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呪いを解くため

航海

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「アスピ。船内のチェック終わった。故障箇所はなし、スクリューはちょっと消耗してるかも。」
「ありがとう。アスィール。」
 彼女はそうとしか言わない。
 というか、そういう余裕もないのだろう。
 額の汗が、それを物語っていた。
 僕は体育座りになって、彼女をじっと見る。
「……イーストランドまで、半分切ったわよ。」
「…… 」
 僕はなんと声をかければいいのか分からなかった。
 そういう器用さはないけれど、だからと言って、僕が彼女に出来ることはコレぐらいしかなった。
「ぐぐっ。」
 彼女の鼻から、真紅の液体が垂れる。
 だいぶ体力を消耗しているのだ。
「来ないで!! 大丈夫だから。」
「やめて!! 話して!! 」
「休憩しよう!! アスピが死んじゃうよ。」
「休憩したら!! フォースさんが死んじゃうじゃない。」
 僕は彼女を担ぎ上げると、透明なアクリルの筒からつまみ出してから、自身が操縦席の座った。


「私はね。アンタたちのことを心では見下していたのよ。」
 中は血の匂いで充満していた。
 きっと何度か血を吐いたのだろう。
 この船は……危険だ。
「バレてないと思った? 」
「ムカつく。ホントアンタ。」
「ホラ、そっちにも魔力を回して。レーダーが供給不足になってるでしょ。」
 言われるがまま、魔力を流し込む。
 僕の魔力総量はそんなに少ないわけでは無い。
 だが、こんなに連続して大量の魔力を消費したことは無かった。
「私ね。一人でなんでも出来ると思ってた。だけど、あの城じゃ私は、何にも出来なくて。アンタに助けられて、フォースさんがあんなことになってしまって。自分でもどうしたら良いか分からなくて。」
「昔ね。剣を握ったこと……あるのよ。」
「振るえなかったんでしょ。」
「フッ そうよ。私は兄さんのようには、なれなかった。」
「兄さんと同じ血を引いている。でも、加護を授かったのは、兄さんだけだったから。私はその出涸らし。」
「なんかさ。アスピは器用なのに気にしすぎてるよね。疲れてるんだよ。ちょっと休んだら。」
 彼女は力無く怒った。
「こっちは真剣に悩んでいるっていうのに。」
「フォースはなんでアスピと旅をするようになったんだろうね。」
「……なりゆきでしょう。貴方と剣を取りに行くために。」
「僕は違うよ。決闘した時の短縮詠唱魔術、そして上級魔術。回復魔術も使えて、山を登っても息が上がらなくて、船を操縦するのが上手いアスピと一緒に冒険したいと思ったから。」
「僕、ドジで不器用で、魔術もあんまり得意じゃ無いからさ。」
「アスピとなら、きっと魔王を倒せると思った。だからアスピについて行ったんだ。」
「そうね。アンタみたいなのは……私やフォースさんがいないと、買…もの…も。」
 彼女はそれからスースーの息で寝てしまった。
 今言ったことは本心だ。
 彼の兄、真の勇者なら
 そう、剣技と攻撃呪文と回復・補助呪文を使いこなせれる彼なら仲間なんていなくても、自分一人で魔王を倒し得たかも知れない。
 彼はそういう運命を持って生まれてきた人間なのだから。
 だが、僕たちは違う。
 僕は回復魔術が使えないし、フォースは補助魔術が使えない。それでアスピは剣が扱えない。
 だから、三人で一役を買わないといけない。
 僕たちは勇者じゃ無いのだから。
「プープー」
 急に船内のアラームが赫く光始める。
 レーザーが真っ赤に染まっていた。
 どうしよう、点検が行き届いて無かったのか、魔力供給量を間違えたか
「敵か味方か、こちらに向かってきている船がある。」
「漁船だったら良いのだけど、魔族か海賊か。」
「まぁ後者ならこんな派手な信号は出さないだろうから。」
「よほどのバカか私たちが舐められてるのか。」
「アスィール。甲板を見てきて。気をつけてね。魔弾が飛んでくるかも知れないから。」
 アスピに言われるがまま、僕は甲板へと出る。
 霧が深い。
 深い濃霧の中から、一隻の趣味の悪い船が姿を現し、僕たちの魔導船の船側へと、彼らの船首が行儀悪くぶつかった。
「あーあ。海賊ねコレは。私たち死ぬかも。」
 ガラの悪い男たちが、渡り板をこちらに下ろすと、自身の獲物を舐めながらゾロゾロとやってくる。
「ヒャッハー!! 」
「コレ、王家の船だぜ。タンマリ財宝あるはずだ!! 」
「その前に、汚物を消毒しねえとな。」
 僕は腰から乙姫を引き抜くと、アスピを庇った。
「また私を!! 」
「ええい、寝てろよ。」
 僕も心に余裕がなく、彼女を怒鳴ってしまう。
 だけど僕もこのままやられてやる気なんて微塵もないからな。
 コイツらに捕まって、奴隷として売られるなんて!!
「オイ、オマエら、一番はアタイや言うたやろ。誰や最初にこの船に乗り込んだんは。」
「へへい姉貴、すみません。」
「ッ。まぁええわ。お前は早漏やて船ん中で有名やからな。」
 それから女は僕たちの方を見た。
「なんや、アンタら二人か。他に乗客は? 」
 下にフォースがいる。
 だけどそれを知られてしまえば、彼女たちにどうされるかは分からない。
 僕はコックリ頷いた。
「二人をこんな大勢で取り囲んでも樂しゅーない。オイ、オマエら。アタイの仕事の理念を言ってみ? 」
「「「仕事は楽しく。」」」
「そう、それだけや。仕事なんて邪魔くさいもんやし。食うために、いかに楽しむかってもんやろ? 」
「なぁそこのお前。もやし男。アタイと勝負せいや。負けたらこの船はいただくで。お前らは泳いで岸まで行きな? 」
「その勝負受けて立つけど、船は上げられないから。コレは人から借りてるものだからさ。」
「んなら、まずはアンタのタマからいただくことにするわ。覚悟せえや蛮勇。」
 彼女は自分の船の甲板から飛び降りた。
 
 


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