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第7章 光ある文化祭 ─優しさと後悔の罪─

95・8時間目 手に入れる物は

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 時間というものは、素晴らしいと思う。

 時間があれば、なんでも出来るし、それを思い出に刻むことが出来るから。

 時間とは、青春の一ページ。

 それを知ったのは、つい先程まで行われていた高橋先輩たちがもよおしたテストお疲れパーティーに参加したからだ。

 帰り道、日が暮れるのが早くなり、空があかね色に染まった頃、今までの自分がどんなに幼かったかを知った。

 僕は、日々、時間が早く過ぎ去ってくれないかと願っていた。

 もしくは、時間が巻き戻され、中学の始めから三年分の記憶を維持したまま、やり直すことが出来れば、とそのどちらかを願っていた。

 中学の頃、悲しい記憶が多いものの、楽しい記憶があったのは、間違いない。

 しかし、それらは力の強い方に引っ張られる。

 楽しかったはずの思い出は楽しさは激減し、悲しさは、濃く、色づき、心に痛みや後悔をもたらす。

 そして、いつの間にか、ひねくれていた。

 ──どうせ、青春なんて無機物で一過性のものでしかないんだと。

 それなら、無理に青春を楽しまなくていい。

 時間の流れと共にその欠片を流し去ってほしい、そう思っていた。

 しかし、高校生という無条件に与えられた青春を楽しんでいる人たちを見ていると、いつもなら、「あとに残るものがなくて無駄な時間を過ごしている人たちだ」と思うはずなのに、それが高橋先輩たちだったからだろうか。

 心底、羨ましかった。

 高橋先輩も、三石先輩も、山内先輩も、何かしらの青春の罪を持っていた。

 大切な人を助けることが出来なかった後悔や、嫉妬や羨望から目を背けることが出来ずにばか正直に真正面からぶつかり、自分が砕けてしまった痛みや、自身の優しさがゆえに誤解を招いてしまい、自身も大切だった人も傷つけてしまった悲しさも。

 そして、僕のような自信過剰で慢心まんしんだったがゆえにそれを目の敵にされ、誰も理解してくれないとわめき散らし、煽られた果てに怒りに飲み込まれたことや、恋という感情を知らなかったことが、世界を敵に回しても守りたかった笑顔が消えたことも、ぜんぶぜんぶ、罪の重さは違えど、似たような想いを持っていたんじゃないか。

 その当時の自分が、こうするしかなかったと、思った結果が、後悔として残ったんじゃないか。

 それをテストの疲れからか、彼らは教えてくれた。

 そして、傷ついていた自分に恥じた。

 誰だって、消したい過去があると、分かっていても、結局はこんなに重い罪を犯したのは自分だけだと、僕はずっと、その罪を背負って生きていくと誓った。

 でも、こんなにも、人は脆かったのだろうかと思う。

 時間があれば、青春をやり直せるんじゃないかとそんな都合のいい話が頭に浮かんだが、そんなことはないとかぶりを振った。

 青春は、もう、僕は消え去ったのだから。

 そう思っても、心が求めてしまう。

 気がついていたのかも知れない。

 それでも、僕が得たものは必ず、これからの人生に役に立つのだと。

 手にいれた物は、楽しさ。

 手にいれたい物は、『普通』の青春。

 僕は、もう一度、青春を楽しみたいんだ。

 だけど、もう、恋はしない──。
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