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第4章 1年の締めくくりと次のステップ ~青い1日と温かな雪~
58時間目 ハジメテのバレンタインデー
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バレンタインの夕時、私と小春ちゃんと舞花ちゃんは黒沢家のキッチンでクッキーを作っていた。
「でね、でね、その時の敦志君は本当にかっこよかったの! 運命って本当に存在するんだって思ったよ~!」
運命……ねぇ。
本当にあるのかしら。
小春ちゃんが、フグのように頬を膨らませて少し怒ったようにこちらをみていた。
普通に可愛い。
口にでていたらしい。
あらら……。
「ありますっ! 偶然も2度目には運命って誰かが言ってましたから!」
「はぁ……。若いっていいわねぇ。やっぱり10代の頃が一番楽しいって誰かが言ってたのは本当なのかしら……」
「神谷さんが10歳くらい老けた?!」
「あら? 舞花ちゃん、失礼ね。ところで、そのクッキーの型ってみんな人型だけれど、誰の形のクッキー作るのかしら。睡蓮君?」
舞花ちゃんは、一瞬、眉をピクリと潜めて、首を横に振った。
これは、脈があるわね。
追撃しましょう。
「でも、最近良く睡蓮君の事、良く見てるのはなぜかしら?」
舞花ちゃんは、耐えれなくなったのかプルプルと肩を震わせて、
「わ、悪いですかっ!? それよりも、神谷さんも手伝ってくださいよ! 電子レンジ余熱で温めていてくださいよっ!」
「はーいはい。ごめんなさいね」
舞花ちゃん、恥じらいの表情を見せて可愛いわね。
やはり、人は救ってもらった人物に好意を抱くのかしら。
私は、ケラケラと笑いながら、電子レンジの余熱機能で温める。
舞花ちゃんと小春ちゃんは生地をこねている。
このふたり、本当に似た者同士だわ……。
「小春ちゃん、ちょっとバター多くない?」
「うーん、どうだろう? 前にクッキー作った時はこれくらい入れていた気がするんだけど。少なすぎると味が薄くなっちゃうからこれくらいでいいかな?」
「アイシングするから、入れすぎちゃうと甘ったるくなっちゃうから、それくらいでいいと思うよ。楽しみ……」
「分かる分かる! 楽しみだねっ」
いいわねぇ。
余熱が終了した事を知らせる電子音が鳴った。
「ふたりとも、そろそろ型入れしてくれるかしらー? ここにお皿置いとくわね」
「あ、とりあえずストックがあるのでまず、これをやってもらっていいですか?」
舞花ちゃんが丁寧に星型に切り取られた生地を耐熱性がある大皿に並べる。
それを電子レンジに持っていく時、少しイタズラ心が働いた。
「ふたりとも、本命のクッキーは作らないのかしら?」
「なっ、ちがっ、だから、日頃の感謝ですって!」
「ほっ、本命!? こ、これはあれでふよ! そ、その、こういうの、はじめてだから、これからよろしくお願いしますっていう挨拶みたいな、感じでしゅ!」
小春ちゃん、噛んだわね。
「あらあら~? まぁ、いいわ。それじゃあ、焼くわね」
「神谷さんは、いじわるですっ!」
「そうですよっ! それにしても……ん? 神谷さん、そのチョコレートなんですか?」
あっ、ヤバイ。
隠すの忘れてた。
このチョコレートは、クッキーに混ぜてチョコチップクッキーを作る予定だった。
もちろん、自分土産。
あげる相手も居ないし、1日くらい自分にご褒美をあげてもいいよね。
チョコチップクッキーを片手に温かいカフェオレを飲みながら、読書。
う~~~ん! 想像しただけでも心が暖かくなってくるわ。
「神谷さん、チョコレート使います! 小春ちゃん、なに作る?」
「敦志君にあげるのとは別で皆に渡す用にチョコチップクッキーを作るのはどうかな?」
「いいねっ! 睡蓮君、甘いもの好きだから喜びそう!」
私のチョコチップクッキーがああぁぁぁぁ!
_______
……なにこれ。
拷問かよ。
放課後の教室、Mサイズの紙袋からはみ出すほどのチョコを現在進行形でもらっている裕太を横目に、俺は机に突っ伏していた。
……今年も同級生からはゼロなのか。
「ありがとうっ! いやぁ、お返しが大変だ。敦志はもらっ……。三石ー! おー……!」
裕太、ありがとう。
俺はたぶん、今日はお前に口を聞かないと思うから。
「敦志ー! そろそろかえっ……。山内! 一緒に帰ろうぜー!」
「いや、頼むから俺も連れていってくれ頼む頼む頼むから」
ガバリと顔を俺はあげて叫ぶように言った。
いや、気遣いは嬉しいよ?
でも、ここでお前ら帰ったら俺ただの机に突っ伏している変質者だからね?
