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第3章【一途に想うからこそ】

18罪 ハジメテ⑩

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(静ちゃんも……そりゃ、心配で気が気じゃない、か)

 そんな思いを共有したくて来たのかな、とヴェルは少し考えると笑顔を向けた。いつもは彼女に向けることのない優しい笑みに、静は少しだけ驚いたように目を見開いた。そして、少しだけ居心地が悪そうに表情を歪めると静は視線を逸らしながらヴェルに近寄っていくと、彼の隣にとさっと腰かけた。

「どうしたの?」
「……雪ちゃん、大丈夫かしら」
「しばらくは、恐怖心はぬぐえないかもしれないけど、みんなで優しくしてあげよう」

 自分達にはそれ以上のことは出来ないよ、とヴェルは苦笑いを浮かべ肩をすくめた。何かしてあげたいのはやまやまだけど、きっと何をしても雪の事を追い詰めるだけだろう。思い出したくもない記憶を呼び覚ましてしまうだろう。
 ヴェルは後ろに両手を置いて、後ろに重心をかけながら天井を見上げて大きくため息を吐いた。

「そう、ね」
「それにしても、静ちゃんは良く逃げてこれたね」
「え?」
「だって、怖くて動けなくなる可能性だってあったわけでしょ?」

 ヴェルの言葉に静は少しだけ悩んで頬を掻くと、申し訳なさそうに眉を下げた。その様子がヴェルには意味が分からず首を傾げると、くつろいでいた体勢から真剣に話を聞こうと後ろに重心をかけていた体を起こした。
 真っすぐに静を見つめ、彼女の言葉を待つ。

「雪ちゃんが……私を、逃がしてくれたのよ」
「――――え?」
「本当は捕まっていたのは、私だったの」

 静の言葉にヴェルは衝撃を受けたように目を丸く見開き、何か発言がしたいのに声が出てこなくてパクパクと魚のように口を開閉させた。

「だけど、雪ちゃんが私と変わるって言い始めて……雪ちゃんが今度はあいつらに捕まったのよ」
「なん、で……そんな……」
「雪ちゃん、私のこと大好きで大切だから。それに、真兄もヴェルくんも私のことを大切に思っているから、私が捕まるよりも自分が捕まった方がいいって」
「そんな……!」

 自ら静の身代わりになった雪の行動に、ヴェルは信じられないと口をあんぐりと開けた。

(ヴェルくんは意外だと思ってるのね……)

 ヴェルの様子を見て、静は内心そう思いながら苦笑を漏らした。静は理解していたのだ、雪が身代わりになると行動するだろうという事を。
 雪が静のことを盲目的に大切に思っていて、慕っていて、憧れていることを理解していた。けれど、それをヴェルに伝えるかと言われれば否だ。伝える必要なんてないし、そんな義理もない。

(雪ちゃんは、絶対に私に危害が加わらないようにしてくれるわ)

 そうなるように、長い年月をかけて雪の一番になるように静は行動してきた。もちろん、最初はそんな思惑なんて全くなくて、本当に周りのことが気に食わなくて雪の事を助けたはずだった。
 それがこんな風に変わっていったのは、おそらく雪が盲目的に静のことを慕ったからだろう。
 何を言っても、何をしても、自分の事を信じて慕い続けてくれる存在がいるという事実が、静を歪めていったのかもしれない。もちろん、静本人の性格も少なからず影響はしているのだろうが。
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