244 / 283
第7章【愛の言葉】
49罪 温もりのない両の手①
しおりを挟む
「そんな……こと、が」
話を聞いて、私は率直にそんな事しか言えなかった。
否。言葉が出てこないのだ。喉につっかえてしまったかのように、気持ちが、感情が、すべてが、張り付いてしまったかのように、出てこない。頭がうまく働いてくれず、何か言えばいいのか、何を思えばいいのか、まとまらない。
それだけ、燿と耀さんから聞かされた話は重たく、冷たく、苦しいものだった。
本人たちがあっけらかんと話しているから、余計に第三者である私達がつらくなる。
「雪ちゃん、そんなに重くとらえなくていいよ」
「……だけどっ」
「燿の言うとおりですよ。私達は自分たちの意思で名乗り出たんです」
「無理矢理やらされたわけでもないし、僕も耀も納得して喜んでやったんだよ?」
告げる燿の表情も耀さんの口調も、悲しみは孕んでいなかった。本当に心から望んでやったのだと、伝わってくる。
それでも、二人を大切に感じている私がそれに納得できるかは別の問題だ。
ひんやりとした空気が私の気持ちを表しているようで、私は自然と唇を震わせた。
「だと……しても……」
「……雪さん」
冷たい地面を見つめ、わなわなと体を震わせながら私は振り絞るように声を漏らした。
喉を通って口から出てくる私の声は、凄く震えていて、鼻がツンと痛くなるのを感じた。
「悲しまないでください」
ふわりと、私の頬を何かが包み込んだ。
揺らぐ視界で頑張ってそれを捉えれば、それが耀さんの両の手だと分かる。
触れられるわけではない。温もりがあるわけでもない。感触だって、何もない彼らの両手。だけど、耀さんが私を慰めようと、私の大粒の涙が流れ落ち続けている頬に触れようとしてくれたのは理解できた。
「私達は、雪さんと再び出会えたことを嬉しく思っています」
「僕達はね、ゑレ妃ちゃんの魂とある種、一つになって存在出来ていることを喜ばしく思っているんだよ」
そう告げながら、燿が私のそばに寄ってきて頭をゆっくりと撫でるように手を動かした。触れた感触はないけれど、そのしぐさから胸がポッと暖かくなった。
燿と耀さんの表情が優しくて、余計に鼻がツンとした。目頭が熱くなり、視界がまた揺らぎ始める。涙がこみ上げてきて、視界を遮ってくる。
「だけどっ……2人は……っ……私達の記憶と力を守るために……死ん、じゃ……ったんで、しょ?」
「まあ……確かにそうではあるんだけど……」
肯定されれば、余計に心がぎゅーっと苦しくなる。
私達のせいで、燿も耀さんも死ぬことになってしまった。その事実に、私の心臓がぎゅーぎゅーと軋む。悲鳴を上げる。
なんでなんでなんでなんでなんで。
話を聞いて、私は率直にそんな事しか言えなかった。
否。言葉が出てこないのだ。喉につっかえてしまったかのように、気持ちが、感情が、すべてが、張り付いてしまったかのように、出てこない。頭がうまく働いてくれず、何か言えばいいのか、何を思えばいいのか、まとまらない。
それだけ、燿と耀さんから聞かされた話は重たく、冷たく、苦しいものだった。
本人たちがあっけらかんと話しているから、余計に第三者である私達がつらくなる。
「雪ちゃん、そんなに重くとらえなくていいよ」
「……だけどっ」
「燿の言うとおりですよ。私達は自分たちの意思で名乗り出たんです」
「無理矢理やらされたわけでもないし、僕も耀も納得して喜んでやったんだよ?」
告げる燿の表情も耀さんの口調も、悲しみは孕んでいなかった。本当に心から望んでやったのだと、伝わってくる。
それでも、二人を大切に感じている私がそれに納得できるかは別の問題だ。
ひんやりとした空気が私の気持ちを表しているようで、私は自然と唇を震わせた。
「だと……しても……」
「……雪さん」
冷たい地面を見つめ、わなわなと体を震わせながら私は振り絞るように声を漏らした。
喉を通って口から出てくる私の声は、凄く震えていて、鼻がツンと痛くなるのを感じた。
「悲しまないでください」
ふわりと、私の頬を何かが包み込んだ。
揺らぐ視界で頑張ってそれを捉えれば、それが耀さんの両の手だと分かる。
触れられるわけではない。温もりがあるわけでもない。感触だって、何もない彼らの両手。だけど、耀さんが私を慰めようと、私の大粒の涙が流れ落ち続けている頬に触れようとしてくれたのは理解できた。
「私達は、雪さんと再び出会えたことを嬉しく思っています」
「僕達はね、ゑレ妃ちゃんの魂とある種、一つになって存在出来ていることを喜ばしく思っているんだよ」
そう告げながら、燿が私のそばに寄ってきて頭をゆっくりと撫でるように手を動かした。触れた感触はないけれど、そのしぐさから胸がポッと暖かくなった。
燿と耀さんの表情が優しくて、余計に鼻がツンとした。目頭が熱くなり、視界がまた揺らぎ始める。涙がこみ上げてきて、視界を遮ってくる。
「だけどっ……2人は……っ……私達の記憶と力を守るために……死ん、じゃ……ったんで、しょ?」
「まあ……確かにそうではあるんだけど……」
肯定されれば、余計に心がぎゅーっと苦しくなる。
私達のせいで、燿も耀さんも死ぬことになってしまった。その事実に、私の心臓がぎゅーぎゅーと軋む。悲鳴を上げる。
なんでなんでなんでなんでなんで。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる