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イーストランドへ
城を目指して
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「フォースさんは、息一つ上がってませんね。」
そういうクリートもいつものクールでビューティーな女性である。
「みんな!! 待ってよ。」
アスピは僕に振り向こうともしない。
黙々と石段の一段一段を踏み超えていく。
「巡礼で…… まぁ自身の置かれている立場というモノもある。私はヘブンズの戦闘担当だからな。仕事をこなすためにも日々の鍛錬は欠かせなかった。」
「それと違って……. 」
クリートさんが僕の方を指さす。
「おーい。もう荷物が重くて。誰か持ってくれない!! 」
「少年は体力が無いのではない。山に慣れてないだけだ。石段を登る行為は普段使わない筋肉を使う。それに酸素も薄くなって来た。普段から高所で暮らしている君たちと少年とではまるで身体の適応力が違う。」
「ねぇ、さっきから無視してばっかりでさぁ。フォース。重いよぉ。」
フォースは僕に振り返り、首を横に振った。
「弟子の荷物を持つ師がどこにいる? 逆に私の荷物をお前が持つべきだろう? 弟子としてその程度の気配りも出来ないようだな? 」
「そんなぁ!! 」
アピスが無言で手を差し出してくれる。
「呆れた。勇者とか言ってたくせに、自分の身体の面倒も見れないなんて。」
「ごめん、助かるよ。」
「盾……重いんでしょ。」
「うん、ちょっとね。途中で置いて行こうと思った。もう口すら聞いてくれなくてさ。こんなの産業廃棄物だよね。」
「さん……? まぁ良いけど、アンタそれ、王様から貰った大事な盾でしょ。そんなこと、言わない方がいいわよ。人の気持ちは大切にしないと。」
「うん。そうだね。アピスは優しいから、周りの人を心配させないために、猫を被っているんでしょ? 」
「うっ!! そういうところよ。もう荷物持ってあげないわよ。」
また彼女を怒らせてしまった。
「ごめんなさい。勇者になるには、そういうところも直さないと。」
彼女は僕の荷物を担ぐと、クリートたちの後を追った。
「いんじゃないの。アンタはアンタで。さっきの言葉、あながち間違いじゃないからさ。勇者の妹なんていう肩書きが無ければ、あんな風には振る舞わないわよ。」
「荷物、ありがとう。やっぱりアスピは優しいね。おかげでなんとか石段を登っていけそうだ。」
「ちゃんと鍛えないとダメよ? 」
「うん。」
山の中腹まできた頃だろうか?
生い茂る木々の間から、懸け造りの石建築が現れ始めた。
「見て、アレがイーストサイドの本拠地。本店よ。」
「ってことは。イーストサイドには、チェーン店が存在するの? 」
「ウェストにもあるわよ。世界のいたるところにね。宗教ってそんなもん。必要なのよ、どこの人間にも。」
「そういえばさ。アスピは信仰しているの? 女神ティアマト様? 」
彼女は苦笑いをした。
またイケナイことを聞いてしまったか。
本来、こういう宗教的なことは聞かない方が良いのかも知れない。
「形式上はね。教義だから。でも加護は受けてないわ。私はこの旅が終わったら。」
首に右手で手刀を作り当てがった。
彼女は何にも言わない。だが、意味は分かった。
彼女は魔王を倒した最後、教会によって兄と同じように処刑されるのだ。
「まぁ拾った命だし? それにさ、肉親を殺した奴の加護なんて、まっぴらごめんだわ。」
それから彼女はクスクスと笑った。
「聞いたわよ。フォースから。アンタは魔王を倒したら故郷の義理の姉と結婚するんだって? 」
「そう。リワン姉ちゃんと僕は許嫁だから…… 」
「馬鹿みたい…… 馬鹿みたいでとっても良いわね。」
「ねぇ? 」
「魔王を倒した人間は、他の人間からどう見えるかしらね。」
僕は少し考えた。
でもまだその意味が僕には分からなかった。
「ねぇ。お花畑のアンタに教えてあげる。」
「人間には気をつけなさい。貴方が思っているほど、人間っていうのは、脅威にも恐れにも強くない。このことだけは絶対に忘れないで。」
