90 / 283
第2章【交わる二人の歯車】
16罪 好きな人は大好きな友達の恋人でした⑫
しおりを挟む
「雪様、よろしいでしょうか?」
「あ、はい。どうぞ」
真兄が来るかと思っていたから、予想外の声が聞こえて驚いた。襖が開き、白卯と真兄が一緒に部屋の中に入ってきたのを確認すると、私はゆっくりと体を起こして二人の方を見た。
「ああ……本当に、目が腫れていらっしゃいますっ。大丈夫でございますかっ⁉」
「……真兄」
おろおろとしながら私に近寄ってくる白卯の言葉を耳にして、私はじとーとした視線を真兄に送った。確かにはっきりと「誰かに見られたくない」とは言わなかったかもしれないけど、真兄はその真意に気付いて「その顔で外に出たくないだろう?」と聞いてくれたんじゃなかったのか? 白卯に知られてしまったじゃないか……と私は無言の圧力を真兄に向けた。
「すまない、雪」
私の言わんとしていることを理解したのか、真兄は申し訳なさそうに肩をすくめながら私に近寄ってきた白卯と並ぶように佇んだ。
「さすがに用途を聞かずにお渡しするわけにも参りませんから……真殿を責めないでください、雪様」
「……もう、しょうがないなぁ……」
白卯にそう言われてしまえば、私はこれ以上真兄をじと目で見るわけにもいかなくて、苦笑を浮かべて肩をすくめた。
白卯から差し出された濡れた布と氷を受け取ると、それらを腫れた両目を抑えるように宛がった。氷を覆った濡れた布からひんやりとした冷たさを感じ取り、ほぅっと心地よさに息が漏れた。
「真兄、白卯、ありがとう」
「いや」
「どういたしまして、雪様」
両目を覆い隠した状態で伝えたお礼の言葉。見えないけど、二人が柔らかい笑みを浮かべているんじゃないかと思えた。声色がそんな感じだったから、そう思っただけなんだけど、たぶん間違っていないと私は思えた。
「それより、いったい何があったのですか?」
「……っ」
真兄は上手い事話をそらすことが成功したけれど、白卯はそうはいかなかった。問われた言葉に息を呑み、私は戸惑い言葉が出てこなかった。
「雪様?」
「雪?」
その様子が異様に思えたのか、心配そうに声をかけてくる二人の声に私は余計に何も言えなくなった。言えるわけがない。
「な、んでもないよ! 起きたらこうなってて……もしかしたら何か夢でも見て寝ながら泣いちゃってたのかも!」
もの凄く苦しい言い訳だとは思ったけれど、これで二人をはぐらかすことが出来たらラッキーだと思った。ハハハ、と元気に笑い声を上げながら、なんでだろうねーととぼける。だけど、私のその発言に対して白卯も真兄も何も返事を返してくれず、変な沈黙だけが流れた。
き、気まずい……
「あ、はい。どうぞ」
真兄が来るかと思っていたから、予想外の声が聞こえて驚いた。襖が開き、白卯と真兄が一緒に部屋の中に入ってきたのを確認すると、私はゆっくりと体を起こして二人の方を見た。
「ああ……本当に、目が腫れていらっしゃいますっ。大丈夫でございますかっ⁉」
「……真兄」
おろおろとしながら私に近寄ってくる白卯の言葉を耳にして、私はじとーとした視線を真兄に送った。確かにはっきりと「誰かに見られたくない」とは言わなかったかもしれないけど、真兄はその真意に気付いて「その顔で外に出たくないだろう?」と聞いてくれたんじゃなかったのか? 白卯に知られてしまったじゃないか……と私は無言の圧力を真兄に向けた。
「すまない、雪」
私の言わんとしていることを理解したのか、真兄は申し訳なさそうに肩をすくめながら私に近寄ってきた白卯と並ぶように佇んだ。
「さすがに用途を聞かずにお渡しするわけにも参りませんから……真殿を責めないでください、雪様」
「……もう、しょうがないなぁ……」
白卯にそう言われてしまえば、私はこれ以上真兄をじと目で見るわけにもいかなくて、苦笑を浮かべて肩をすくめた。
白卯から差し出された濡れた布と氷を受け取ると、それらを腫れた両目を抑えるように宛がった。氷を覆った濡れた布からひんやりとした冷たさを感じ取り、ほぅっと心地よさに息が漏れた。
「真兄、白卯、ありがとう」
「いや」
「どういたしまして、雪様」
両目を覆い隠した状態で伝えたお礼の言葉。見えないけど、二人が柔らかい笑みを浮かべているんじゃないかと思えた。声色がそんな感じだったから、そう思っただけなんだけど、たぶん間違っていないと私は思えた。
「それより、いったい何があったのですか?」
「……っ」
真兄は上手い事話をそらすことが成功したけれど、白卯はそうはいかなかった。問われた言葉に息を呑み、私は戸惑い言葉が出てこなかった。
「雪様?」
「雪?」
その様子が異様に思えたのか、心配そうに声をかけてくる二人の声に私は余計に何も言えなくなった。言えるわけがない。
「な、んでもないよ! 起きたらこうなってて……もしかしたら何か夢でも見て寝ながら泣いちゃってたのかも!」
もの凄く苦しい言い訳だとは思ったけれど、これで二人をはぐらかすことが出来たらラッキーだと思った。ハハハ、と元気に笑い声を上げながら、なんでだろうねーととぼける。だけど、私のその発言に対して白卯も真兄も何も返事を返してくれず、変な沈黙だけが流れた。
き、気まずい……
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる