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第3章 選択の文化祭とすれ違う思惑 ~友のために、自分のために~

38・5時間目 それぞれの思惑

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「おっ、おかえり。 なんか用事か?」
僕が黒沢さんの部屋に帰ってくると、敦志や三石、黒沢さんが練習をしようかと待っていた。
休憩時間に僕に電話がかかってきたのだ。
僕は、にへらとなるべく笑顔を作って、
「あー、ごめん。 ちょっと親から呼ばれてさ。 大事な用事があるから帰るよ。 また、今度皆で練習をしよう」
そういって、ベースを抱えて、でていった。
嘘だ。嘘だ。
僕は、本当は、練習をしたかった。
でも、出来る気分じゃなかった。
「フゥ・・・! ふざけるな。 もう2度と関われないようにしてやる・・・」
僕には、やらなければいけない。
これ以上、被害をださないためにも。
これ以上、友達や大切な人を失わないためにも。
僕は、走った。
家まで走った。
相変わらず、家には、誰も居ない。
「ただいまー・・・」
口癖になっている家への挨拶もシーンとした空気によって、どこか虚しさが込み上げてくる。
僕は、ベッドに横になった。
そして、疲れていたからだろうか、僕は変な夢を見た。
誰も居ない中学校の教室の前に僕は立っていた。
「・・・なんだ。 これは」
もう見ることはないだろうと思っていた教室を前に困惑している。
「・・・誰も居ない・・・」
教室のドアを開けて中を覗いてみるも誰も居ない。
それよりも、驚くことは夢の中でも自我があるということだ。
こんな夢を見たのはいつぶりだろうか。
僕は廊下を適当に歩いていた。
窓からは、カキーンという快音と共に、ボールが一筋の光のように伸びていった。
僕は、ボールとは逆の方向、すなわち、グラウンドに向かう。
誰かがいる。
そして、1階への階段を降りようとした時だった。
「私と付き合ってくださいっ!」
耳に入れたくない嫌なソプラノの高音。
もう2度と、聞きたくなかった声。
今と変わらないセミロングの髪型。
「オイ、もうそうやって男を騙すのは辞めろ。 宮浦加奈!」
僕は、もう彼女に優しい人間じゃない。
見下ろした時の、カナの目は、まるで毒のような色に変わっていた。

          ー

「んー・・・。 やっぱりベースが居るか居ないかってだけでこんなに音が変わるものなんだね・・・。 ま、用事ならしゃーないけど」
「そうだな。 それにしても、なんか山内変じゃなかったか? 目が虚ろだったというか目に光が無かった気がしたんだけどな・・・」
「俺はそんな事無かったよ? 別に普通の見た目だったし・・・。 今日は練習この辺りで終わらせとく?」
「そうだな。 そろそろ帰ってメシ食わねぇと・・・。 黒沢センパイ? どうしたんすか?」
黒沢センパイは、なにやら考え事をしている。
俺には何を考えているかは分からないがあんなに深刻そうな顔で考えている顔を俺は見たことがない。
「ンダ? ンア? アァ・・・。 なんか山内電話が来てから様子が変だなァと思ってよ。 笑っていたけど嘘笑いをしている感じだったから、なんか心配だなァって思ってよ・・・。 お前らァ、心当たりは?」
「なんにもないっす・・・。 おかしな事も無かったっす」
「んー・・・。 最近宮浦さんの事を話したら不機嫌そうな顔をしてるよね?」
「でも、それはあの日コンビニで、あいつらケンカしたからじゃねぇの?」
「そうでもないような気がするんだよな・・・。 だって、あの山内だよ? 大抵の事は笑って許してくれる山内だよ? だとしたら、宮浦さんってそうとうヤバイ人なんじゃ・・・」
「そうか? 別に普通に理不尽な事されたら怒りそうだけどな」
「んー・・・。 ムズいね」
「宮浦・・・。 宮浦か・・・」
黒沢センパイが何やら繰り返しに呟いていた。
何か引っ掛かることがあるようだ。
「黒沢センパイ・・・。 どうました?」
「いやっ・・・。 なんにもねェよ・・・。 ただ呟いてみただけだ。 お前らァ、アイスいるか? それとも大量にあるわたあめか?」
「どっちもいらないっす・・・」
甘いものは後1ヶ月先までいりません。
「じゃ、そろそろ帰ろっか。 敦志」
「だな。 帰えるか」
「「おじゃましましたー」」
俺達は、夕暮れの道を歩いていった。

         ー

「・・・」
胸の痛みが止まらない。
どうしてなの。
どうして受け入れてくれないの。
ずっと泣いている。
なんで彼が受け入れてくれないのか、それは私とアイツとの差があるからに違いない。
そうだそうだそうだそうだ。
「・・・フフッ・・・。 地獄を見せてあげるわ」
私は、彼の写真を見ながら、ニッコリと微笑んで、それから、忘れもしない憎みべき相手を思い浮かべる。
ツンツンへアー、それほどかっこよくもない顔のくせに、彼に近づきやがって。


「高橋敦志・・・。 裕太君に近づいた事に後悔してね・・・」
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