「と、とりあえず、帰ろうか。あ、今日は黒沢さんに用事があるんじゃないの?」
「そうだった。すっかり忘れてた。裕太、急ぐぞっ!」
俺達は高校を飛び出して、黒沢家に向かう。
しかし、
「あのっ……。これっ、どうぞっ!」
「ありがとうっ。その、お返しは……」
「さようならー!」
「あっ、ちょっ、ちょっとー!」
他校の女子に声をかけられ、チョコを貰う裕太。
……なんにも言えねぇ。
「ありがとうね~。……ごめんって。杏」
「あら? ホワイトデーは期待しているわ」
反対側の歩道には三島さんと花園さんが居た。
三島さん、やっぱりモテるじゃねぇか。
「おう、敦志ィ。おせェよ。とりあえず、モテすぎるアイツをどうにかしてくれ……。俺、もうバレンタインの日はコイツと絶対出掛けねェ」
そういう黒沢センパイは、げんなりとした表情で白膠さんを睨んでいた。
「はっ? そ、そんなの知らないじゃん。モテるものはモテるんだからしょうがないじゃん。睡蓮はもうバレンタインゼロじゃないんだからいいだろ?」
「くっそ、コイツ……。マジで殴ってやろうか」
「それにしても、白膠さんって、モテるんすね。それにしても、この部屋中に広がる甘い匂いは、まさかっ……!」
クッキーだろうか。
チョコレートの甘いとともにこうばしい匂いもする。
「あぁ、そのまさかだ」
黒沢センパイは、キッチンの方を振り向くと、
「おっまったせー!」
そこには、クッキーを持った神谷さん、森山、女郎がいた。
「おぉ! すっげー!」
アイシングして俺達を模したクッキーに目を奪われる。
それを持っているのは森山。
彼女は、俺に近寄り、
「そのぅ……。敦志君」
森山の顔が赤い。
いまから言うことはきっと。
「まず、私と付き合ってくれてありがとう」
更に森山の顔が赤くなる。
俺はさっきから、頭が熱い。
「それで、その……。私は、ずっと敦志君の事が好きです。これからもよろしくお願いします」
その言葉に自然とある言葉がでた。
「小春、ありがとう」
「ふぇっ……?!」
俺は付き合ってからも今まで名前で呼んだことが1度も無かった。
「敦志君、名前で呼んでくれてありがとう」
それは、俺がまだ小春を友達……いや、前の彼女に言わせれば親友か。親友として見ていたからかもしれない。
だけど、もう、今、自覚した。
俺達は恋人なんだ。
キスしてもいい。
身体を抱きしめてもいい。
お互いが特別で一生の思い出になる存在なんだ。
「俺も大好きだ」
その言葉を言うのに、恥ずかしさもなく、自然と口からでた。
「えっへへ……。私も、大好きだよ」
俺の生涯で一番の幸せが出来た。
「でね、でね、その時の敦志君は本当にかっこよかったの! 運命って本当に存在するんだって思ったよ~!」
運命……ねぇ。
本当にあるのかしら。
小春ちゃんが、フグのように頬を膨らませて少し怒ったようにこちらをみていた。
普通に可愛い。
口にでていたらしい。
あらら……。
「ありますっ! 偶然も2度目には運命って誰かが言ってましたから!」
「はぁ……。若いっていいわねぇ。やっぱり10代の頃が一番楽しいって誰かが言ってたのは本当なのかしら……」
「神谷さんが10歳くらい老けた?!」
「あら? 舞花ちゃん、失礼ね。ところで、そのクッキーの型ってみんな人型だけれど、誰の形のクッキー作るのかしら。睡蓮君?」
舞花ちゃんは、一瞬、眉をピクリと潜めて、首を横に振った。
これは、脈があるわね。
追撃しましょう。
「でも、最近良く睡蓮君の事、良く見てるのはなぜかしら?」
舞花ちゃんは、耐えれなくなったのかプルプルと肩を震わせて、
「わ、悪いですかっ!? それよりも、神谷さんも手伝ってくださいよ! 電子レンジ余熱で温めていてくださいよっ!」
「はーいはい。ごめんなさいね」
舞花ちゃん、恥じらいの表情を見せて可愛いわね。
やはり、人は救ってもらった人物に好意を抱くのかしら。
私は、ケラケラと笑いながら、電子レンジの余熱機能で温める。
舞花ちゃんと小春ちゃんは生地をこねている。
このふたり、本当に似た者同士だわ……。
「小春ちゃん、ちょっとバター多くない?」
「うーん、どうだろう? 前にクッキー作った時はこれくらい入れていた気がするんだけど。少なすぎると味が薄くなっちゃうからこれくらいでいいかな?」
「アイシングするから、入れすぎちゃうと甘ったるくなっちゃうから、それくらいでいいと思うよ。楽しみ……」
「分かる分かる! 楽しみだねっ」
いいわねぇ。
余熱が終了した事を知らせる電子音が鳴った。
「ふたりとも、そろそろ型入れしてくれるかしらー? ここにお皿置いとくわね」
「あ、とりあえずストックがあるのでまず、これをやってもらっていいですか?」
舞花ちゃんが丁寧に星型に切り取られた生地を耐熱性がある大皿に並べる。
それを電子レンジに持っていく時、少しイタズラ心が働いた。
「ふたりとも、本命のクッキーは作らないのかしら?」
「なっ、ちがっ、だから、日頃の感謝ですって!」
「ほっ、本命!? こ、これはあれでふよ! そ、その、こういうの、はじめてだから、これからよろしくお願いしますっていう挨拶みたいな、感じでしゅ!」
小春ちゃん、噛んだわね。
「あらあら~? まぁ、いいわ。それじゃあ、焼くわね」
「神谷さんは、いじわるですっ!」
「そうですよっ! それにしても……ん? 神谷さん、そのチョコレートなんですか?」
あっ、ヤバイ。
隠すの忘れてた。
このチョコレートは、クッキーに混ぜてチョコチップクッキーを作る予定だった。
もちろん、自分土産。
あげる相手も居ないし、1日くらい自分にご褒美をあげてもいいよね。
チョコチップクッキーを片手に温かいカフェオレを飲みながら、読書。
う~~~ん! 想像しただけでも心が暖かくなってくるわ。
「神谷さん、チョコレート使います! 小春ちゃん、なに作る?」
「敦志君にあげるのとは別で皆に渡す用にチョコチップクッキーを作るのはどうかな?」
「いいねっ! 睡蓮君、甘いもの好きだから喜びそう!」
私のチョコチップクッキーがああぁぁぁぁ!
