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第6章 二人の愛と少年の嘆き

76時間目 ひとりの日常

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俺は夢を見た。
それは、中学の卒業式あんずに告白した時のことだ。
「俺、花園はなぞのさんの事が好きです。だから、付き合ってください」
この時の俺は杏のことを花園と呼んでいた。
なんとなく、名前呼びは恥ずかしかったんだ。
本当に中学の頃は愛も恋もなにも知らなかったくせに、クッソ気取っていた。
まじでこの時の自分を思い出しただけで顔が赤くなる。
しゃれにならない。
まぁ、そんな思いでは置いておいて、なんで思い出したのかは、きっと、俺が昨夜、杏に想いと欲をぶつけたからだろう。
久しぶりに長く続いた夜だった。
童貞じゃねぇのに、なんであんなに興奮していたんだろう。
「はぁ……」
俺は、そんな事を思っていると、完全に目が覚めた。
詳しい時間は知らんが、まだ外は薄暗い。
なんだよ、俺。こんな時間に起きてじいさんかよ。
床に落ちていた赤色のTシャツを拾って、それを着る。
やっぱり、もうすぐ夏とはいえ、寝る前にシャツ着なきゃだめだわ。
ベットから抜け出す。
ギシリとスプリングの音が部屋に響いて、なんか、虚しい。
「んんっ……。ムニャムニャ……、えへへ……、かきごおり、すいーつぱらだいす、かえでー、いこー……」
杏が古典的な寝言を言うから、笑いをこらえるのに必死だ。
「おう、どこでも連れて行ってやるよ」
寝言に返事して、俺は杏の頭を撫でる。
真っ白な綿みたいな肩が見えて、ちょっと反応に困った。
風邪をひかないように布団を取り出して、かけてから、俺はそっと寝室から離れた。
洗面所に向かって、顔を洗う。
うわー、寝癖ひでぇ。
鏡の中にいる自分を見ると、ぴょんぴょんと髪が跳ねている。
水で濡らしてから、整える。
そうして、いつも通りの髪が出来上がる。
窓の隙間から差す、朝日の光が髪に反射して、ところどころにある茶髪が、キラリと金色に光る。
ちなみに、MISHIHANAみしはなの開店時間は、朝の8時から。
洗面所にある時計をさっき見たら、まだ4時だったから、これからどうしよう。
ちょっと早いけど、開店準備しておくか。
普段は、6時に起きて、俺は開店準備を始めるのだけど、もう早く起きてしまったものは仕方がないので、今から始めることにした。
ここのコーヒーは、インスタントと挽いたコーヒーを会わせたブレンドだ。
お湯を沸かし、カップに入れておいたインスタントコーヒーに入れてから、混ぜると完成。
挽くのも、最後は同じ。
でも、俺は挽いている時のコーヒーの香りが好きだからそれを少し嗅ぐ。
うん、いい匂い。
そして、お湯を注いで、混ぜる。
出来た二種類のコーヒーを半分ずつポットに入れて、MISHIHANA特製コーヒーは完成。
実は、毎日作っていて、日によって微妙に味が変わっている。
これが、密かに(基本は杏が起きているけど)楽しみだったりする。
コーヒーを作り終えた俺は、また手持ちぶさたになった。
俺は、カウンター席に座って、スマホを見る。
そこには、杏の誕生日が5日前だと言うことを知らせる通知が来ていた。
そっか。
もうすぐ、杏の誕生日か。
別に忘れていたわけじゃない。
お互い一緒にいるのが当たり前になってきて、凝ったプレゼントを渡さなくなった。
付き合いはじめた当初は、誕生日プレゼントなんて必死でどれが似合うか探し回っていたのにな。
それが遠い昔に感じるのは、関係がかなり冷めてきている証拠なのかもしれない。
最近、よく結婚という言葉が頭をよぎる。
このままでいいのだろうか。
杏は口にださないだけで、そろそろ結婚したいのではないのだろうか。
俺には、一番身近な人の本音が分からない。

──

そうして、6時頃。
「楓、おはよう」
杏があくびをしながら、降りてきた。
「おはよう」
俺は、スマホから顔をあげて、彼女に微笑む。
スマホの画面には、プロポーズの相談サイトが載っていた。
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