彼女がじっと僕の目を見る。
ディアストと同じ金色の瞳、真実の瞳だ。これだけは彼女の本心から来たモノだと理解できた。
「分かった。」
「でも。」
「アスピのことも必ず助けるよ。」
「へぇなんでぇ?」
「勇者だから。」
「さっきの話聞いてた? 」
そうこうしているうちに、僕たちは、アスピたちの本拠地へと辿り着いた。
「コレはコレはフォース殿。慣れない旅路で疲れたであろう。ささ、お荷物を。」
フォースは登山でガクガクになっている僕を指差した。
「アレの方が消耗が激しい。持ってやってくれ。」
「コレはコレは勇者様。」
ウェストサイドの人に荷物を持ってもらえて、一息つけた。
「ふう。助かったぁ。」
「勇者どの? その盾も。」
僕はドゥルガを抱き抱えて、背を向ける。
「剣はお願い。でもコレは手放せないよ。人から貰ったモノなんだ。それもビギニア王から。」
「コレはコレは失礼いたしました。」
そうこうやりとりをしているうちに、奥から見慣れた格好をした神官がこちらにやって来る。
フォースと同じヘブンズの法衣。
「セブンスか。入れ違いだと思っていたが……護衛ご苦労。」
彼は腕を前に組むと軽く一礼した。
「そちらこそ、盾の死守お疲れ様。ファーストから連絡があってですね。せっかくですからそのままアスィールたちの護衛をしなさいと。」
「異常はなかったか? 」
「はい、何事も。ここの守りは強固ですし、なんせこの山には私が居ますから。」
彼の力量はまだ見たことがない。
だが、テンスとの戦闘の最中で、かなりの手練であることは感じ取れた。
それでも、戦闘専門のフォースには及ばないはずだ。
「さぁさぁ。皆さん、風呂の準備も夕食の支度もできていますから。明後日の謁見に向けて、英気を養って下さい。」
僕たちは僧侶に連れられて、建物の中へと入った。
そういうクリートもいつものクールでビューティーな女性である。
「みんな!! 待ってよ。」
アスピは僕に振り向こうともしない。
黙々と石段の一段一段を踏み超えていく。
「巡礼で…… まぁ自身の置かれている立場というモノもある。私はヘブンズの戦闘担当だからな。仕事をこなすためにも日々の鍛錬は欠かせなかった。」
「それと違って……. 」
クリートさんが僕の方を指さす。
「おーい。もう荷物が重くて。誰か持ってくれない!! 」
「少年は体力が無いのではない。山に慣れてないだけだ。石段を登る行為は普段使わない筋肉を使う。それに酸素も薄くなって来た。普段から高所で暮らしている君たちと少年とではまるで身体の適応力が違う。」
「ねぇ、さっきから無視してばっかりでさぁ。フォース。重いよぉ。」
フォースは僕に振り返り、首を横に振った。
「弟子の荷物を持つ師がどこにいる? 逆に私の荷物をお前が持つべきだろう? 弟子としてその程度の気配りも出来ないようだな? 」
「そんなぁ!! 」
アピスが無言で手を差し出してくれる。
「呆れた。勇者とか言ってたくせに、自分の身体の面倒も見れないなんて。」
「ごめん、助かるよ。」
「盾……重いんでしょ。」
「うん、ちょっとね。途中で置いて行こうと思った。もう口すら聞いてくれなくてさ。こんなの産業廃棄物だよね。」
「さん……? まぁ良いけど、アンタそれ、王様から貰った大事な盾でしょ。そんなこと、言わない方がいいわよ。人の気持ちは大切にしないと。」
「うん。そうだね。アピスは優しいから、周りの人を心配させないために、猫を被っているんでしょ? 」
「うっ!! そういうところよ。もう荷物持ってあげないわよ。」
また彼女を怒らせてしまった。
「ごめんなさい。勇者になるには、そういうところも直さないと。」
彼女は僕の荷物を担ぐと、クリートたちの後を追った。
「いんじゃないの。アンタはアンタで。さっきの言葉、あながち間違いじゃないからさ。勇者の妹なんていう肩書きが無ければ、あんな風には振る舞わないわよ。」
「荷物、ありがとう。やっぱりアスピは優しいね。おかげでなんとか石段を登っていけそうだ。」
「ちゃんと鍛えないとダメよ? 」
「うん。」
山の中腹まできた頃だろうか?