_______
……なにこれ。
拷問かよ。
放課後の教室、Mサイズの紙袋からはみ出すほどのチョコを現在進行形でもらっている裕太を横目に、俺は机に突っ伏していた。
……今年も同級生からはゼロなのか。
「ありがとうっ! いやぁ、お返しが大変だ。敦志はもらっ……。三石ー! おー……!」
裕太、ありがとう。
俺はたぶん、今日はお前に口を聞かないと思うから。
「敦志ー! そろそろかえっ……。山内! 一緒に帰ろうぜー!」
「いや、頼むから俺も連れていってくれ頼む頼む頼むから」
ガバリと顔を俺はあげて叫ぶように言った。
いや、気遣いは嬉しいよ?
でも、ここでお前ら帰ったら俺ただの机に突っ伏している変質者だからね?
「と、とりあえず、帰ろうか。あ、今日は黒沢さんに用事があるんじゃないの?」
「そうだった。すっかり忘れてた。裕太、急ぐぞっ!」
俺達は高校を飛び出して、黒沢家に向かう。
しかし、
「あのっ……。これっ、どうぞっ!」
「ありがとうっ。その、お返しは……」
「さようならー!」
「あっ、ちょっ、ちょっとー!」
他校の女子に声をかけられ、チョコを貰う裕太。
……なんにも言えねぇ。
「ありがとうね~。……ごめんって。杏」
「あら? ホワイトデーは期待しているわ」
反対側の歩道には三島さんと花園さんが居た。
三島さん、やっぱりモテるじゃねぇか。
「おう、敦志ィ。おせェよ。とりあえず、モテすぎるアイツをどうにかしてくれ……。俺、もうバレンタインの日はコイツと絶対出掛けねェ」
そういう黒沢センパイは、げんなりとした表情で白膠さんを睨んでいた。
「はっ? そ、そんなの知らないじゃん。モテるものはモテるんだからしょうがないじゃん。睡蓮はもうバレンタインゼロじゃないんだからいいだろ?」
「くっそ、コイツ……。マジで殴ってやろうか」
「それにしても、白膠さんって、モテるんすね。それにしても、この部屋中に広がる甘い匂いは、まさかっ……!」
クッキーだろうか。
チョコレートの甘いとともにこうばしい匂いもする。
「あぁ、そのまさかだ」
黒沢センパイは、キッチンの方を振り向くと、
「おっまったせー!」
そこには、クッキーを持った神谷さん、森山、女郎がいた。
「おぉ! すっげー!」
アイシングして俺達を模したクッキーに目を奪われる。
それを持っているのは森山。
彼女は、俺に近寄り、
「そのぅ……。敦志君」
森山の顔が赤い。
いまから言うことはきっと。
「まず、私と付き合ってくれてありがとう」
更に森山の顔が赤くなる。
俺はさっきから、頭が熱い。
「それで、その……。私は、ずっと敦志君の事が好きです。これからもよろしくお願いします」
その言葉に自然とある言葉がでた。
「小春、ありがとう」
「ふぇっ……?!」
俺は付き合ってからも今まで名前で呼んだことが1度も無かった。
「敦志君、名前で呼んでくれてありがとう」
それは、俺がまだ小春を友達……いや、前の彼女に言わせれば親友か。親友として見ていたからかもしれない。
だけど、もう、今、自覚した。
俺達は恋人なんだ。
キスしてもいい。
身体を抱きしめてもいい。
お互いが特別で一生の思い出になる存在なんだ。
「俺も大好きだ」
その言葉を言うのに、恥ずかしさもなく、自然と口からでた。
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