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第10章 過去の執念と秀才の破滅

131・5時間目 ひとりぼっち達

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 物心ついたとき、私は地獄のど真ん中にいた。

 母親が役目を全うしていない生活、極限状態の空腹に寂しさ。

 静寂が続きすぎる部屋で私は六年間生きてきた。

 でも、義母のおかげで私は「宮浦」と「カナ」というふたつの名前に憧れていた「普通」の生活を貰った。

 義父との間に子供が出来ず、寂しさを埋めるために私を見つけてくれた彼女に本当に感謝しかなかった。

そんな私が彼と出会ったのは、私が小学校に転校してからだった。

 もちろん、彼とは裕太君のことだ。裕太君とはこれから長い付き合いになる。本当に付き合えたらどれだけ嬉しかったか……。

 転校先の小学校では、私はあまり馴染めなかった。なんせ、同世代の子と関わりがほとんど無かったし、独りでいた時間が長すぎて人混みでは酔うことがしばしばあったのだ。

 私が転校してから三ヶ月がたった頃。ちょうどその頃、遠足のグループ決めがあり、私は皆が続々とグループを作っていくなかで一人立ちすくんでいた。

 誰かにグループに入れてと声をかけることも出来なければ、声をかけてくれる友達もいない。このときの私は完全に学校生活の電車に乗り遅れていた。

(ひとり、だれもこえかけない)

 当時は不安に押しつぶされて泣きそうになっていたのをかすかに覚えている。しかし、彼らしく、そんなときに、困ったときに手を差し伸べてくれたのが、裕太君だった。

「ねぇ、みやうらちゃん」

 彼はいつも微笑んでいた。誰に対しても、分け隔てない笑顔で、優しさで接していた。

「ぼくらのはん、ひとりたりないからきて」

「ぇ……。わたしでいいの?」

「うん! もちろんだよ! さ、きてきて!」

 引っ張られた手がとても暖かく、このとき、私は完全に彼に心を奪われた。

 しかし、当時はまだ好きとか愛とか分からない小学生。私を助けてくれるいい人としか思っていなかった。

 彼は進級を繰り返して、更に仲良くなった。初めて遊んだときは家が近くだったこともあり、毎日班として登校していた。

 小学校高学年になってから色恋に意識を皆しだす頃で、私は当時から裕太君のことが好きだと知り、周りは好き同士と噂をたてていた。それに彼は苦笑いし、私はまんざらでもなかった。

 中学生になっても、私たちの関係は変わらない。

 ずっと仲の良い幼なじみのような存在として私たちは関わった。裕太君は成長期で声変わりと背丈がすらりと伸びて今に近い大人っぽい印象になった。

 私はそんな彼に少しでも相応しくなるようにと清楚なふりを装った。それで何回かは自分の顔を勘違いしている男に告白を受けた。もちろん、瞬殺してあげた。裕太君以外、眼中にないから。そんな言葉は吐けなかったけど。

 一部から私の嫉妬で裏で遊んでるだの根拠のないこと言ってくる女がいたけどそいつらには皆圧力をかけて心から潰してあげた。裕太君に近づこうとするやつらも。

 そして、高校。私は失敗した。

 裕太君を怒らせた。彼は私より友達の方が大事だったのだ。

 私は彼に拒絶された。

 そのことだけを感じて、ただ無気力に二年の時を過ごした。

 ──

「こんな感じでいいのかなぁ」

 サラサラとキーボードを打ち、私は首をかしげる。

 「NAKANA」というペンネームを使って書いた私の人生と裕太君との出会いを描いた短編小説をネットに投稿した。

 タイトルは「過去の執念と秀才の破滅」というタイトルで、破滅はあの高橋敦志とかいう私の邪魔をした男に向けて綴った。

「裕太君、会いたいよぉ」

 26時、私は裕太君と夢のなかで会うことを期待して眠りについた。

 その日の夢はやっぱり最悪だった。
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