」
「見て、凛々しい御姿。」
「姐さんは、逆に気を引き締めた方がいいんじゃない? 」
「言うやないか。」
バシッと背中を叩かれる。
だが、彼女に背中を押されたことで、彼との距離が縮まったような気がした。
「フォース。気をつけて。」
彼に追いつき、引き留める。
彼の目に光が戻る。
「すまない。」
あの日、ビギニアに旅立つ時、セカンドと見た魔王軍に滅ぼされた村を思い出した。
「せめて僕たちで拾える命は。」
「そうだ。もう、これ以上奴らの好きにはさせない。」
始まりは法王の使命だったかも、マスター・リー……僕の師匠の請け負だったかも知れない。
だけど
「私にも闘う理由が出来た。」
コレは復讐か、ソレともケジメか?
どちらかは分からない。
だけど、その怒りに似たその感情が、今はフォースをより強くしている。
生きる指標になっている。
今はただ、闘ってくれるならそれでいい。
しばらくすると、焼けて崩れ落ちそうな村のゲートが見え始める。
フォースは法衣の下から聖水の入った瓶を取り出すと、それを村へ向けて投げつける。
中では衛兵たちが、魔王軍と戦っていた。
フォースと僕は、跳躍し、膝で魔物を蹴飛ばすと、そこにドレイク姐さんが、すかさず、氷の刃をお見舞いする。
[氷刃]
魔族の緑色の血が凍り、膨張し、内側から裂け出てきた。
「ありがとう助かった。」
「あなたは? 」
「王都から派遣されました。僕たちに任せて。」
「またお前は勝手なことを。」
「ドレイク姐さんのこと、あの人たちは知らないみたいだね。」
「取引させとるんはアイツらや。あきんどやってただけあって、商売のノウハウだけはあるみたいやしな。」
「顔も知らない人たちを助けたの? 」
「アホ、ウチは素性も知らん奴を助けたりせん。」
「部下思いなんだね? 」
彼女は前方を睨んだ。
「そういうのやない。さっきも言うたやろ。コレはケジメや。」
炎の海を掻き分けるうちに、巨大な影が姿を現した。
体長は……
七メートルを優に超えている。
「魔物かな? 」
「いや、魔族だ。」
フォースが答えた。
「フッ、十二使徒の生き残りか。戦闘要因、棺桶銃フォース。」
「そして、フェイカー。ディアストとエシールが世話になったな。」
「それから、大海賊、アイ=フリードの末裔よ。」
私怨。
彼もまた味方をやられて、毛を逆立てているのだ。
「……ったぜ。」
「やったぜぇぇぇぇぇぇぇぇ。」
「魔王様の御命令とは言え、退屈してたんだ。」
「スラ0ムをプチプチ潰してレベルアップとかヨォぉぉ。」
「能力者モノの噛ませ役とか、不老不死の魔女みてえで、せけえよなぁぁぁぁ。」
「漢なら、そうだ、強くなりたければ、強い肉を喰らわなくては。」
目の前の巨躯は、岩石のような両腕を振り上げると、控えめに言って小惑星ぐらいある鉄球で、月を覆い、
「来るでぇ!! 」
僕たち向けて叩きつけた。
「何やもやし男。」
ドレイクが、疾走しながら、顔だけをこちらに向ける。
僕は、息を吐きながら言葉を捻り出した。
「何があったの? 」
「ウチらの得意先の村が、魔王軍にやられた。」
商売相手とは、盗んだアイテムや、密造酒の取引先だろうか?
「先に王宮に連絡した方が……僕たちなら出来るけど。」
「アンタらに頭下げんのはごめんや。」
それから彼女は言葉を濁した。
「それよりな…… 」
「ウチらみたいな歌舞伎モンと取引するような奴らを、ポート王が助けるわけないやろう。」
「ドレイク…… 」
彼女は僕よりもずっと人間の本質と向き合っていた。
彼女はずっと僕よりも強い。
彼女こそ僕が目指すべき人間ではないだろうか?
「父さん…… 母さん…… 」
「コレはケジメや。アンタも覚えときゃ。自分のケツは自分で拭けるようにならなアカン。そうでないと、この世界ではやっていけん。」
「……分かった。」
洞窟を抜けると、麓の木々の向こうで、村が赫く燃えていた。
「時間が無い。飛び降りんで!! 」
「分かった。」
一番に飛び降りたのは、意外にもフォースだった。
僕も彼の後を追うように両手を大きく広げて、空中で体勢を崩さないようにバランスを取る。
自由落下のベクトルが大きくなるにつれて、地面が迫ってくるにつれて、心臓が締め付けられるような冷ややかな感覚に襲われる。
両足いっぱいで、衝撃を受け止め……
そして立ち上がった。
「ヒャッ。」
姐さんは乙女のような声を上げると、フォースに担ぎ上げられている。
「そんなことしなくても大丈夫だから。」
ドレイクは慌てて飛び降りる。
「姐さ~ん。あっしたちは。」
「無理すんな。いつもの道からゆっくり降りて来い。消火の準備を忘れんなや? 」
「「アイアイサー。」」
僕は消えたフォースの後を追う。
今の彼は……
何か生き急いでいるような感じがして。
そうだ。
僕たちは、何も勇者らしいことをしていなかった。
伝説の武具を集めることに躍起で。
それ以上にフォースのことやらセブンスのことやら色々あったけど。
フォースは悔いているんだ。
何に悔いているかは分からない。
僕も。
心当たりがありすぎて。
自分の力じゃ、人一人救えなくて。
「何、難しい顔をしとるんじゃ? 」
「難しく考えんでええ。」
「姐さん。」
「今自分がすべきことはなんや? 」
まずは……
「フォースが危ない。」
「見て、凛々しい御姿。」
「姐さんは、逆に気を引き締めた方がいいんじゃない? 」
「言うやないか。」
バシッと背中を叩かれる。
だが、彼女に背中を押されたことで、彼との距離が縮まったような気がした。
「フォース。気をつけて。」
彼に追いつき、引き留める。
彼の目に光が戻る。
「すまない。」
あの日、ビギニアに旅立つ時、セカンドと見た魔王軍に滅ぼされた村を思い出した。
「せめて僕たちで拾える命は。」
「そうだ。もう、これ以上奴らの好きにはさせない。」
始まりは法王の使命だったかも、マスター・リー……僕の師匠の請け負だったかも知れない。
だけど
「私にも闘う理由が出来た。」
コレは復讐か、ソレともケジメか?
どちらかは分からない。
だけど、その怒りに似たその感情が、今はフォースをより強くしている。
生きる指標になっている。
今はただ、闘ってくれるならそれでいい。
しばらくすると、焼けて崩れ落ちそうな村のゲートが見え始める。
フォースは法衣の下から聖水の入った瓶を取り出すと、それを村へ向けて投げつける。
中では衛兵たちが、魔王軍と戦っていた。
フォースと僕は、跳躍し、膝で魔物を蹴飛ばすと、そこにドレイク姐さんが、すかさず、氷の刃をお見舞いする。
[氷刃]
魔族の緑色の血が凍り、膨張し、内側から裂け出てきた。
「ありがとう助かった。」
「あなたは? 」
「王都から派遣されました。僕たちに任せて。」
「またお前は勝手なことを。」
「ドレイク姐さんのこと、あの人たちは知らないみたいだね。」
「取引させとるんはアイツらや。あきんどやってただけあって、商売のノウハウだけはあるみたいやしな。」
「顔も知らない人たちを助けたの? 」
「アホ、ウチは素性も知らん奴を助けたりせん。」
「部下思いなんだね? 」
彼女は前方を睨んだ。
「そういうのやない。さっきも言うたやろ。コレはケジメや。」
炎の海を掻き分けるうちに、巨大な影が姿を現した。
体長は……
七メートルを優に超えている。
「魔物かな? 」
「いや、魔族だ。」
フォースが答えた。
「フッ、十二使徒の生き残りか。戦闘要因、棺桶銃フォース。」
「そして、フェイカー。ディアストとエシールが世話になったな。」
「それから、大海賊、アイ=フリードの末裔よ。」
私怨。
彼もまた味方をやられて、毛を逆立てているのだ。
「……ったぜ。」
「やったぜぇぇぇぇぇぇぇぇ。」
「魔王様の御命令とは言え、退屈してたんだ。」
「スラ0ムをプチプチ潰してレベルアップとかヨォぉぉ。」
「能力者モノの噛ませ役とか、不老不死の魔女みてえで、せけえよなぁぁぁぁ。」
「漢なら、そうだ、強くなりたければ、強い肉を喰らわなくては。」
目の前の巨躯は、岩石のような両腕を振り上げると、控えめに言って小惑星ぐらいある鉄球で、月を覆い、
「来るでぇ!! 」
僕たち向けて叩きつけた。
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