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第2章 夏休みと青春 ~バイト尽くしの常夏!職は違えど楽しさは同じ!~

18・2時間目 クレーマーと高橋

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『ピロリンピロリン♪』
もう何十回も聞いた開閉音と共に今日も紺色のパーカーに、白いTシャツ、黒い長ズボンを着こなしてダルそうにしながら来た黒沢さんに俺は挨拶した。
黒沢さんは眠そうにしている目を擦りながら、俺に挨拶する。
「今日は唐揚げ食べないでくださいよ・・・」
「アホンダラ! 客が店の中に居るだろォ? 私語厳禁だ! 話なら客が居ねェ時にしてやるから」
「・・・さーせんした」
俺は、レジに並んだ客の会計をテキパキと済ませ、客・・中年のオッサンの要望の煙草タバコを取る。
「32番・・・。 っと、これか」
白色のパッケージにしゃれた銀箔押し。
うわっ! この人、酒クセェ。
カウンターから漂う酒の独特の匂いと煙草のなんともいえないにが苦しい匂い。
「合計で856円になります」
俺はクセェというのを我慢する。
お客だからだ。
中年のオッサンはボロボロの財布から小銭をだし、俺が摘めた袋を受けとると、
「兄ちゃん、見ねぇ顔だな。 新入りか?」
ぷうんと臭うアルコールの臭い。
「は、はい。そうですね」
「ガッハッハ! そうか、そうか。 黒沢の部下か!! ガッハッハ! 頑張れよ! 黒沢はこぇぇぞ! じゃあな! 兄ちゃん! 黒沢によろしくな! 軽未亜かるみあが来たって!」
軽未亜と名乗った人はその後もガッハッハと笑いながら、店内を後にした。
シーンと静まり返る店内。
モップを持ち、店内を清掃すると同時にお客さんが居ないかを見る。
バイトが始まって2日目。
昨日分かった事は、このコンビニの名前は「HANDYLIFEヘンディーライフ」という名前のコンビニだ。
後、分かっている従業員は黒沢さんと俺、深夜のバイトの子2人だけということ。
店長は過労で入院しているらしい。
だから、今は黒沢さんが店長のような役割をしている。
ちなみに黒沢さんは幼い時に両親を無くし、1度孤児院に引き取られたらしい。
そして、そこで出会ったのが、昨日三石がバイトを始めたカフェの店員・白咲さん、ショクビさんという三石みたいに可愛らしい人で古本屋でバイトをしている人と、黒沢さんたちの2つ上のシラカワさんという警察官をやっている人なんだとか。
彼らはすぐに仲良くなり、お互いの得意分野を駆使して孤児院で生きていたんだって。
そして、15才になって独立して、黒沢さんの祖母が住んでいた家、現在黒沢さんたちが住んでいる家に定住したらしい。
彼らは学校には行かずに、バイトで生活を繋ぎ、必死に生きている。
俺達には考えられない生活だ。
これを教えられた昨日の帰り道。
バイトのルールをいくつか教えてもらい、そして、この過去を教えてくれた。
俺は世の中に本当に苦労している人が居たのかと驚いたが黒沢さんや白咲さんはそんな素振りを一切見せていない。
白咲さんは笑顔が溢れているし、黒沢さんは結構失礼だけどいつも眠そうにしているけど、大事な時はちゃんと働く人だ。
そんなわけで始まったコンビニバイトは、穏やかで楽しいスタートをきった。
黒沢さんは、凄い人だ。
『ピロリンピロリン♪』
と、開閉音と共にお客さんがやって来た。
40代くらいの眼鏡をかけたおばさんだ。
凄い剣幕で、ビニール袋に入った3本のコーラを持ってレジに寄ってきた。
「ちょっと! 昨日買ったこのコーラ! 全然炭酸が無かったんだけど! しかも全部よ! これ返品するわ!」
オイ。 ちょっと待て!
俺は、滅茶苦茶強引な返品要求に逆に驚いた。
「封が空いている・・・?」
「なによ!?」
「あの、封が空いていますよ。 それにどんな保存方法でしたか? 領収書はありますか?」
「当たり前でしょ! 確認したんだから! 保存方法? そのまま放置してたわよ! っていうか早くお金返してよ!」
「領収書がなければ返品は出来ません」
「ハァ? 何よ?! 私は客よ? あんたじゃ話になんないわ! 店長呼んできなさいよ! 店長!」
店長と何度もコールするお客。
俺はうろたえながら、黒沢さんを呼びにいこうとしたとき、
「高石ィ。 俺に代われェ」
と黒沢さんに肩を掴まれた。
そして、人差し指で奥に引っ込めと合図をした。
俺は、その場に居たらマズイと思ったので、ヒュンと引っ込んだ。
そして、聞き耳をたてた。
「お客さん、何か不具合が?」
「あんた店長?」
「俺は店長ですが?」
「じゃ、いいわ。 このコーラ、炭酸が全部抜けてたのよ? どうしてくれんのよ? 金早く返してよ!」
俺はそろぉとレジの方を見た。
「面白ェ事言うじゃねェか?!」
「!?」
「!?!」
「・・・は?」
お客さんから出た言葉はそれだった。
「そのクレームはァ! 店の原因じゃねェだろォ?! なんで彼が保存方法を聞いた時にちゃんと答えなかったンだァ?」
「ほ、保存方法はそのまま置いてたのよ!って言ったじゃない!」
「そのままってなんだァ? 蓋をちゃんと閉めていたのかァ?」
お客さんはとうとう観念したように、
「あ、あぁ・・・。 蓋を閉めてなかったからかも知れないわ。 ご、ごめんなさいね。 さよならー」
と言って凄い速さで逃げていった。
俺はそろぉとレジに近づく。
「く、黒沢さん、あ、ありがとうございます」
俺は、見たのだ。
黒沢さんが俺を不良達から救ってくれた時の顔をしていた。
「あ? あぁ、あの人気を付けろよォ? あの人は『クレーム常習犯』って呼ばれているからよォ」
「クレーム常習犯ッスか」
「・・・そういえば、また名前間違えましたね」
黒沢さんはボケーと考えていたが、
「アン? あぁ、お前の名前って高石じゃ無かったっけ?」
「俺の名前は高石じゃ無くて高橋ですよ!」
覚えてくださいねと付け足した。
これは三石だったら可愛いのだろう。
俺は、頬を膨らませるなんて事はしない。
「いやぁ、まさかあの人また来るとは・・・。 ウチも面倒くさい事になるなァ」
ハァとため息をつく黒沢さん。
「なんか、黒沢さんの言ってる事が分かります。 絶対客に来てほしくない人ですね」
「まァ、お前になにもなくてよかったよ! さ、もう定時だ! 帰る」
「そうですね・・・って、まじすか?! ちょ、まだ作業が残っています、よぉぉー!」
いつもの開閉音が鳴り、ドアが閉まった。
俺の叫びは黒沢さんに届くことが無かった。
たぶん。
結局、俺が最後まで作業をした。
そして、深夜からの人が少し早めに来てくれて、交代した。

その帰り道に、逆ナンされかけている山内を見つけた。
夏なのに、冷たい風が俺の体に吹いた。
「俺には縁の無い状況だなぁ・・・」
こうして、俺はトボトボと家に帰ったのであった。
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