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第7章 光ある文化祭 ─優しさと後悔の罪─

102・5時間目 未来は「今」の連続

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 どこかに行ってしまったボーイッシュなクラスメイトを待っている間、僕らは、チューニングをすることになった。

 と言っても、弦楽器組の僕と学年一位の友人は、本当に音を合わせて、ズレがないか確認するだけの作業だったので、時間がかかるということはなかった。

 一方で、ボーイッシュなクラスメイトとこそこそ話していた友人は、ドラム担当なので、シンバルの微妙な距離の調整や、バスドラの叩きやすさを調整に少しこだわっていた。

 今回のライブでは、僕は中二の頃から愛用しているアコースティックギターと学校で借りたエレキギターを使用する。

 二曲を弾くのだが、最初の曲でエレキを使う。

 僕は、エレキのエフェクトをかけた音は慣れていなかっため、入念に練習し、その音を耳に馴染ませた。

「……大丈夫かな」

 僕はボーイッシュのクラスメイトを少し心配する。

 あともう少しで僕らの出番だと言うのに帰ってくるのが遅い。

 友人と何を話していたのかが少し気がかりだが、そんな興味はどこかへ行くほど、僕は心配をしていた。

 こんなにも心配をするのは、もちろん、その子になにかがあったのではないかという思いもあるのだが、失敗したくない、という気持ちが渦巻くのは失礼なのだろうか。

 人前で弾くのは二回目。

 だけど、こうして、バンド活動としては初めて。

 過去は今の積み重ねで出来ている。僕は失敗を繰り返してきたから、これ以上、傷をつけないために、広げないために、高校では「完璧」であることに気をつかってきた。

 誰かの役に立ち、困っていたなら手を差し伸べ、誰かが自分と同じ傷を負わないようにと、傷ついた青春を味わうことのないようにと。

 ここまで、そんな想いで生きてきた。

 僕には、青春なんてもう、ない。

 青春は中学校で味わった。傷ついて、痛くて、脆い日常を。

 だけど、高校に入って、毎日が楽しいと思えているのは、これが、青春ということなのだろうか。

 わからない。僕には、解らないんだ。

 学年一位の友人が、リア充であることが。いつも一緒に下校している友人が、密かにモテまくりであることが。

 非リアな僕には、分からない。

「──ハァ……! ごめん!」

「うわっ!」

 思考の渦に呑まれかけていた自分を引き上げてくれたのは、ほとんど接点のない、ただのクラスメイト。

 首に触れているひんやりとした感触に僕は思わず、声をあげた。

 慌てて振り返ると、ニヤニヤしている友人と、フンと鼻で笑っているであろう学年一位の友人と、したり顔でカッコよくペットボトルを持っているボーイッシュなクラスメイトがいた。

「……えっと……」

 僕は理解が追い付かず、ポカンとしていると、ムスッとした顔になったクラスメイトは、

「あんまり、思い詰めちゃだめ」

 そう腕くみをしながら、言ってくれた。

 女子は、嫌いだった。

 一世一代、覚悟を決めた恋をびりびりに破られ、自身に最低ストーカーというレッテルを貼られたから。

 だけど、中学生活最後に、オクさんや色々な女友達と遊んだからか、それとも、僕が心のなかで無意識にあの子の想いを忘れたからか、分からない。

「過去があって、今がある」

 ボーイッシュのクラスメイトは、僕の心中を見通しているかのように言う。

「未来を変えられるのは、『今』を全力であがいた人だけだよ」

 傷ついた心が、傷跡が、言葉という治癒力で、少しずつ、塞がっていった気がした。
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