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第3章【一途に想うからこそ】

17罪‬ 身代わり⑩

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(……ん?)

 その時、私の視界にちらっと何かの影が見えた気がして眉をひそめた。目をこらしながら静より先――岩場の先をジッと見つめた。
 動物ならすぐに離れればいいけれど、もし魔獣だった場合は逃げつつヴェル君に助けを求めなければならない。大きな声を上げて向こうに居る二人に聞こえるかどうかもわからないけど。

「雪ちゃん、どうしたの?」
「……静、ストップ」
「…………え?」

 私の真剣な表情と声に、静は振り返りながら首を傾げた。見間違えならいいんだけれど、もし見間違えじゃないならこのまま岩場に近寄るのは危ない。気付いていないなら尚更だ。

「お? こんな所に素っ裸の女がいるとはなァ」
「……!?」

 聞こえた低い声に、私の方を向いていた静が驚いて息を呑みながら岩場の方へと反射的に振り返った。私も驚いて息を呑み、岩場からひょっこりと姿を現した二人組の男の姿を確認すると慌てて自分の体を隠すように両手で胸を覆い隠した。

(逃げなきゃ……!)

 すぐに頭が働いた私はヴェル君達がいる岩場の方に慌てて振り返り、逃げようと動こうとした瞬間だった。

「おっと。一人で逃げるつもりかァ?」

 その言葉に私はちらりと視線をそちらに向けると、いかにもガラの悪そうな男に腕を掴まれた静の姿が飛び込んできた。
 もう一人の大柄な男が舌なめずりをしながら、私と静を交互に見やると。

「お友達置いて一人逃げるってんなら、俺達は別にそれでもかまわねぇぜェ? その場合、この嬢ちゃん一人で俺達と遊んでもらうからさ」

 ぐいっと掴んだ静の腕を引き上げるように引っ張り、ガラの悪そうな男は静の体を抱きかかえるようにして自身に引き寄せていた。
 恐怖の色をにじませた静の表情を見て、私は逃げるに逃げられなくなった。静が恐怖を感じていなかったとしても逃げることなんて出来なかったけれど。

「……っ」
「ほら、こっちこいよ」
「ゆ、雪ちゃん……」

 静を人質に取られているような今、私は大柄な男の言葉どおりに岩場の方へと近寄るしかなかった。両腕で胸を隠して男二人を警戒したまま、ゆっくりと近づいていく。

「もっとだ」

 少し近づいたところで歩みを止めれば、まだ距離が足りないと舌打ちしながら呟く大柄な男の声に下唇を噛んだ。
 これ以上近づけば、私も大柄な男の手に捕まってしまう。だけど、静がガラの悪そうな男に捕まってしまっている今、指示を無視することは出来ない。
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