上 下
79 / 244
第3章 選択の文化祭とすれ違う思惑 ~友のために、自分のために~

43・5時間目 想い出の中の悪魔①

しおりを挟む
宮浦加奈という人間は、気付けばずっと傍に居た。
彼女は、物心ついた時から両親は居なかった。
いつも小学校では独り。
放課後活動という親が仕事で働いている児童が18時まで預かってもらえるのも、母親ではなく、彼女の祖母が、迎えに来ていた。
だから、彼女は小学生低学年では珍しく、いじめられていたというより、存在を無視されていた。
誰も彼女に話しかける人は居なかった。
僕はふと思えばその時からかなりモテていた。
運動はそれなりには出来てはいたし、勉強も出来る方だったと思う。
だけど、唯一、彼女に算数だけは勝てなかった。
ある日、僕と彼女が席替えで隣の席になった。
「よろしくね。宮浦さん」
「よろしく・・・。山内君」
その時の彼女の顔を今でも良く覚えている。
隣の席の僕に少し怯えていた表情をしていたから。
席替えをして1週間後、僕と彼女は勉強を教え合う仲になっていた。
「えっとね、ここの文章問題はー」
彼女はこの時には周りの人に笑顔を見せるようになっていた。
そして、めちゃくちゃ教えるのが上手だった。
僕はそのお返しに国語や英語を教える。
彼女は今でも英語は苦手だと思う。
彼女のおかげで僕は高得点を取れていた気がする。

あるときは、
「あっ、山内君。おはよう、家そっちなんだね」
「おはよう。宮浦さん。そうだよ」
「あ、のさ、もしよければ一緒に行ってほしい、な」
「うん。いいよー」
彼女と初めて学校に行った時の学年が確か小学2年生の時だった。
あの時は純粋に誰かと居たのが楽しかった。

あるときは、
「でねでね、私ね、お婆ちゃんに母の日にクッキー作ってあげようとしたんだけど、いらないって行ってお金くれたんだ。山内君にも今度クッキーあげるね」
興奮気味に母の日に彼女の祖母にクッキーを作った話を聞いたとき、やっぱり女の子だなと思った。
これは、小学3年生の時の会話だ。

僕はあの時、ようやく自分を知ってくれる人を見つけたんだ。
「あのさ、もしかしたら、引くかも知れないけど聞いてほしいな」
「うん。何? 悩みならなんでも言ってね裕太くん」
この時期から加奈は僕の事を『裕太くん』と呼ぶようになった。
「僕ね、お母さんとお父さんが仕事で居なくてさ。一人で寂しいからもしよければこれからも仲良くしてほしいな」
「うんっ。私もお婆ちゃんが入院しているから一人の事が多いんだ。だから仲良くしてねっ」
この時、僕は加奈の事を『カナ』と呼ぶようになった。
彼女に親しみを込めてだったと思う。


あるときは、あるときは、あるときは。


ぶっちゃけ、カナは可愛い。
だけども、僕には恋愛という概念がなかった。
バレンタインチョコは毎年貰っていたし、体育や遠足で班を組むときなんかは彼女がずっといた。
だけど、少しずつ狂っていったのは、僕らが中学校に上がった頃だ。
僕らがいた中学校は、優等生の集まりだった。
通知表の平均は5段階中の「4」が当たり前だった。
部活動は何らかの賞や結果を必ずだしていた。
僕は野球部に所属し、カナは吹奏楽部に入っていた。
何の楽器を吹いていたかは分からないけど。
当たり前と言えば当たり前だが、その頃には僕と彼女が二人で過ごす時間は減っていた。

あるときは。
「なぁ、裕太ー! テスト休みにカラオケ行こーぜ!」
「はぁ? お前赤点ギリギリなんだから勉強しろよ・・・。教えるからさ」
「いいっての! いけるいける」
「ハァ・・・。行くよ」
そこで、カナが僕に歩み寄ってきた。
「あっ、裕太君! 今から遊びにいかない?」
「あー、ごめんよ。コイツとカラオケ行くから。また遊ぼう」
「うん。分かった」
カナは少し悲しそうな顔をしていた気がする。

そして、僕は中学2年生の時、「彼女」という存在が出来た。
紛れもなく、ここからカナが暴走していったと思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アンタッチャブル・ツインズ ~転生したら双子の妹に魔力もってかれた~

歩楽 (ホラ)
青春
とってもギャグな、お笑いな、青春学園物語、 料理があって、ちょびっとの恋愛と、ちょびっとのバトルで、ちょびっとのユリで、 エロ?もあったりで・・・とりあえず、合宿編23話まで読め! そして【お気に入り】登録を、【感想】をお願いします! してくれたら、作者のモチベーションがあがります おねがいします~~~~~~~~~ ___ 科学魔法と呼ばれる魔法が存在する【現代世界】 異世界から転生してきた【双子の兄】と、 兄の魔力を奪い取って生まれた【双子の妹】が、 国立関東天童魔法学園の中等部に通う、 ほのぼの青春学園物語です。 ___ 【時系列】__ 覚醒編(10才誕生日)→入学編(12歳中学入学)→合宿編(中等部2年、5月)→異世界編→きぐるい幼女編 ___ タイトル正式名・ 【アンタッチャブル・ツインズ(その双子、危険につき、触れるな関わるな!)】 元名(なろう投稿時)・ 【転生したら双子の妹に魔力もってかれた】

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...