砕けた昴

プロローグ:幸せな現在

昴の軌跡

冬の夜、星宮家のリビングには、家族の温かな声が響いていた。

あゆみはキッチンで夕食の片付けをしながら、リビングにいるすばると子どもたちの様子を見守っている。

れん（7）は真剣な表情でボードゲームを進め、りお（4 ）はルールを理解せずとも楽しそうに笑っている。

その時、玄関のチャイムが鳴り響いた。

「誰だろう？」とれんが首を傾げる中、すばるは立ち上がり、玄関に向かう。

「久しぶりだな、すばる。」

そこに立っていたのは、大学時代からの親友であるゆうきだった。

カジュアルなジャケットにジーンズ姿、手には子どもたちへのお土産らしき袋を提げている。

「おじちゃん！」と駆け寄るりおに、ゆうきはにやりと笑った。

「おじちゃんって言うな、りおちゃん。俺はまだ若いんだからな。」

そう言いながら、しゃがんで頭を撫でる。

リビングに戻り、和やかな空気の中で会話が始まる。

「お前、最近いい感じだよな。」

ゆうきが茶化すような口調で言う。

「まあ、なんとかやってるよ。」

すばるが肩をすくめながら答えると、ゆうきはふっと笑い、少し遠い目をした。

「でも、本当良かったよ。すばるがこんな風に幸せそうにやってるなんて、夢みたいだよな。あの頃は……」

一瞬言葉を切り、ゆうきは冗談めかして続けた。

「お前、本当にボロボロで、運がなかったよな。悪霊に取り憑かれてるんじゃないかってくらい不運だったもんな。」

すばるは苦笑いを浮かべた。

「今でも覚えてるよ。出発するって時にタイヤがパンクしたあの事件。あれはさすがに笑えたわ。」
ゆうきが声を上げて笑い出す。

「お前、泣きそうな顔してたけど、俺は内心腹抱えて笑ってたからな。まったく。」
そう言いながらも、ゆうきの表情には少し安堵の色が浮かんでいた。


あゆみがそのやり取りを聞きながら、そっと口を挟んだ。
「すばるさん……何かあったんですか？」

ゆうきは肩をすくめながらおどけた口調で返す。
「いやいや、すばるの過去は重いぞ。そこらへんのダンベルより重い。」

その冗談に、あゆみがくすっと笑いながらも、興味深そうな表情を浮かべる。

「そんなに重いんですか？」
「ああ、俺が持ち上げてやるのも無理なレベルだったな。でも、すばる自身が持ち上げたのがすごいとこなんだよ。」

すばるは軽くため息をつきながらも、子どもたちが眠った後に話そうと決めたようだった。

「まあ、いずれ話さないといけないよな。あゆみちゃんにはちゃんと知っておいてもらいたい。」
その言葉に、あゆみは静かに頷いた。

その日の夜、すばるはその物語を話し出す。