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第8章 〝幸せ〟の選択 ─さよならの決意─
116時間目 さよならまでのカウントダウン
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それは年末のこと。突然、大学院に行かないかと教授に言われたのは昼下がりのある日だった。
その大学から推薦で行けるという大学院は私が今いる地域からかなり離れたところだった。
「まぁ、神谷君は社会性もあって勉強も出来る。君をこのまま社会にだしてもいいが、私はその行為は粗磨きしたダイヤの原石をショーケースにだすものだと思っている。そんなの見るだけで綺麗で価値もあるがここから研磨すれば、更に価値があがる……だろう? まぁ、引っ越しやその他の準備もあるし、考える時間はあげるから、前向きに検討してみてくれ」
そのとき私は分かりましたと言って駅にかけこんだけど、心のなかでは迷っていた。
推薦でいけるのはとても喜ばしい。だけど、私はここから離れなければいけない。
こんなとき、彼──橙太ならどうするのか。
まだ、彼の隣にいれたならどんなアドバイスをくれたのか。
分からない。もう、聞くことは出来ない。
電車に揺られながら、私は考える。
もし、彼がどんな関係でいても、やっぱりいった方がいいと言うだろうと。
そういう人だから。自分に不利なことが起きても誰かの幸せを考える人だから。
だから、私は好きになって好きで好きで。
こんなにも、何年も初恋に縛り付けられている。
早く、忘れたい。──でも忘れたくない。
この矛盾が私を動かしてくれない。怖いから。思い出にすがらなければいけないことなんてないと頭では分かっていても、体が前に進まない。
でも、これがきっかけになるかもしれないことは薄々と気がついていた。
──
「んっ……。今、どこかしら……」
いつの間にか寝ていたようね。私は寝起きの冴えない頭を懸命に動かして、それに気がついて急激に覚めてしまった。
いけない! 寝過ごしちゃったわ!
ちょうどホームに停まった電車から脱け出して、改札へ急ぐ。
私が降りた駅はマンションまでかなり歩かなきゃいけない。急いででちゃったから切符はもうないし、今日は年末だから家でゆっくりしたいというときに限って定期券を家に置き忘れちゃった。
しかも、地下からでてみると外は大雨。大荒れの天気だったわ。
あぁ、もうなんて日なの!
とスキンヘッドの芸能人が叫んできそうだけど私は急ぎ足でどこかコンビニに寄ることにしたわ。
大粒の雨が服を濡らそうとも私は厚手のコートとマフラーを盾にして前に進む。
白いコートがねずみ色のしみを作ろうとも構わない。
ようやく、店内にはいり、私はやっとの思いで少し休憩した。
こんな、全力で走ったのは何年ぶりかしら。
「……いらっしゃいませー……」
気の弱そうな男性店員の声を聞きながら私は傘を探す。
そして、ぎりぎり足りたお金をレジにだそうとしたところで、彼と目があった。
「「あっ……」」
重なるふたつの声。
運命のいたずらとはこんなことをきっと言うのね。
私と二回目の再会した彼──橙太は以前のような小汚ない身だしなみではなく、コンビニの制服を身にまとっていた。
その大学から推薦で行けるという大学院は私が今いる地域からかなり離れたところだった。
「まぁ、神谷君は社会性もあって勉強も出来る。君をこのまま社会にだしてもいいが、私はその行為は粗磨きしたダイヤの原石をショーケースにだすものだと思っている。そんなの見るだけで綺麗で価値もあるがここから研磨すれば、更に価値があがる……だろう? まぁ、引っ越しやその他の準備もあるし、考える時間はあげるから、前向きに検討してみてくれ」
そのとき私は分かりましたと言って駅にかけこんだけど、心のなかでは迷っていた。
推薦でいけるのはとても喜ばしい。だけど、私はここから離れなければいけない。
こんなとき、彼──橙太ならどうするのか。
まだ、彼の隣にいれたならどんなアドバイスをくれたのか。
分からない。もう、聞くことは出来ない。
電車に揺られながら、私は考える。
もし、彼がどんな関係でいても、やっぱりいった方がいいと言うだろうと。
そういう人だから。自分に不利なことが起きても誰かの幸せを考える人だから。
だから、私は好きになって好きで好きで。
こんなにも、何年も初恋に縛り付けられている。
早く、忘れたい。──でも忘れたくない。
この矛盾が私を動かしてくれない。怖いから。思い出にすがらなければいけないことなんてないと頭では分かっていても、体が前に進まない。
でも、これがきっかけになるかもしれないことは薄々と気がついていた。
──
「んっ……。今、どこかしら……」
いつの間にか寝ていたようね。私は寝起きの冴えない頭を懸命に動かして、それに気がついて急激に覚めてしまった。
いけない! 寝過ごしちゃったわ!
ちょうどホームに停まった電車から脱け出して、改札へ急ぐ。
私が降りた駅はマンションまでかなり歩かなきゃいけない。急いででちゃったから切符はもうないし、今日は年末だから家でゆっくりしたいというときに限って定期券を家に置き忘れちゃった。
しかも、地下からでてみると外は大雨。大荒れの天気だったわ。
あぁ、もうなんて日なの!
とスキンヘッドの芸能人が叫んできそうだけど私は急ぎ足でどこかコンビニに寄ることにしたわ。
大粒の雨が服を濡らそうとも私は厚手のコートとマフラーを盾にして前に進む。
白いコートがねずみ色のしみを作ろうとも構わない。
ようやく、店内にはいり、私はやっとの思いで少し休憩した。
こんな、全力で走ったのは何年ぶりかしら。
「……いらっしゃいませー……」
気の弱そうな男性店員の声を聞きながら私は傘を探す。
そして、ぎりぎり足りたお金をレジにだそうとしたところで、彼と目があった。
「「あっ……」」
重なるふたつの声。
運命のいたずらとはこんなことをきっと言うのね。
私と二回目の再会した彼──橙太は以前のような小汚ない身だしなみではなく、コンビニの制服を身にまとっていた。
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