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第7章 光ある文化祭 ─優しさと後悔の罪─

100・5時間目 友人と従妹

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「敦志、遅いね」

 僕、山内やまうち裕太は、友人の三石みいしのその呟きにそうだねと答えたあと、教室の窓を見た。

 もちろん、そこには誰もおらず、シンとした空気が廊下にはある。

 チラホラと同じ階の教室から笑い声や、この教室も話し声が聞こえるけど、それでも外に比べれば、静かな空気が流れているのは間違いない。

「もうそろそろ帰ってきてもいい頃なんだけどなー」

 三石の独り言に頷きながら、僕はある考えがあった。

 学校全体を巻き込んでいるお祭りだ。大半の生徒が少なからず、楽しみに決まっている。僕ももちろん、楽しみだけど、告知をされ、今年はどんなものかと来場する森山さんや敦志の従妹の女の子はもっと楽しみだろう。それで振り回されている可能性は充分にある。もちろん、それで楽しんでほしい。

「まぁ、そろそろ帰ってくるんじゃないかな? 三石はどっかいかないの?」

「んー、悩んでいるんだよな。楽しみすぎて夜しか寝れてない……」

 夜しか寝れてないならいいじゃないかとツッコミをいれる。

 教室に残っていた数人の女子がキャアとなぜか黄色い歓声をあげた。

 ちょっと、なんで今あげるのかは分からないけど、まぁいいや。

「そういえばさ」

 三石がそう切り出すと、どうしたと僕は彼に聞く。

「ご飯食べたら演劇だよね?」

 そう言われ、そうだよと答えた。

 一時から僕らの演劇が始まるので、少し早めに食べなければいけない。

 まだまだ時間はあるけど、ここでこうして話しているわけにも行かないので、僕はあることを思いだし、それを言うことにした。敦志たちとは後で合流すればいい。

「ねぇ、三石、あと少しで敦志の後輩の──」

 鷹乃君のライブがあるんだけど、そう言おうとした僕は教室の扉が開いたのと同時にその言葉を引っ込めた。

「わりぃ、遅くなった」

「こんにちは。久しぶりだね」

 そこには、敦志が居たからだ。その隣には森山さんもいて、なんだか結婚前の挨拶のような雰囲気がある。

「おかえり。あっ、森山さんにえーと、敦志の従妹だ!」

「南、坂井さかい南な。えーと、小春は知ってるだろうけど、南、こいつらは俺の親友たちだ。あの白髪のイケメンが山内裕太で、可愛らしい女子みたいなやつが三石遼太郎りょうたろうだ」

 敦志は従妹の女の子──南ちゃんにそう言った。こうしてみると、敦志はかなり兄の風格がある。敦志は見た目で誤解はされやすいが、何だかんだで中身はいい。そして優しいから森山さんのような彼女が出来るのだろう。

「よろしく! 南ちゃん!」

「よろしくね」

 僕らが挨拶をすると、彼女は子供らしい八重歯を見せ、眼鏡をキラリと輝かせると、

「こちらこそ! よろしくやで!」

 と特徴的な関西弁でそう言った。

 顔をよく見てみると、敦志と髪質は似ているし、顔もあどけなさがあるから敦志似とはいかないが、彼の幼少期は南ちゃんのような感じなのだろう。

 少なくとも、雰囲気はあるような気がする。

 ニシシとよく笑う敦志の従妹。

 話には聞いていたが、仲良くできそうだ。
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