上 下
83 / 244
第3章 選択の文化祭とすれ違う思惑 ~友のために、自分のために~

44・5時間目 信念

しおりを挟む
「いっっってぇぇぇぇ!!」
「あ、敦志?! な、なんで? って、その腕!」
僕は、突然現れた敦志に戸惑っていた。
だけど、敦志が押さえている左腕を見て、彼が身を徹して僕を守ってくれた事に気付く。
制服の二の腕部分が切られ、そこから血が流れていた。
敦志の手にベトリと血が付いている。
「敦志! 大丈夫?!」
「いてぇけど大丈夫だ。それよりっ!」
敦志はカナの方を見る。
なにやら、カナはブツブツとなにか呟いていた。
こちらからは聞こえない。
「ちょっ、と、とりあえず止血して! こ、これっ!」
そう言って、僕は、カナから昔貰って大切に使っていた白いハンカチを敦志に渡した。
敦志は、ハンカチを受けとると、傷口を押さえて止血をしようとしていた。
ひとまず、敦志は安全だということに気付く。
だけど、僕は、再び膨れ上がってくる強大な怒りに理性を奪われようとしていた。


落ち着け、落ち着け、落ち着け。


必死に、怒りを抑えようとするも、かなり限界が来ていた。
本当に、ふざけるな。
親友も、彼女も、僕自身も傷つけやがって。
「な、ん、で」
カナが、目を見開き、驚いた顔をしていた。
「高橋が、裕太君を」
「守ったの?」
悪寒が走った。
ゾクゾクゾクとオノマトペが聴こえるほど。
「は?」
少し、冷静になった。
いや、もう、これが怒りは一周すると呆れに変わるという事かもしれない。
なにを言ってるんだ?
本当に僕は分からない。

幼馴染みがクソ野郎で困っています。モテまくりの僕には彼女の気持ちが分からない。

「なんでなんでなんでなんで」
カナは、頭を抱え、ブツブツと呟いている。
敦志はポカンと見ているだけだ。
「おかしいよ。本当に普通なら友達より好きな人優先するでしょおかしいよ。おかしい、おかしい」
宮浦加奈という人間は、本当に可哀想な人間だ。
幼い頃から親からの愛情なんてものは知らず、恋人よりも近すぎた僕を自身の家族のように思い、自由を奪ったり。
そして、それが嫌がっている事に気付かずに、元の関係に戻そうとする。
例え戻れないと思っていても、戻そうとする。
本当に、最低だ。

怒りが、恐怖を支配する。
怒りは、感情を支配する。
怒りは、山内裕太という人間を、悪魔にする。
何があっても、相手に怒ることはなかった。
いつも、平和的に解決しようとした。
多少無茶なお願いも笑顔で応じた。

だけど、今回は、もう、我慢できなかった。

僕には信念がある。
【ありのままの自分で活きる】という信念が。
カナ、宮浦加奈は、それを壊す。
敦志、高橋敦志は、それを認める。
僕が僕であることを否定しない。

「カナ、話がある」
僕は今、どんな顔をしているのだろうか。
分からない。
だけども、凄く怖い顔をしていると思う。
背後から、敦志がビクリと肩を震わせた気配がした。
そして、カナは、何もなかったかのように、片手で果物ナイフを持ちながら、
「なぁに? 裕太君?」
と、不気味すぎる笑みを浮かべた。
もう、それに怯まない。
僕は、出来る限り、声色をいつも通りに装って、
「今さら遅いかもしれない。ちゃんと言えなくてごめん」
とあえて、期待させるような事を言った。
しかし、今から言うのは煽り、カナがまた刺そうとしてくるのには、充分納得の出来る言葉だ。
息を大きく吸う。
そして、その吸った息に、すべての怒りをぶつけた。

「もうやめろ! 僕らに関わるな!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アンタッチャブル・ツインズ ~転生したら双子の妹に魔力もってかれた~

歩楽 (ホラ)
青春
とってもギャグな、お笑いな、青春学園物語、 料理があって、ちょびっとの恋愛と、ちょびっとのバトルで、ちょびっとのユリで、 エロ?もあったりで・・・とりあえず、合宿編23話まで読め! そして【お気に入り】登録を、【感想】をお願いします! してくれたら、作者のモチベーションがあがります おねがいします~~~~~~~~~ ___ 科学魔法と呼ばれる魔法が存在する【現代世界】 異世界から転生してきた【双子の兄】と、 兄の魔力を奪い取って生まれた【双子の妹】が、 国立関東天童魔法学園の中等部に通う、 ほのぼの青春学園物語です。 ___ 【時系列】__ 覚醒編(10才誕生日)→入学編(12歳中学入学)→合宿編(中等部2年、5月)→異世界編→きぐるい幼女編 ___ タイトル正式名・ 【アンタッチャブル・ツインズ(その双子、危険につき、触れるな関わるな!)】 元名(なろう投稿時)・ 【転生したら双子の妹に魔力もってかれた】

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・

白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。 その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。 そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。

処理中です...