生い茂る木々の間から、懸け造りの石建築が現れ始めた。
「見て、アレがイーストサイドの本拠地。本店よ。」
「ってことは。イーストサイドには、チェーン店が存在するの? 」
「ウェストにもあるわよ。世界のいたるところにね。宗教ってそんなもん。必要なのよ、どこの人間にも。」
「そういえばさ。アスピは信仰しているの? 女神ティアマト様? 」
彼女は苦笑いをした。
またイケナイことを聞いてしまったか。
本来、こういう宗教的なことは聞かない方が良いのかも知れない。
「形式上はね。教義だから。でも加護は受けてないわ。私はこの旅が終わったら。」
首に右手で手刀を作り当てがった。
彼女は何にも言わない。だが、意味は分かった。
彼女は魔王を倒した最後、教会によって兄と同じように処刑されるのだ。
「まぁ拾った命だし? それにさ、肉親を殺した奴の加護なんて、まっぴらごめんだわ。」
それから彼女はクスクスと笑った。
「聞いたわよ。フォースから。アンタは魔王を倒したら故郷の義理の姉と結婚するんだって? 」
「そう。リワン姉ちゃんと僕は許嫁だから…… 」
「馬鹿みたい…… 馬鹿みたいでとっても良いわね。」
「ねぇ? 」
「魔王を倒した人間は、他の人間からどう見えるかしらね。」
僕は少し考えた。
でもまだその意味が僕には分からなかった。
「ねぇ。お花畑のアンタに教えてあげる。」
「人間には気をつけなさい。貴方が思っているほど、人間っていうのは、脅威にも恐れにも強くない。このことだけは絶対に忘れないで。」
彼女がじっと僕の目を見る。
ディアストと同じ金色の瞳、真実の瞳だ。これだけは彼女の本心から来たモノだと理解できた。
「分かった。」
「でも。」
「アスピのことも必ず助けるよ。」
「へぇなんでぇ?」
「勇者だから。」
「さっきの話聞いてた? 」
そうこうしているうちに、僕たちは、アスピたちの本拠地へと辿り着いた。
「コレはコレはフォース殿。慣れない旅路で疲れたであろう。ささ、お荷物を。」
フォースは登山でガクガクになっている僕を指差した。
「アレの方が消耗が激しい。持ってやってくれ。」
「コレはコレは勇者様。」
ウェストサイドの人に荷物を持ってもらえて、一息つけた。
「ふう。助かったぁ。」
「勇者どの? その盾も。」
僕はドゥルガを抱き抱えて、背を向ける。
「剣はお願い。でもコレは手放せないよ。人から貰ったモノなんだ。それもビギニア王から。」
「コレはコレは失礼いたしました。」
そうこうやりとりをしているうちに、奥から見慣れた格好をした神官がこちらにやって来る。
フォースと同じヘブンズの法衣。
「セブンスか。入れ違いだと思っていたが……護衛ご苦労。」
彼は腕を前に組むと軽く一礼した。
「そちらこそ、盾の死守お疲れ様。ファーストから連絡があってですね。せっかくですからそのままアスィールたちの護衛をしなさいと。」
「異常はなかったか? 」
「はい、何事も。ここの守りは強固ですし、なんせこの山には私が居ますから。」
彼の力量はまだ見たことがない。
だが、テンスとの戦闘の最中で、かなりの手練であることは感じ取れた。
それでも、戦闘専門のフォースには及ばないはずだ。
「さぁさぁ。皆さん、風呂の準備も夕食の支度もできていますから。明後日の謁見に向けて、英気を養って下さい。」
僕たちは僧侶に連れられて、建物の中へと入った。
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