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第7章【愛の言葉】

49罪 温もりのない両の手①

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「そんな……こと、が」

 話を聞いて、私は率直にそんな事しか言えなかった。
 否。言葉が出てこないのだ。喉につっかえてしまったかのように、気持ちが、感情が、すべてが、張り付いてしまったかのように、出てこない。頭がうまく働いてくれず、何か言えばいいのか、何を思えばいいのか、まとまらない。
 それだけ、ひかる耀ひかりさんから聞かされた話は重たく、冷たく、苦しいものだった。
 本人たちがあっけらかんと話しているから、余計に第三者である私達がつらくなる。

「雪ちゃん、そんなに重くとらえなくていいよ」
「……だけどっ」
ひかるの言うとおりですよ。私達は自分たちの意思で名乗り出たんです」
「無理矢理やらされたわけでもないし、僕も耀ひかりも納得して喜んでやったんだよ?」

 告げるひかるの表情も耀ひかりさんの口調も、悲しみは孕んでいなかった。本当に心から望んでやったのだと、伝わってくる。
 それでも、二人を大切に感じている私がそれに納得できるかは別の問題だ。
 ひんやりとした空気が私の気持ちを表しているようで、私は自然と唇を震わせた。

「だと……しても……」
「……雪さん」

 冷たい地面を見つめ、わなわなと体を震わせながら私は振り絞るように声を漏らした。
 喉を通って口から出てくる私の声は、凄く震えていて、鼻がツンと痛くなるのを感じた。

「悲しまないでください」

 ふわりと、私の頬を何かが包み込んだ。
 揺らぐ視界で頑張ってそれを捉えれば、それが耀ひかりさんの両の手だと分かる。
 触れられるわけではない。温もりがあるわけでもない。感触だって、何もない彼らの両手。だけど、耀ひかりさんが私を慰めようと、私の大粒の涙が流れ落ち続けている頬に触れようとしてくれたのは理解できた。

「私達は、雪さんと再び出会えたことを嬉しく思っています」
「僕達はね、ゑレ妃えれひちゃんの魂とある種、一つになって存在出来ていることを喜ばしく思っているんだよ」

 そう告げながら、ひかるが私のそばに寄ってきて頭をゆっくりと撫でるように手を動かした。触れた感触はないけれど、そのしぐさから胸がポッと暖かくなった。
 ひかる耀ひかりさんの表情が優しくて、余計に鼻がツンとした。目頭が熱くなり、視界がまた揺らぎ始める。涙がこみ上げてきて、視界を遮ってくる。

「だけどっ……2人は……っ……私達の記憶と力を守るために……死ん、じゃ……ったんで、しょ?」
「まあ……確かにそうではあるんだけど……」

 肯定されれば、余計に心がぎゅーっと苦しくなる。
 私達のせいで、ひかる耀ひかりさんも死ぬことになってしまった。その事実に、私の心臓がぎゅーぎゅーと軋む。悲鳴を上げる。
 なんでなんでなんでなんでなんで。
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